【執着の分散理論】にあえて補足を加えるとしたら


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とんどの男に共通するフられる理由、それは、「余裕がなかった」からだ。…〈中略〉…同時に何人もの女を口説くことによって、「別にフられてもいいや」という心の保険を獲得し、好きな女の前でもテンパらずに常に余裕を保つこと


これは、『夢をかなえるゾウ』などの著作で有名な水野敬也氏の真に評価されるべき一冊、『LOVE理論』に登場する恋愛五大陸理論のうちの一つ、【執着の分散理論】です。


これによれば、一般的に女性は心に余裕のある男性に惹かれる。そのため男性側はあえて複数の女性に同時にアプローチを掛けることによって、「こいつにフられても、まだ持ち駒はあるから」という安心感が得られ、結果的にアプローチ成功率、もとい性交率が高まる、らしいのです。これは「アプローチポートフォリオを組んだ」、と言えるのではないでしょうか。


ところで、大変頭の切れる先輩から、僕は以前このような話をされました。就職活動内定獲得数の話です。


「そもそもシンプルに考えて、
〈内定数〉=〈エントリー数〉×〈ES通過率〉×〈筆記通過率〉×〈面接通過率^n〉
でしょ。どの変数が上向いても内定数に対してプラスになるわけ。だったら確実に増やせる〈エントリー数〉から増やすべき」


まさにその通りです。さらに言うと、就活においても「もう持ち駒がない…」という切羽詰まった状況下では落ち着いて選考を受けることなんて出来っこないでしょう。これが【執着の分散理論】でいうところの「テンパっている」状態なわけですね。


恋愛成就回数を上のようにごく簡単に定式化すると

〈期待性交回数〉=〈試行回数〉×〈性交率〉

ですので、【執着の分散理論】は表面上はテンパらないことによる〈性交率〉の上昇をうたってはいますが、その方法として「複数の女性への同時アピール」を持ち出しているので、結局〈試行回数〉も高めなさいよと言っているのです。

関係する全ての変数を高めること、改めて考えると当たり前ですが、意外に多くの人がそのことに気付けていないのかもしれませんね。


試しに計算してみます。
通常、1人の女性にアプローチしてからの性交率が5%であるとして、一途な彼が思いを遂げられる確率は当然、5%です。まあ、望み薄ですね。


ここでアプローチ人数を5人に増やしてみましょう。また、持ち駒を得た彼はその余裕を身にまとい、性交率が8%になっていたとします。
このとき、1人以上の女性と共寝できる確率は、

1ー5C0(92/100)^5≒34% になります。確実とは言い難いですが、この数字ならば首位打者も夢ではありませんね。

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ただし、この理論には1つ重要な注意事項が不足しています。この記事を読んでいる人の多くは「うわ、チャラい。あと、キモい」とお思いのことでしょう。

そうなのです、この「複数アプローチ」という手段は、それが発覚すると「チャラ男」「痛い奴」「保菌者」という悪評を周囲から頂くことが必至なのです。水野氏はここの、実際問題最も重要な部分の説明を怠っていたのです。


上の例でのアプローチ先5人を、職場などの1つのコミュニティ内からのみ選定すると、並行作業が発覚した時にすぐさま悪い噂が、いわば「負の外部性」が生じます。1人に対する失敗が、他の4人全員に波及しかねません。それぞれのリスクが互いに独立していないのですから、せっかくのアプローチポートフォリオが全く保険としての役割を果たせていないことになります。


これと同様のメカニズムが働いたのがかの有名なサブプライムローン問題です。互いに連動性を持っていた複数の住宅ローンを債権化して販売したために、大数の法則によるリスクヘッジが成立しなかったという事例は、まさしく【執着の分散理論】にも同じことが言えるのではないでしょうか。



ポートフォリオを組んで心に余裕を持つのであれば、個々のリスクを独立したものにすべく、各アプローチ先を異なるコミュニティから選定する必要がある。この注意を、水野氏はすべきだったのではないでしょうか。


最後まで読んで下さってありがとうございました!『LOVE理論』、とにかく面白いのでオススメです。