外秩父七峰縦走ハイキング〜完歩レポート2007

去る4月22日(日)、友人の甘い誘い言葉に乗せられて(笑)、秩父山地の東はずれを舞台に行われた、「外秩父七峰縦走ハイキング大会」というイベントに初めて参加してきました。この大会に出てみようかなとお考えのみなさんのために、以下、当日のことを思い出しながらレポートしてみます。少しでも参考にしていただけたら幸いです。
このイベントは、東武鉄道(株)東上営業部が主催し、地元の観光協会などが協力して行われ、東武東上線小川駅」をスタート、東武東上線/JR八高線/秩父鉄道寄居駅」近くの旧町役場跡をゴールとする、全長42.195キロを歩く耐久ハイキングです。参加者は、その間、7つの山の頂(官ノ倉山は山頂近く)に設けられたチェックポイントや、いくつかの峠を経由しながら、ひたすらアップダウンのつづく山道を歩くことになります。一つひとつの山は、近隣の小学生が遠足で登るような、お手ごろな低山ですが、一日ですべて一気に(二年越しでの完歩もOK)、となると話は別。でも、途中でリタイヤしてバスで帰還することもできますし、その点では、こども連れで気軽に参加しても大丈夫だと思います。また、参加費無料にもかかわらず、多くのスタッフや地元の方がたに支えられた、すばらしいイベントでした。まずは関係者のみなさんの親切なホスピタリティに、心から感謝したいと思います。一日、どうもありがとうございました。
最初は、当日のコンディションを、気象や参加者自身などを踏まえながら、簡単に説明したいと思います。4月22日(日)の秩父地方のお天気は、前日までの雨まじりの予報がはずれ、おおむね曇りで時おり薄日が差す、という絶好のものとなりました。すべては、私の日頃の良い行いのたまものですので、私以外の参加者は、この私めに感謝しなければなりませんぞ(笑)。最高気温は27.7度とやや高め(平年は20度弱くらいかな?)でしたが、直射がなかったので耐えられないほどの暑さは感じられず、半そで短パンのランニング姿で快適でした。私は40代なかば、休みの日に、週1〜2日、1〜2時間程度のジョギングをするという、あまり熱心とはいえない市民ランナーです。具体的な走力で言えば、フルマラソンの平均タイムは3時間40〜50分、ハーフで1時間40〜50分というところです。本格的な登山経験は皆無に等しく、気が向いたら里山を散歩する、という程度です。ざっと、こんな感じのコンディションで、その日を迎えました。さて、こんな私の耐久ハイキングはどんな感じになったのでしょう。まずは、下の表をご覧になってみてください。
didgの「外秩父七峰縦走ハイキング」完歩記録
全行程の所要時間は11時間3分、平均時速は時速3.82キロでした。この間、食事時間も含めて休息らしい休息はとっていませんので、スタート地点で配布される地図にしめされている各区間の所要時間とは別に、実際のデータとして、来年度以降の参考にしていただけるかもしれません。
では、当日のことを振り返りながら、各区間の様子などを書いてみようと思います。
スタート[東武東上線小川駅」前]
受付が6:30から行われると聞いていたので、最寄り駅から始発電車に乗って、その数分前には駅に到着しました。するとびっくり。なんと駅前には数百メートルの行列。ざっと2000人以上は並んでいたと思います。受付で、記録カード、地図、タオル、参加賞(金属製の携帯ナイフ/フォーク/スプーンのセット・・・・東武さんったら、太っ腹!)を頂戴し、実際に歩き始められたのは6:50でした。早くも20分のロス。ちょっと心配になりはじめます。
スタート〜①官ノ倉山チェックポイント(CP)
標高差は250メートル近くあるようですが、距離があるので傾斜はほとんど気になりません。ほとんどが舗装路です。なにしろ数千人が一斉に歩き始めたので、道路は数珠つなぎ状態。特に、山道に入って路が狭くなると渋滞が激しさを増し、「くさり場」の数キロ手前から前に進めなくなります。「ここはディズニーランドか!?」と、思わず心の中でつぶやきます(そして、「天国への階段」は、さもありなん・・・・・なんちゃって?)。

事前の情報では、くさり場手前の渋滞は、小川駅発のAルートとは別に設定された「武州竹沢駅」スタートのBルートを選ぶと避けられるとありましたが、両コースの合流地点や官ノ倉(かんのくら)山の下山路も激しく渋滞しており、どちらを選んでも、ノロノロ状態は不可避ということになります。ただし、大会終了後、何度も参加しているという方が「去年までは、これほどの渋滞はなかった」とお話されていましたので、それは今年に限った事態だったのかもしれません。その原因は、第一に、去年までは6:30を待たずにスタートさせていたのに、今年はその時刻を主催者が守ったため、一度に多くの参加者が狭い登山道に殺到したこと。第二に、例年よりも多い8000人の参加を認めたことがあるのではないか、と、その方はおっしゃっていました。この点が例年通りにもどれば、来年度以降は、今年のような渋滞にはならないかもしれません。
①官ノ倉山CP〜②笠山CP
官ノ倉山を下ると、コースは一旦、のどかな山里を通ります。

しかし、登山道に戻ると、ふたたび渋滞がはじまり、笠山々頂に向かうあたりでは、またまたほとんど前に進めない感じになります。その行列の脇を、GWの高速道路の路肩をスイスイ走り抜けてゆくよな感じで追い抜いてゆく人が多数。ほとんどが分別ざかり、ダンカイ(?)世代オジサマやオバサマたち(嗚呼、美しい国ニッポンはいずこに?)。「最近の若いもんは・・・・」などとボヤく前に、おのれの振る舞いを鏡に映して見るべし・・・・・いずれにしても、こうした渋滞を絶好の食事時間と考え、ザックからおにぎりを取り出して腹ごしらえ。後にも書きますが、のんびり景色を見ながらお昼ご飯を、などと考えていたのでは制限時間内に完歩するのは難しいので、こうした食事方法は悪くなかったなと思いました。
②笠山CP〜③堂平山CP
堂平(どうだいら)は、東京大学天文台があることから、今回のルートの中では、最も有名な山かもしれません。

山頂付近は景色もよく、売店やトイレもありますので、通過時刻から考えても絶好の昼食ポイントになると思います。ただし、一日での完歩を目指す方は、そうそうのんびりもしていられません。
③堂平山CP〜④剣ケ峰CP
堂平から1キロ足らずの剣ケ峰は、このルートでは最も標高の高いポイントになります。私は、この剣ケ峰に登る階段部分ですでに、だいぶ脚に来ました。悲鳴を上げはじめたのは、なんでも伸筋と縫工筋とよばれる筋肉だったようで、普段のジョギングやマラソン大会ではそれほど酷使しない部分です。深刻な痙攣が起こる前に、持参していた「芍薬甘草湯」を服用。これは痛みを伴う筋肉の痙攣に効果がある漢方薬です。富士登山競走に出る人などには有名で、不思議なことに、漢方にもかかわらず即効性があります。不意の痙攣が心配な方には、持参されることをおすすめします。
その後、意識的に内股で歩くなどして、大腿四頭筋など、太ももの外側の筋肉をつかうようにしてゴマかしました。でもやはり、日頃から、ランニングだけでなく、自転車などを利用して、脚を伸ばす時につかう筋肉をもっと強化しておくべきだったかもしれません。また、足首で地面を蹴るようにして、ふくらはぎの筋肉を活躍させながら前進する方法は、マラソン・山登りを問わず、長時間の運動には適さないような気がします。持久的な長時間の酷使には、ふくらはぎの筋肉は小さすぎるからです。ふくらはぎよりは大腿部、大腿部よりは臀部や体幹部のより大きな筋肉のほうが長持ちしますから。
④剣ケ峰CP〜⑤大霧山CP
剣ケ峰から大霧(おおぎり)山へは、白石峠と新旧の定峰峠を経由します。白石峠を過ぎるとすぐに、170段あまりの長い階段が現れます。萎えた足にはトホホな試練です。このあたりが、ほぼ中間地点になります・・・・・そして、ここでも、見慣れた「天国への階段」渋滞が!

そんな苦行(?)も、辛いことばかりではありません。定峰峠手前の山腹で、カタクリの群生に出会いました。今回のルートには絶景の展望ポイントは「点在」って感じですが、足元のこうした名所ならいくつもありますよ。

さらに進んでゆくと、登山道から新定峰峠が見下ろせます。先行する参加者たちが思い思いに休息をとっているのが見えます。ここには常設の売店がありますが、飲み物の多くが売り切れになっており、やはり、飲みたいものは事前に用意しておいたほうが良いと思いました。先に書いた筋肉の痙攣を未然に防ぐためには、お茶やただの水よりはスポーツドリンクのほうがベターですよね。今回のように気温が上がってくると、発汗量も多くなりますから。

定峰峠は、今ではすっかりローリング族のメッカになっちゃいました。この日も、登山道にまでエンジン音が響いていました・・・・・峠につづく大霧山々頂手前は、短いながらもかなり急勾配になります。
⑤大霧山CP〜⑥皇鈴山CP
大霧山の下山ルートも急勾配です。もうブレーキが利かなくなっているのでしょうか、体重にまかせて走るように下って行く人が多くいました。危険です。実際この日も、その下り坂で足首をくじいて動けなくなった人が出たようで、上空を救助ヘリが飛んでいました。そんな緊急事態にあって、地上の救急隊員に「俺も乗せてくれよ〜、疲れたよ〜」と悪い冗談を言うおじさんに遭遇。もちろん、誰にも笑えませんでした。
この区間のほぼ真ん中あたりに、秩父高原牧場があります。夏場になると斜面に乳牛が放牧されるのどかなところで、絞りたての牛乳やソフトクリームなども味わえます。車でも来られますし、眺望もすばらしいところですから、お休みの日にでもご家族・カップルでいらしてみてくださいね。
しばらくつづく舗装路を歩くと、最後の登山道を皇鈴(みすず)山に向かって上ります。チェックポイントも残り2つ。脚の疲れはピークを過ぎたのでしょうか、意外に元気に動いてくれます。さ、もうひとふんばりだ!
⑥皇鈴山CP〜⑦登谷山CP
皇鈴山から登谷(とや)山までは1キロあまり。その間の痩せた尾根から、ゴールの寄居(よりい)の町並みが見下ろせます。ゴール手前の青い正喜(しょうき)橋も見えますが、あまりにも遠くに見えるのでがっかりするかもしれません。

この日の数日前、里が冷たい雨に打たれた日、登谷山の山頂には雪が降ったそうです。でも、その名残はまったくなく、雲の間からは、初夏の青空が覗いてきました。
⑦登谷山CP〜ゴール
最終チェックポイントを過ぎると、その後は、ほぼ10キロの曲がりくねった舗装路を淡々と、ひたすら、ただただ歩くことになります(うなだれた参加者たちの姿は、戦時中のナントカ半島死の行進を想像させます)。ここが長い。実に長く感じられます。途中、中間平(ちゅうげんだいら)という展望ポイントと、近隣では有名な名水「日本(やまと)水」の給水所がありますが、それ以外は、単調な道がつづきます。

制限時間が心配なのでしょうか、走って下って行く人が何人もいました。でもコースを走るのはご法度だし、なにしろ私にはもう、そんな力は残っていません。この辺に来ると携帯も使えるようになったので、別行動をしていた友人に電話。「ゴール後に一杯やろうぜ」。うつむきながらも、それを楽しみに最後の力を・・・・・。
鉢形(はちがた)城跡が近づくと、荒川のせせらぎが聞こえてきます。ゴールももうすぐ。次の交差点を左に折れれば、ゴール直前の正喜橋です。まだ6時前。どうやら18:30の制限時刻には間に合いそう。やれやれ。

ゴール[旧寄居町役場跡地]
そして、17:53、11時間3分の苦行の末、なんとか制限時間内にゴール!

ゴール地点の旧寄居町役場跡地(缶ビールや焼きそばなどの屋台あり!)で記録カードに最後のスタンプを押してもらい、完歩賞をいただきました。完歩賞は、キャップかウエストポーチのうち、希望の一方をもらうことができました。私は、ハゲ頭を隠してくれるほうのブツを、迷わずチョ〜イス。なかなかの品。東武さん、おおきに!

雑感など
帰宅電車で寝過ごして、日常的に、20キロ30キロを徒歩で、しかも酔い覚めの状態で完歩というツワモノの友人の紹介で参加した今回の外秩父七峰縦走ハイキング大会。「いくらアップダウンがあるといっても、所詮は『歩き』だろぉ。ちょろいぜ」などと考えたのが、甘かった。フルマラソン完走と比較すれば、今回の耐久ハイキングのほうがはるかに過酷でした。参加に心が動いている世のマラソンおやじのみなさん、ナメないほうがいいですよ。使う筋肉も違うしね・・・・・。
とはいえ、これまでの草マラソン体験が無力だったわけでもないようです。
日頃、運動に親しんでいない方は、もしこの大会にチャレンジするのでしたら、(当日とことん苦しむこと目指すなら話は別ですが)少しはトレーニングしておいたほうがいいです。先に書いたように、週末派怠け者ジョガーの私ですが、その程度のトレーニングでも、今回、息が切れるようなことは一度もありませんでした。また、根性とは無縁のLSD的なトレーニングも役に立ったと感じました。LSDは、"Long Slow Distance"の略で、最大心拍の50〜60%程度の軽度な負荷の運動を、ひたすら長時間継続して行うものです。目的は、末端の毛細血管の中に血液が流れるようにし、効率的に筋肉内に酸素を供給、かつ、筋肉内の疲労物質や二酸化炭素を排出できる、疲れにくい体に改造することです。また、2時間以上の長めのLSDを行ってみると、体内のグリコーゲンが空っぽに近い状態になり、その後しだいに体がグリコーゲンといっしょに脂肪を燃料に動かせるようになるそうです。10時間以上も体を動かしつづけるというのは極めて非日常的なことですから、そうした事態を自分の体と体に経験させておくことは効果的だと思います。
次に、制限時間の問題です。
このイベントでは、最早朝6:30から歩きはじめられ、夕方の18:30までにゴールすることが定められています。また、走ることは禁止されており、随所で渋滞が発生するものの、その脇を平然と進めば人間性を疑われかねません。というわけで、この大会では、①最長12時間のあいだに、②イライラ心を押し殺し、かつ、理性とモラルを保ちながら、③自分のペースではなく行列の動く速度にあわせて、④決して走らず、歩かなければならないということになります。今回この条件でやってみたら、11時間かかりました。単純に考えれば、2年にまたがらず1回の参加で完歩するためには、計1時間以上の休憩は許されない、ということです。もちろん、6:30のスタート受付時刻には、出発までの待ち時間を想定してもなお、小川駅に到着していることが求められます。食事は、おにぎりやサンドイッチなどを小分けにし、渋滞や歩いている最中に随時とるのが良いでしょう。効率的なエネルギー補給、という点においても、理にかなっています。
装備については、気象条件にあったものであれば、そんなに本格的なものは要らないと感じました。先に書いたように、私は、半そでのTシャツと短パンで歩きました。シューズは、クッション性重視のトレーニング用のランニングシューズでしたが、多くの方は、トレッキングシューズをはいていました。捻挫などが心配でない方は、ハイカットのものは避けたほうがいいかもしれません。全行程の半分近くは舗装路ですし。これも繰り返しになりますが、食事は行動食的なものを小分けに準備し、歩きながら食べるものがベターだと思いました。ストックの使用は禁止とのことでしたが、ノルディックウォーキングで使うような先のとがっていないものはOKみたいで、スタッフも特に注意しておらず、使っている人もたくさんいました。歩行の補助という意味だけでなく、両手を下げて歩くと手がむくんでしまうというような方も含めて、持参しても大丈夫なんじゃないかな・・・・・・。
参加者の年齢層ですが、ざっと観察すると、50代・60代とおぼしき方がたの層が一番厚かったように見えました。グループで参加している人と、単独で参加している人の割合は半々って感じだったでしょうか。ともあれ、一人で参加しても、ディズニーランドに一人で行くような疎外感や孤独感は味わわなくてすむと思います。
どうにも方向オンチで、道に迷いそう・・・・・そんな心配も無用です。多くのスタッフが配置されており、また、案内板も随所に立てられていますから。それに、なにしろ全行程にわたって人人人です(笑)。
さ、最後に、順位についてです。この大会は速さを競うものではありませんが、参考までに、紹介します。最初のチェックポイント(官ノ倉山)手前で、カウンターを持ったスタッフの方が、「あなたは2540番です」と教えてくれました。これは、たしかA/B両コースの合流手前でのことしたので、実際には3000から4000番くらいだったと考えられます。全参加者が8000人程度と言われていますから、その半分近くの人は、6:30のスタート受付時間近くに集中しているようです。そして、皇鈴山CPか登谷山CPでは、「2024番です」と言われました。その私がゴールできたのが17:53。ゴール後もしばらくゴール地点にいましたが、それほど集中して人がやってくる感じでもなかったので、制限時間内にゴールできた人は、多く見積もっても、2500人を大きく越えることはおそらくなかったのではないかと思いました。けっこうシビアですね。市民マラソンでは、こんな完走率は、まず考えられません。
以上いろいろ書きましたが、楽しい一日でした。「来年も出るの?」と聞かれたら、「もちろん」とは即答できませんけど、ね。もし、今年の大会に参加された同士の方がこの日記をお読みでしたら、ぜひ、コメントしてみてください。楽しみにしています。もちろん、来年出てみたいとお考えの方のコメントやご質問も大歓迎です。そんなわけで、このへんで即席レポートを終わりにします。最後までお読みいただき、ありがとうございました。