旅と言葉6:本物のパタゴニア・エキスプレス


asin:4336039569



ルイス・セプルベダLuis Sepulveda, 1949–)*1


最近は夜な夜な「地の果て」、「世界の果て」パタゴニアを、マゼラン以来西洋人の想像力をかきたててきたというパタゴニア、ある意味で西洋人の想像力の果て、限界をうろついている。デスクトップではパタゴニアの「ミルクよりも白い海」(W. H. Hudson)と「黒い霧と旋風が渦巻」(Bruce Chatwin)いている。昨夜はこの男、ルイス・セプルベダの「パタゴニア」の旅に付き合った。チリ人のノマド。もっとも、セプルベダによれば、チリではその境遇からだれがノマドになっても不思議ではないらしいが。アナーキストの祖父を慕い、社会主義運動に傾倒し、ピノチェト政権下で約2年半、942日におよぶ尋問と拷問が日常の刑務所暮らしから生還したものの、亡命生活を余儀なくされる中で、生きるために、移動し続け、書き続けている男。彼のお陰で、1930年代に日本で製造された石炭機関車が牽引する「本物のパタゴニア・エキスプレス」(153頁)にも乗れたし、バルセロナのバルで気難しく老獪なブルース・チャトウィンにも再会することができたし(90頁〜100頁)、とびっきり素敵な「<パタゴニアの声、ラジオ氷河>による第18回パタゴニア嘘つき選手権」を聴くこともできた(117頁)。そして「この地じゃ、わたしたちはみんな、幸せになるために嘘をつく。でも誰一人、嘘とペテンを混同しちゃいない」(120頁)という<物語>の真実に触れる含蓄のある言葉が、一瞬、「日本では、わたしたちはみんな、不幸になるために嘘をつく。しかも誰もが、嘘とペテンを混同している」と聞こえた。空耳か。