不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

謎を解け

 また記憶が薄れてきているので、再びまとめてざっくり感想を。この書き方になれると、ついつい安易な書き方へ流れてしまいそうになるので注意せねば。書くならきっちり書きたいし。何で苦しい思いをしてまで映画感想書いてんのかと自分で突っ込んでおくが。

 ゴーストライター』(監督/ロマン・ポランスキー、出演/ユアン・マクレガーピアース・ブロスナンオリヴィア・ウィリアムズ。動きが少なく無言でありながら雄弁なオープニングから、「ゴースト」に初めて肉体が宿る余韻溢れるエンディングに至るまで、曇天模様の下で繰り広げられた極上のサスペンス。ポリティカルサスペンスとしてはやや弱いし、Googleが万能すぎたり、カーナビであんな事は起きないのではと突っ込みを入れたくなったりもするが、政治的社会的メッセージを排してエンターテインメントに徹していたのはよかった。何より回想を使わずに、あくまで現在進行形で物語を綴っていく手腕は見事なもの。演技の面でもどこか虚ろなマクレガー、空虚なブロスナン、おぼろげなウィリアムズなど、まるで実体がどこかにあるかのような人々を巧みに演じていて、よかった。
 おそらく監督が頭に浮かんだイメージは完全に具現化されていて隙が全くないわけだが、それが不満といえば不満で、ふとした瞬間の逸脱――物語においても演技においても――がないところにグルーブが生まれるわけもなく、スッと旅立ってストンと帰って来る。スマートであるけれどトラブルがない人生はつまんないよねと、ここまでの一級品に言うのは酷すぎるかもしれないけどね。

ススキノディック


 探偵はBARにいる』(監督/橋本一、原作/東直己、出演/大泉洋松田龍平小雪西田敏行。ネット界隈の評判に違わず、上質な国産ハードボイルド。渋くまとめていて、突き抜けるものはないが悪くない。むしろいい。俳優の配置は適材適所だったし、ギャグも滑らずに笑える。大泉洋は最初は固かったが中盤から俄然興に乗って演じ、その大泉と松田龍平のコンビネーションが薄めだったのが残念だが、そちらはすでに制作が決定されている次作以降に期待したい。予想外だったのが小雪で、失礼ながら初めて演技をして、よく見えた。あの大立ち回りの身体のキレのなさはご愛敬か。
 何度も書いているように、「探し求め、辿りついた時には探していたものは変わっていた」というハードボイルドの原点に忠実に従っていて(そもそも原作が古典的ハードボイルドなのだが)、様々な探偵もののオマージュも多数。目指しているのは「濱マイク」と『探偵物語』だろうが、きちんと育てていけばそこまで辿りつくかもしれない。日本映画界、やりゃーできるじゃないか。

恋は血の色


 『モールス』(監督/マット・リーヴス、出演/クロエ・グレース・モレッツ、コディ・スミット=マクフィー、リチャード・ジェンキンス。遅ればせながら見たのだが、起承転結から承を抜いちゃったように思えた。省略やジャンプなどの演出ではなく、単にごっそり抜いた感じがして、そこを構築しておかないとあの二人の孤独と共感が呼びにくい。動きが思いのほか激しいのはまだいいとしても、もうちょっと黒と白と赤の三色をうまく使ってほしかったが、なんせ明りに関しては縛りがあるのでちょいと無理な注文か。
 ファンタジーとリアルの境界線ギリギリで佇む、その筆致は嫌いではないのだが、最終的にはキレイにまとめてしまい、あれだけの血を流し、大いなる循環へ身を投げ出したのだから、その決意、悪意、皮肉をもう少し捉えて欲しかった。よくも悪くも細部まで考えられていて、そのぶん音楽が少々うるさかったのが残念。傑作の呼び声高いリメイク元『ぼくのエリ』はまだ見ていない。ぜひ見てみなければ。

72時間後の先は


 『スリーデイズ』(監督・脚本・製作/ポール・ハギス、出演/ラッセル・クロウエリザベス・バンクス。スリルとサスペンスはそれなりにあったんだけど、どうにも抜けが悪い。細部にまでこだわり、3年前、3カ月前、3日前という流れや、部屋の壁紙の使い方、プランの練りとその準備などの演出は見応えたっぷりだが、そのせいで130分とかなり長くなっていた。綿密な描き込みからドラマを作り上げようとしたのだが、かったるい。3日前からに絞り切った方がよかったのでは。
 綿密なのに空白あり。その空白は言うならドラマ部分で、愛と狂気なのか、愛の狂気なのか、狂気の愛なのかが見えてこない。それは人間が見えないとも言えるかもしれない。致命的なのがラッセル・クロウが貫禄と迫力があるところだろう。あるシーンで銃を構えている様は、どう見ても撃ちなれてる姿。それ以外でも怯えや葛藤があまりに見えなかった。
 あと、これは個人の好みかもしれないけど、この結末のあと彼らはどうなってしまうんだろうなぁと心配になってしまった。逃げた先に楽園なんてありはしない。それでも愛する人と過ごしたかった、のかなぁ。