『ミステリーズ!』Vol.17 2006年6月 ★★★☆☆

シャーロック・ホームズ変奏曲」07中村隆
 知らないお名前でしたが、『あなたが名探偵』を手がけると聞いて思い当たる。おお、なるほど。あの点々はたしかにそうです。

「私の一冊〜多分、一九七三年頃の『萌え』〜」西澤保彦
 西澤氏の一冊はクリスティ『ふたりで探偵を』。トミーとタペンスもの。「萌え」といわれるとそうかも。タペンスのキャラはめちゃくちゃ立ってます。わたしがクリスティのなかでいちばん好きなシリーズです。

「私がデビューしたころ〜脇道〜」田中啓文

「乱入!」杉江松恋(トンパチパチ 第一試合)★★★☆☆
 ――祖父からの借金を返済してもらうべく、東はプロレス団体社長・円豪胆に会いに行ったが、ジムはおりしも入団テストの真っ最中。遅刻魔の円が来るまで、なぜか東はスクワットをしながら待つ羽目に……。

 評論家杉江松恋の小説作品。佳多山大地も小説を書いてましたが、笠井潔だって評論家であることを考えればそれほどヘンなことでもないのかも。プロレス・ユーモア・ミステリ。
 

「憂さばらしのピストゥ」近藤史恵★★★☆☆
 ――三船シェフが以前いた店で働いていた見習いの南野くんが店を出したそうだ。「パ・マル」はといえば、ベジタリアンがやって来た。

 ミステリではありません。道徳の授業みたいな話。
 

「薄明の王子」芦原すなお《ミミズクとオリーブ》シリーズ★★★★☆
 ――ぼくはプロレスのファンである。醜聞警官の河田が相談にきたのは、プロレスラーの怪死事件についてだった。人気レスラーが引退試合の最中にバックドロップで亡くなったのだ。事故のようだが河田はすっきりしないという。

 杉江作品につづいてプロレスへの愛に満ちた作品です。怪しいことが多すぎて真相が見えません。プロレスの“約束事”にはいろいろなものがあるようで、これじゃあまるでプロレスはミステリ・トリックの宝庫ですな(^^;。
 

「私の一枚」麻耶雄嵩
 プロコフィエフ『ピアノ協奏曲第一番』。
 

「大地を歩む」石持浅海★★★☆☆
 ――国元真一は、クレジットカードで航空マイルを貯める陸マイラーだった。部屋の中には死体がひとつ。「不思議ね」ムーちゃんが顎をつまんだ。「国元さんがどうしてこんなに現金を持っているのかしら」

 ロジックの善し悪しはともかくとして、やっぱり死体を無視して“なぜこんなに現金があるのか”を議論しだすのはあまりにもおかしい。密室トリックができたので密室にしましたっていうのと変わりないじゃん。作中で言い訳しているけれどもまったく説得力がない。言い訳しているということは、不自然なことに作者も自覚しているということであって、知ってて知らんぷりするのは質が悪いと思う。
 

更新世の殺人 モザイク事件録」小林泰三★★★☆☆
 ――発見された死体は百五十万年前の地層から発掘されたものだった。名探偵Σが謎を解く!

 名探偵パロディのギャグ。わたしは東野圭吾の『名探偵の掟』なんかも笑えなかったしこういうのと相性が良くない。チェスタトン「グラス氏の失踪」の名探偵パロディは面白かったんだけどな。
 

「藁と灰とそら豆」諸星大二郎★☆☆☆☆
 最終回ということで好き勝手にやってます。のびのびとというよりも、はめを外して。狐窪という名探偵は書評で紹介されている『殺してしまえば判らない』の狐久保のパロディでしょうか。
 

「トワイライト・パープル〜ピイ・シリーズ8〜」菅浩江

「ミステリーズ・バー16〜御輿とアブサン海堂尊
 いかにも大学生らしい馬鹿な酒の飲み方が紹介されてます。このノリはなつかしい……。
 

「COMICAL MYSTERY TOUR」いしいひさいち
 『死のエンジェル』『悠久の窓』『白薔薇と鎖』『厭魅の如き憑くもの』
 

「知らされた男」ジョナサン・キャロル市田泉訳(Alone Alarm,Jonathan Carroll,1996)★★★★☆
 ――ちくしょう。妻はどこにいるのだろう、いま。妻の相手を見たことがある。タトゥーを入れたやつだった。妻を忘れようとあらゆることを試してみた。心を逸らしてくれるものならなんだっていい。酒を飲んでいると、ミスター・タトゥーが現れた。

 ジョナサン・キャロルがひさびさの新訳『蜂の巣にキス』および旧訳の文庫化でにわかに盛り上がっている。遅まきながら、文庫化された短篇集『パニックの手』を読んでいる最中。残酷とか悪意とかいう言葉じゃ追いつかないほどエグイ。悪意の質はシャーリイ・ジャクスンのような“日常の悪意”なんだけれども、それがもっとえげつなくサービス過剰に供される印象。この作品も、そんないやーな悪意が楽しめる(?)。この気持はわかる。わかるんだけどね。冷静に考えると馬鹿以外の何ものでもないのだけれど。
 

「隠された知恵 山内一豊の妻の推理帖 第三話」鯨統一郎★★★★☆
 ――秀吉に呼ばれて牛川丑蔵が姿を見せた。「何なりとお申しつけください」「では申しつける。死ね」丑蔵は一瞬、返事ができなかった。「まあ待て。真に死ねと申したのではない。忍びがいるのだ。おまえが死んだことにしたい」……どのようにして死んだことにすればよいのか。相談された一豊も困り果てた。

 あまりにも堂々とした伏線、毎度お馴染みの史実とのこじつけも楽しい。「蓑虫」はね、まああんまり。
 

アメリカ珈琲の謎」松尾由美安楽椅子探偵アーチー》シリーズ★★★★★
 ――衛は中学入学にそなえて学習参考書なるものを購入しようと思い立った。買い物が終わり店でドーナツを食べていると、男の声がした。「そこ、いいかな? コーヒーを飲みに来たんだけど、誰かとおしゃべりできたらと思って」差し出された名刺には、野山芙紗から聞いて知っていたミステリ翻訳家・渡辺俊樹の名前があった。小銭を忘れた渡辺に三十円を貸した衛は、後日返してもらう約束をしたが、約束の日、渡辺はドーナツショップに現れなかった。

 今回の作品は、アーチーの推理がありません。推理どころかアーチーの出番自体があまりありません。しかも衛はもうすぐ小学校を卒業。これはもしかするとシリーズが終わってしまうのでは……という嫌な予感にかられました。物語自体はアーチーの推理がなくたって、魅力的な謎があります。ミステリとしては初歩的なテクニックがうまくきまっているので、もういちど読み返してみて関係者たちの行動をふたたび確認してみたくなりました。
 

「本格と論理――道尾秀介『骸の爪』」笠井潔《人間の消失・小説の変貌》17
 第三の波以降では、古いタイプ(正統的なタイプ)のミステリの書き手が少なくなっているということは、いちがいに“ミステリの仕組みを解する人間がいない”ということではなくて、新しいミステリが生まれる可能性があるということでもある。あるのだけれど、やはりその可能性があるのは本格指向の一部の作家だけなんだろうな、と思うと悲しい。
 

「お楽しみTV」第16回 「ロアルド・ダール

レックス・スタウトリベラリズム杉江松恋《路地裏の迷宮調査》17
 そうか『料理長が多すぎる』ってそんな話だったのか。本格一辺倒だった中学生のころに読んだきりで、そのときは本格度(トリック度)がものたりなくてつまらなかった記憶しかないので、もういちど読み直してみたい。いまじゃ大好きな海外ミステリ作家ベスト5には入るようなお気に入り作家になってしまった。つくづく月日の経つのは……。
 

「MYSTERIES BOOK REVIEW」
 宮脇孝雄紹介の『殺してしまえば判らない』射逆裕二、若竹七海紹介の『青チョークの男』フレッド・ヴァルガス、中村有希紹介の『夏期限定トロピカル・パフェ事件』米澤穂信戸川安宣紹介の『久山秀子探偵小説選3』久山秀子

 『ミステリマガジン』のレビューを読んだときも意外だったのだけれど、どうやら『青チョークの男』は粗筋や雰囲気から感じるよりもどうやら面白いらしい。『ミステリーズ!』で読んだ『夏期限定〜』の一部は面白かった。『久山秀子〜』はマニアックすぎるよ。
 

本格ミステリ鑑賞術 第六章 動機の問題」福井健太
 わたしがミステリを読んでいてわくわくしてしまうのは、「巧妙な伏線」「はったりかましたような豪快なトリック」「泡坂妻夫のような天空のロジック」そして「異常な動機」が描かれているときだったりするので、今回のテーマはまさにツボ。いやあ、わくわくする(^^;。
 

創元推理文庫 海外ミステリ・チェックリスト」 「『ミステリーズ!』創刊3周年記念特別企画」と銘打っているわりには地味な企画ですが、でもやっぱりチェックしてしまいます。こうして一覧にしてしまうと意外と少ないものなんですねぇ。クレイトン・ロースンが読みたい、だとか、『ディナーで殺人を』は品切れになってしまったな、とか、デイヴィッド・マレル『トーテム』はミステリなのか、とか、そういえば『アイリッシュ短篇集』も品切れだよ、とかいろいろ楽しめる。
 

「Mysteries' Library」「創元推理文庫と007」
 007は映画『ドクター・ノオ』しか見たことがない。本来はあの『ウルトラマン』の特撮的な敵の面々を楽しむべき映画なのであろうが、見た当時あまりのチープさに脱力してしまった。本来はきっとスパイ・アクション映画でもなんでもなくって、『ウルトラマン』とか『仮面ライダー』(『ゴジラ』も?)などの特撮ヒーローものなのだ。そう考えれば、『007とムーンレイカー』の表紙を見てもずっこけるのではなく大喜びすべきである(きっと)。
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