赤秋 仲代達矢・喪失からの出発/NHKBSアーカイブス


タイトルが気になって録画予約しておいた番組を視聴。
2005年度の制作(放映)番組との紹介が。

番組サイトのリンク

赤秋(せきしゅう)とは、今は亡き仲代達矢夫人の造語とのことで、
青年期の青い春、青春に対する、老年期の赤い秋、で赤秋とのことらしい。
真っ赤に燃える秋を真っ赤に生ききる、誇り高く老いるために。
そして死という冬を迎えたい、と仲代は語る。

愛妻に先立たれた喪失感を抱えながら、
自らも台詞がなかなか覚えられない記憶力の低下という
忍び寄る老化の進行と戦い、
老いをテーマにした舞台劇(映画化もされた)『ドライビング・ミス・デイジー』の、
老運転手ホーク役に挑戦する、という

「老い」をめぐる三重構造の、構成の妙が光る佳作だった。

問い合わせの多い過去作を「選りすぐって」再放映する本番組の、
今週のテーマが「喪失そして再生へ」なんだそうだ。

心の拠りどころを失ったり
愛する人をなくしたり
そんな悲しみの中から
再び立ち上がろうとする人々を描いた番組を
三日間にわたって取り上げる、と放映前のアナウンスあり。

上記が『カーネーション』のテーマと被るのは、よもや偶然ではないだろう。
これはNHKの、先の震災を睨んだ上での制作方針に他ならない、そう思う。

被災者の方々、とりわけ老齢の方々へのエールであると共に、老年予備軍
(誰もが例外なくいつかはそうなる、この運命からは逃れられない誰一人とて)
への想像力喚起の意味合いもあるのかもしれない。

自分だけは永遠に若いかのような浅はかな自尊心が
急速にしぼむのも時間の問題、と言いたいのか。

確かに。
老いや死と無関係でいられる者などいないのだから。

仲代達矢曰く、
20代30代の頃は、60過ぎたら、超然と慌てず騒がず悟りきって
死に向かっていくものと思っていたが、
60も過ぎ、今70代になってみて、若い頃考えていた「老い」とはまるで違う、
いまだにジタバタ足掻いている(つまらないことで悩んだりする)自分がいる、とのこと。

そうか、そういうものなのか、と興味深く拝聴。

能登半島の寂れた過疎の町に、仲代監修の劇場(能登演劇堂といったか)があって、
そこからお芝居の巡業がスタートするのが
無名塾(仲代率いる演劇集団)の恒例なんだそうだ。

そのご当地での、畑仕事や漁を生業とする
70〜80のジジババの元気パワーがすごすぎる。
楽しく朗らかに働く姿にもまして、男女のたくましさの「格差」が面白すぎる。

夫は妻が亡くなったら一緒にくたばるかもわからんと弱気発言、
それを間接的にスタッフから伝え聞いた妻は、あっはっは!と大爆笑、
面白いこと言うてくれる、とウケまくる。
ばあちゃんかっこええー、じいちゃんかわええー、みたいな。
ま、そんなもんなんだろう(苦笑い)何処もだいだい

『ドライビング〜』の舞台を観たある人の感想の
俳優人生の年輪が、キャリアが反映されて、素晴らしかった、というのに同意。

蛇足ながら『カーネーション』の糸子役が夏木マリにバトンタッチされたことは
好意的に受け止めているので、これも念のため。
特殊メイクへのリスペクトの件と、主役交代劇の是非の件は、
別の話だから混同はしない。するわけがない。
選択可能な限られた条件下で、少しでも最善と思われる選択をしてくれたと
まるごと製作陣を信じて、受け入れる。それだけのことだ。

ところで、本番組制作時の仲代達矢の年齢が72、また舞台で奈良岡朋子演じる
デイジーという老女の年齢が終盤では90を超えている、らしい。

もしや脚本の渡辺あやは、この番組を参考にカーネーションを練り上げたのでは
(2005の当時視聴したのでは)ないかとの思いが一瞬よぎったことだ。
まあその可能性がゼロとまでは言えないわけだが。





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