小人閑居

2018-10-07

テレビの魅力

自分にとっては大きな一つの仕事が終わり、まずまずの評価と興味を持ってもらい、ヒャッハー状態の夜。Kとシャンペンを開けていい気分に酔っぱらっていた。今回は誰のものでもない、自分の仕事。周囲からもKからも助けてもらったけど、自分でデザインしたタスクでデータ的にも納得いく結果が出た。そして、その結果が出るためにはどうしても協力をしてもらわないといけない人たちがいて、快く協力してもらえて、もう、感謝しかない。

そんな感じで、二人で仲良く録画していたコント番組見て楽しく笑っていた。録画が終わると、たまたまある番組が放映されていた。だんだん、自分たちが知っている場所にロケが近づいて行って。え、このテーマでこっちに行くって、それはわたしたちの宝物のあの場所に行くしかないんじゃないの。この条件でこの方向では、あそこしかないじゃん。ってか、ここまであれこれ蘊蓄言っといて、あそこに行かなかったら怒っちゃうよ。

ロケのカメラはよく知っているあの道を曲がり、あの坂を上がり、そして、あの入口へ。

まじかー。やっぱりかー。

あー、でも、こんな風に放送されたら、人が殺到するやん〜。

うわー。

なんも知らん一見さんは、あほなこと言うからかなわんわ。

あー、でも、やっぱりええとこやな。

また行こか。

よく知っているあの場所も、テレビで紹介されると改めて、魅力が見えてくる。そして、二人で熱くあの場所の魅力について語り合ってしまった。

多分、ネットで紹介されても「はー、そうですか〜」くらいの反応しかしない。それが、自分がよく知っている人や場所がテレビカメラを通して画面に映し出されるとものすごい興奮。知り合いにLINEとかメールとかしまくって「見て見て、今すぐ見て!」って連絡したかった。酔っぱらってたので、スマホがうまく使えなくて誰にも連絡できなくてよかった。してたら、夜中にえらい迷惑をかけてしまうところだった。

自分の日常がテレビカメラと電波を通して自分の家のテレビ画面に映し出されて、突然キラキラした非日常になる。この興奮はテレビでしか味わえなくて、テレビってそういう魅力があると思うのです。だから、テレビは高尚であったりする必要はない。日常的でつまらなくていいと思う。映し出される日常を非日常に変えていて、今日も日本のどこかで「きゃー」ってほかの人からは全く共感してもらえない興奮をだれかが感じているってなんかいいなと思うのです。テレビ、大好き。

2018-08-01

子狐

そのころは、毎日がどうしようもなく過ごしにくかった。手袋の薬指のところに小指も一緒に入れてしまったような、靴下のかかとが足首の前に来てしまったような、自分のサイズに合ったものを身に着けているはずなのに、何かがあっていない。Inadequateという単語を額に彫りこまれ、手袋の中で指を直そうともがき、靴下の向きを変えようと靴の中でつま先を動かし、ごそごそしていると、落ち着きがなくてやっぱりだめだと…。

苦しくて苦しくて、苦しさを訴えようとしても言葉がうまく出なくて涙ばかりが出て、感情的と言われ、そんなinadequateな人はここ以外のどこでも絶対だめだと言われ。

あれが、ダブルバインドってやつだと今だとわかる。まったくね。

そんなころ。冬の夜、時々そっと庭に逃げていた。空に雲がなく、町からも遠い空には天の川がきれいに見えていて、静かに草木が凍っていく夜。じっと座っていた。しばらくすると、なにかが視界の端で動いてそっととなりに座った。そのころ飼っていたクロちゃんにしては、ちょっと大きい。うん、ちょっと大きい…。あれ?と思ってみたら、その動物も同じタイミングでわたしを見て、しっかりと視線があった。

子狐。

ちょっと見つめ合ったあと、子狐はいなくなってしまった。






突然思い出した、冬の夜のこと。メモ代わりに。

Kにも出会っていない、おかめもまだ生まれていなかった、そんなころ。

2018-07-12

太文字

Kがやけにモフモフとした大きい八割れ猫をひょいと差し出しつつ、

「この猫、肉球の裏に怪我してて、その怪我がちょうど太文字と同じ幅だから、太文字って名前だよ」

と言った。

ぐるぐると黄色い瞳を回しながら、太文字は「ぬー」と鳴いた。毛がくるくるとカールしていて、髭もくるくるで、コーニッシュレックスなのかな、しかしその割には体がふとましく手足が太い。

居間のど真ん中に水道の蛇口を設置したKは、太文字を居間の真ん中でごしごしと洗い出した。太文字は、ぬーと鳴きながら洗われるままに洗われている。洗うと猫は細くなるものだが、太文字の毛はカールがよりくるくるして濡れれば濡れるほどもっふりしていく。

本棚には木くずが詰め込まれて、天竺鼠が固まりになっている。

床の上には、綿埃がそこここで丸くなっている。また猫毛掃除の日々が始まるのか…とちょっとうんざりしつつ、Kは動物のいる日々が好きなのかな、とカーテンの上にとまって踊り狂っているおかめインコを捕まえながら考えていた。

おかめインコは「ぴるるんぴるるん」「ぶーぶーぶー」とうるさく泣き続ける。どうやったら止まるのかな、と手に持ったおかめインコをしみじみと見ると、それは自分のスマホの目覚ましが鳴っていた、という。



猫がいないと綿埃とかほんと少ない。あの小さい体であんなにたくさんの埃を製造していたとは。おかめ、すごいな。

そして、夢の中なれど、ふとましい八割れ猫に太文字と名付けるとは、Kのセンス、侮りがたし。

2018-07-03

生まれ変わり

仕事からの帰り道にジムがある。たまにはちゃんと運動をしなければ、と思って行くことにした。

1時間、クロスランプでガシガシ走り、汗だくになる。柔軟体操をすると、背中やふくらはぎが固くなっていたことが分かる。足先から上半身、首と上へ伸ばしていき、上から下へもう一度伸ばしていく。

シャワーで汗を流し、さてドライヤーでも。と思って気が付いた。

化粧水やブラシや綿棒などなどすべて忘れてきていた。

もう、なんというか人間としてだめだ、と思った。

もしかしたら、気が付かないうちにおかめの生まれ変わりになってたのかな。そうしたら、最近まで猫だったんだから仕方ないよね。

と、ありもしないことを妄想しながら、ぐちゃぐちゃの髪をゴムで適当にまとめて帰宅した。


Kにわたしがおかめの生まれ変わりになった疑惑を話すと、「あの猫はもっときちんとした猫だった」と、猫よりダメ認定されてしまった。うん、まあ、そうだわな。

2018-06-14

梅雨の梅

4月に転職して、休みが不定期になった。土日休みはそれなりにいいけど、5連勤は結構つらい。通勤も自転車になったので、最近とても時間に余裕ができたような気がしている。気がしているだけで、よく考えれば仕事とは別に参加をしているプロジェクトが2つあり、自分のプロジェクトが1つある。仕事も元々やりたかった分野により近くなったのはとても楽しいけど、その分、論文読んだり道具の作成をしたりしないといけないし、実は結構大変だな。とか言いつつ、論文を書く機会にも恵まれて、本当にやりたかったことに近づいていて、かなり楽しい。

そんなこんなで、猫がいない生活はそれなりに続いていく。

時間に余裕ができたと感じているので、今年は梅干を漬けることにした。とりあえず2キロ。仕事から帰ってきたら、タイミングよく梅干用の梅が届いた。よく熟していて箱を開ける前から馥郁と梅の香りがする。梅の香りを楽しみながら久しぶりの梅仕事。梅干は塩分は20%と決めているので、400gのマラドンソルトを量る。梅の実の薄緑から紅色のグラデーションと真っ白な塩。見るからにおいしそうな色の取り合わせだけど、この状態では食べることができないんだよな、と考えるのは毎回のこと。

最後に梅を漬けたのはもう7年以上前。そのころは、まだおかめも割と元気だった。よく日向ぼっこもしていた。梅干に猫の毛が入ってしまって困ったりもしていた。

梅の香りは今も昔も変わらない。梅雨の湿度で部屋の中にたぷたぷと広がっていく。

そうだ、今年の梅はおかめにささげよう。論文もおかめにささげよう。

どっちもいらんわ、肉よこせ、って声が聞こえた。