遺伝子ゲーについて(再考)

遺伝子型の保存について - 永字八法の続き。
前回からかなり時間があいてしまいました。調査すべきことも多かったのですが、それに加えて遺伝子ゲー・ネタは、調べれば調べるほど悪魔(神)の領域に踏み込んでしまうので倫理的な葛藤を若干感じたりしてまとめるのが遅くなってしまいました。遺伝子工学の立場からすれば人間(生物)機械論ですよ。
遺伝子の展開方法について - 永字八法でがちゃがちゃ言いましたけど、結局のところ、遺伝子型を記述するには大型のデータコンテナが必要であると結論せざるを得ず、小さな式に収めるのはまず無理だとわかりました。よって、記述方式の最有力候補は画像と言うことになりそうです。pngかなあ? bitmapはちょっと容量を食いすぎるしねえ。

遺伝子の記述方式

イムリーなネタとしてTokyo Fuku-blog: 赤く蛍光するネコ開発される(動画あるよ)なんてネタもあります。*1
この記事が端的に示していることは、遺伝子とは、アミノ酸を使って遺伝子語で記述されており、それを大量に集め連結したものが染色体になると言う構造です。ここで重要なのは書いてある内容であって、どこに書いてあるか、書いてある順番はあまり重要ではないと言うことです。このネコの場合、染色体のどっかに「毛が光る」と言う情報を記述されたので、毛が光るようになった訳です。ただ、どこに書くにせよ、重要な情報を上書きしてしまった可能性があります。一匹が死産になった原因ははっきりしませんが、上書きによって生命力関係のなんらかの記述を破壊してしまった可能性があると私は考えています。検証した訳ではないので、まったくの想像ですが。
もちろん、どこに書いてあるかは、減数分裂によって染色体の半分しか子孫に受け継がれませんから重要なのは間違いないのですが、いざ遺伝子型が決まってしまえばその後は関係ないと言うことになります。まあ、受け継がれるかどうかが染色体単位(正確にはちょっと違うんですが)なので、極端な話Y染色体にに記述してしまえば、その形質は男性にしか受け継がれないと言うことになります。

デフォルト設定

人間の遺伝子の99%以上は、全人類共通だとか言います。これはどういうことかと言うと、この共通部分には人間が人間であるために必要なデフォルト情報が記述されていると言うことです。背骨があって腕が二本脚が二本目が二つとか。そんなところから一からぎっちり記述してある訳です。
この、全てを記述しなければならないと言う特徴が、ゲームに遺伝子を持ち込む際のハードルの一つになっているのは間違いないでしょう。
ゲームで取り扱うならば、オブジェクト指向言語的には「じゃあ、基底クラスにデフォルト情報記述すればいいじゃん」みたいなことになるんでしょうが、しかしそれは「扱うのが人間だけならね」と言う前提が隠されています。昔からTRPGやってた人間なら、必ず出てくるんですよ。「じゃあ、ハーフエルフはどうすんだよ」などと言う人が。(もしくは悪魔合体でも可)
少なくとも、「遺伝子情報を書き込んだ染色体を、減数分裂で混ぜ合わせる」と言うルールである限り、このような全てを一から記述した構造にしておいた方が、「両方のよいとこどりした新種族を!」などと言うマッドな要求にも耐えられると言うことです。

悪魔の領域

そして、ここからが重要なのですが。
たとえば、人間の「目が二つ」と言う情報を書いた染色体と、エルフの「目が二つ」と言う情報を書いた染色体が違うとします。そうしますと、その両者の混血の個体には、「目が二つ」と言う記述が抜け落ちる可能性があります。*2するとどうなるでしょう。その個体は目がないことになります。そう、つまり、「畸形」になってしまうのです。さあ、どんどんネタにしにくい領域に入って参りました。遺伝子を扱う上で、「畸形」は実は避けては通れない事象です。遺伝子をいじればいじるほど、畸形の発生する確率はどんどん増えて行きます。(先の光るネコにも死産がついて回りましたし)ゲームだから、そんな恐ろしい事象はなしと配慮することもできますが、実際の遺伝子を模したルールの場合、それを防ぐ方法が面倒でしょうがないのですよね。
この目の有無などは極端な例ですので、もし作るとしたら、人間型種族に限っては、どこに何を書くかはできるかぎり共通にするべきでしょう。

記述のバランスと突然変異

人間の染色体は46本23対。実際のところ何本でもいいのですが、特にいい数字も思いつかないのでこれを使うことにします。
そして、一本の染色体の中には、99%のデフォルト情報と、1%の個体独自情報が書き込まれます。(まあ、この比率は実際やってみないとわかりませんが)
次の世代を作るには、同じ染色体数の個体を二体用意し、それらの染色体をばらして半分だけ組み合わせて作成します。残りの染色体は捨てられます。*3
これだけでも、二つの個体から作られる次世代の種類数は、2^{23}種類にもなる訳ですが、さらにこれを攪拌するような現象が現実にはあります。
対になる染色体が途中で切れて、途中から入れ替わって再度結合することがあるのです。これが起きる可能性がどれくらいかははっきりわかりませんが、ゲーム的にはかなり高めにしておく必要があるでしょう。しかしさきほどの「目の数」の事例にもあるように、突然変異はかなりリスクの高い現象なのは間違いありません。
このリスク対策に、基本的な情報ほど繰り返しくどく記述しておくと言ったことが必要になるでしょう。

遺伝子の発現

これまで遺伝子には「毛が光る」とか「筋力が強い」と言った情報が記述されている、ような話をしてきましたが、実はこれは正確ではありません。本当は「毛が光るようになるホルモンを発生させる」とか「ステロイドの分泌量が多い」とか言う記述になっています。遺伝子はあくまでカタログスペックであり設計図であり、個体の実際の「性能」はホルモンの分泌量で決まっています。
もう一つ、「目が二つ」などの情報は、ホルモンのせいにはできないのでそのまま記述されることになります。

優性と劣性

優性や劣性と言った言葉は、進化・退化と言った言葉と同じく誤解を与え易い面があります。*4単純に、優性と劣性があったら優性の方が表面に出ると言うだけのことです。しかも、メンデル先生のおかげで優性・劣性は二種類しかないと思っている人が多いです。実際には、ある特徴に関する遺伝子は複数存在し、その中で優劣が決まっていて発現しているのです。*5
ネコ - Wikipedia
これを見ればわかりますが、ネコの毛色を決める遺伝子は複数あり、しかもそれぞれの遺伝子間で優先順位があって、最終的に毛色が決まるのがわかるでしょう。白猫を片親に持つ猫は白猫になりやすいのです。

どのような遺伝子が存在するか

ゲームチックなこともありますから、あまり現実的でないのを入れるのもありでしょう。
考えられるものとしては「幸運遺伝子」などどうでしょう。ニーブンのリングワールドに登場するギミックですが、人工過密のため、子孫を残すのに籤を引かねばならない世界で生き残れるのですから、それはやはり幸運遺伝子のお陰と言うことになります。
ゲーム的には、個体の能力値の一つ幸運度の上昇と言う形で表現されるのでしょうか。ちょっと味気ないですね。
ファンタジー的な世界設定であれば、スタンド能力邪気眼などが遺伝するのも楽しいですね。
同様に「ガンになりやすい」とかの不利な遺伝子もあるべきでしょう。
性格に関する遺伝子もガンガン盛り込みたいところです。

扱いに困っているギミック

休眠遺伝子ってマジであるんでしょうか。今回はちょっと調べがつきませんでした。

*1:人間とネコの遺伝子が似ていると言うのは本当かどうか知りませんが。だとしたらネコミミ人間くらい作ってみやがゲフンゲフン。自然の摂理にさからっちゃいけませんよね。ネコミミ万歳

*2:重複した場合は問題ない。目に関する記述のどちらが発現するかは優先度を設定して決めるが、外見上はどちらでも同じになる。

*3:ハインラインの「愛に時間を」では、この本来虚空に消えるはずだった残りの染色体を拾ってもう一人の個体を作ったりしていました。鏡像双子ミラーツインと呼んでいましたが。

*4:進化・退化は、どちらも「環境に合わせて最適な状態に変化する」意味で、大きく発達するのが進化で、萎縮するのが退化。

*5:ただし、長期的に見ると優性遺伝子は実際に環境適合であることが多いです。もし、その優性遺伝子よりもさらに優先度の高い遺伝子があったとしても、それが環境不適合であれば、長期的には淘汰されていなくなっているからです。金髪と黒髪では黒髪の方が優性ですが、北欧などでは黒髪の人間が淘汰されたため、劣性の金髪の人間ばかりになっているのです。ただ、ゲームで扱うように環境要素を無視できるのであれば、優性・劣性は単なる優先度の問題にまで格下げされます。