家盛決起(14)嵐の中の一門(15)/平清盛

先週分も併せて。

まず14話。家盛決起。

中島由貴(ファーストネームは「ゆき」と読むのか「よしたか」と読むのか)演出が、映像の色味にコントラストがつき、他の演出家程度には見易くなっていた14話。

お家分裂の罪を問うなら、一に忠盛、二に清盛の順なんだろう。
嫡男の家盛とその母宗子に忍耐を強いてまで、貰い子清盛に家督を譲ろうと思い定める、それも一門の総意を無視した単独強行で、という長年の無茶のツケがまわってきた格好。

時子にくっついてきた時忠@チンピラ風情までが、清盛が近くにいるのを知っていながら大っぴらに批判するのも、忠盛のここにきての迷いが露骨に反映された結果だろう。
かつて清盛に諭した「心の軸」が、忠盛自身、皆の前でブレてしまった。
それを皆が敏感に察知した(それこそ空気を読んだ)だけのこと。
棟梁としての孤独と重圧を、一人で引き受け耐えてきた父の心情にも、ついに迷いの毒が忍び寄る。

清盛は、「平家の繁栄」を飛び越えて、可能性未知数の「世の変革」に関心が向く大風呂敷気質(だよなあ)が災いし、一門の不信を招いたが、これも諸刃の剣で、器が破格な、今は眠れる獅子たる清盛なればこそ、既存の枠組みをぶち壊す新しい思考が可能ともいえる。

にしてもこの回の家盛には落胆しきり。子供時代の甘ったるい回想シーンで盛り上げられても、逆に気持ちは萎えるばかり。
結局のところ家盛は何がしたかったのだ、唐突に自己陶酔に付き合えと強要してくるこの流れはなんなんだと、意表をつくスイーツ展開に呆然となった。

たしかに巧みに甘言弄して陥れた頼長も悪かろうが、かといって、ツッコミ待ちの隙だらけな本人の落ち度がチャラになるわけもなく。
自己が希薄ゆえ、周囲の声に影響されまくりな有り様を、単に優しさと持ち上げるのには抵抗がある。

比叡山の坊主どもが、自分らの面子を潰した清盛を恨み、熱心に呪詛することの滑稽。
聖職者にあるまじき堕落にして、あきれた暇つぶしに、清盛ならずとも、嘘で塗固めたセコい神輿なんぞ射てしまいたくなる。



続いて15話。嵐の中の一門。

家盛の亡骸に取りすがらんとする清盛を、触れるでない!と頑としてはねつける宗子。
今となっては因縁の木登り事件(家盛が落ちて怪我をした)以来の、この二度目の「母」からの拒絶は、清盛には相当にこたえたはず。

「お前が死ねばよかった!」を清盛に何度となく言い募る忠正の、神輿事件にこじつけた八つ当たりも酷いもの。

叔父さんも大概責任あると思うが。それに分裂を招いた大元は父親たる忠盛にあり、清盛の意思ではなかろうに。清盛ぶん殴るなら兄貴にも同じ勢いで食ってかかってくれよと思う。

で一年後に。宗子は家盛供養の品として、わざと(清盛の実母たる)舞子の形見の品を夫忠盛の前に突き出し、「この志しのためにあの子は死んだのですから」、どうか納めて欲しいと願い出る。
つまり宗子なりの「あなたが元凶なんですから、ちゃんと責任感じて下さいね」な精一杯の抗議なのだが、
忠盛は「そなたの気が済むのなら好きにすれば良い」と、まるで他人事のように突き放した物言いで返す。
これでは宗子がヒステリックに泣き崩れるのも無理はない。
お父さん鈍感すぎ、自覚なさすぎ。


豪雨の中、塀に登ったりする清盛の酔狂を、弟の頼盛に「兄上はやることが一々仰々しい」と溜め息とともに批判されるのだが、父以外の者にはつまるところ異分子でしかない、身の置き場のない境遇を長く囲ってきた清盛らしい(精神分析的には非常に整合性ある)突飛な行動である点が興味深い。
心理と行為の間に無理がなく、なるほどと納得させる関連性があるというか。そこはきちんと考えられているのだなと。


崇徳上皇と雅仁親王の、表舞台から弾かれた者どうしの恨み節合戦(それぞれ出し方に個性あり)や、忠盛に対し頼長が、亡き家盛を散々コケにする言動(どSならではの言葉攻め)で、性格の悪さが炸裂するのや、あと久々にキザ男こと義清こと西行登場のおまけも付いて、イケメン揃い踏みな意味でも賑やかだったかも。


頼長がここぞと暴露した家盛いじめの実態に衝撃を受け、そこでついにおのが罪の自覚に至る忠盛。
誰が殺したクック・ロビン。私が殺した(家盛を)。←くれぐれも音頭じゃなくてギムナジウムの方で


西行が清盛に言った励まし、余所者にしかできぬ役目がある、は案外深いのかも。
避けがたくある停滞や衰退の危機を、チャンスに切り替え、さらなる繁栄を呼び込む、そのきっかけをもたらすのは、清盛のような元々は外からやってきた「異物」なんだと。
余所者とは、淀んだ空気を吹き飛ばす風や、切り裂く矢となり得る存在なのだと。


清盛が家盛追悼の曼荼羅に筆を入れるのを見た忠盛は、もはや無駄なことだ止めよ!と力づくで阻止しようとするも、清盛は頑としてやめない。
何度蹴り飛ばされ、投げ飛ばされても、額から血を流しながら、座っていた元の場所へ、這ってでもたどり着き、再び絵筆を握ろうとする。
「わたしは家盛の兄でございます!」、誰にも否定させない勢いできっぱり言い放つ。
ぽたぽたと額から流れる血に、弟への思いの丈をこめ、その「赤」を、必至の形相にて曼荼羅に塗り込める。

そこへ訪れた宗子が、清盛の偽りなき弟への深い思いを汲み取り、何度も小さく頷くと、涙ながらににっこり微笑む「母」の慈愛の眼差しを「息子」に注ぐのがいい。
「家盛がよろしゅうと言っておるな、かけがえのない、たった一人の兄上に」

二度の拒否のあとで、清盛はこの母に認めてもらえた、お前は息子だと。家盛の兄だと。
筆舌に尽くせない嬉しさだったに違いない清盛の心情を慮ると、それだけでグッとくる。
宗子の苦しい葛藤にもようやく終焉が訪れたなら、家盛は犬死@頼長、どころか二人を結びつけた影の功労者、ということになりはしないか。(とさり気に家盛供養アゲ)






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