採卵に向けて。

旦那の精子は確保しました。
次は、顕微授精のために、嫁の卵子を採取しなければなりません。


旦那はあっさり通院5回程度で任務完了となりましたが、嫁側はそう簡単にはいきません。
私も何分一発で成功してしまったせいか、この種の治療の手法や薬剤にどんなバリエーションがあって、それぞれ何がどう異なるのか、自分で勉強せぬまま医師の言いなりでするするっといってしまいました。私の場合、結果的にそれで万事OKだったのですが。


ですのであくまで、私はこんな治療をしました、というご報告だけにとどめます。
同じ手法や薬剤を勧めるつもりもありませんし、それでなくとも、同じ治療をしても結果の個人差が凄まじいのが不妊治療です。
皆様あくまで、「あーこんなことして成功した人もいるんだー」というご参考程度に、ご覧くださいね。


というわけで、実は自分も「子宮年齢45歳相当」と言われてしまったえみりりこ。
診察室でそれを聞いて愕然とし、突如物凄い不安に襲われましたが、小田原医師は「大丈夫です。まだお若いんですから、時間はある。まだまだ深刻になるような段階ではありませんよ」と言ってくださいました。
どうやら不妊治療業界では、30代はまだまだ若い。メインの患者さんは40代、今では50代の患者さんもザラにいるようです。
そう言われてやっと少し安心し、前向きに治療に取り組む覚悟もできましたが、やはり各種女性ホルモンの数値が低いことには変わりありません。それを鑑みて、薬剤の種類と量を小田原医師が決めていきます。


2月に入って数日、特に不順でもなくいつも通りに生理が来ました。
始まったのを確認し、すぐにクリニックに電話して、今月の周期で採卵しますと生理3日目の日付で診察を予約。3日目までのどこかで診察して、採卵に向けた処置の開始となります。

診察した3日目から、セロフェンという錠剤を1回1錠、1日2回内服(錠剤を口からごっくん)。排卵誘発剤と言われていますが、実際には排卵誘発というより、卵子の発育(成熟)を促進する効果のある薬剤のようです。その人のホルモンの状態によって、薬の種類を変えたり、摂取量を増減させたりします。

更に同じ3日目から、ホルモン製剤のhMGフェリングという薬剤を自己注射。最初はびっくりしたんですが、なんと自分で注射器に薬液を吸い上げ、自分で憎たらしい腹の肉をつまみ、自分でぶっすりと注射針を刺して注入します。1日1回決まった時間、私は朝6時に設定していました。(今なら脂肪融解注射でも自分で打てそうな気がします)
このフェリングという薬も人によって濃度を増減させるのですが、私の場合、こちらのクリニックでは75・150・225・300と使用単位が4段階あるうち、最も強い300単位で処方されました。
このフェリングはヒトの尿から作られるホルモン製剤でして、いくつかの製薬会社から発売されているものの、会社によって原産地が違うそうです。安いものは中国産だそうですが、こちらのクリニックは中国産の薬剤は一切使用せず、このフェリングは東欧産とのこと。…確かに、偏見の一種と自覚していますが、それでも中国のあの過酷な環境汚染を見ると、中国人の尿から精製された薬剤はちょっと無理…。

この2種の薬剤、セロフェン&hMGフェリングで、卵巣に対し、「作れるだけいっぱい卵子を作れ!そして速やかに成熟させろ!」という指示を出す効果を期待します。通常、卵子は月に1個のみ排出されます。稀に毎月複数排卵される方もいらっしゃいますが、まあ基本は月に1個のはずです。
これを、できるだけたくさん何個も作り、それらをガンガン育てましょう。そうしてできた複数の卵子を手術で採取して、顕微鏡下で受精した後に子宮に移植しましょう、というのが顕微授精です。医療って凄いですね…。

人によっては、この採卵プロセスで、たっくさんの卵子を一度に採れる方もいらっしゃいます。若く健康で女性ホルモンが正常ならば、必要最低限の種類・濃度の薬剤投与で、質・量ともに十分な卵子を採取できることでしょう。


長くなったので、一度切ります。
つづく。

手術の後は。


男性が痛い思いをするのはこのときだけ、と前回書きましたが、訂正です(^^;;)


ってなわけで、術後の旦那の様子を思い出せる限りで書いてみます。
旦那は多弁なほうではなく、抜歯しても鎮痛剤は飲まないってくらい苦痛を我慢する人なので、実際のところどんだけ痛かったのかは、嫁の私にはわかりません。
とりあえずこんな感じでしたってのをご紹介。


手術の翌日、術後検査で再度クリニックへ。傷口の確認だけですね。
さらに一週間後、抜糸でまたクリニックへ。この間、化膿止めの抗生剤と痛み止めが処方されます。
抜糸からさらに一ヵ月後、詳細な術後検査があります。多分術前検査と同じメニューです。どこか数値が変化しているところはないかを調べるんでしょう。


クリニックで頂いた資料には、術後の注意事項について、次のように書かれています。


「術後の合併症では、手術直後に起こるものとして出血があります。陰嚢は非常に伸縮性が良好なため、通常の部位であればすぐに止まる程度の出血でも陰嚢内に血液が貯留するので、術後は陰嚢を圧迫するようにサポーターを着用する必要があります。」


ちなみにこのサポーターってのは、手術時に5000円ほどお支払いするんですが、単にちょっとキツめのブリーフって感じです(苦笑)クロッチっていうのかな?お股の部分が厚手のストレッチ素材になっていて、いつもはプラプラしているたまたまを、動かないようしっかりホールドしてくれるようです。
このサポーターのほか、傷口には、保護テープのような物を毎日シャワー後に貼り替えます。自分で貼るのは難しい位置なので、嫁の私が股座に顔を突っ込んで、たまたまをそっと持ち上げながらぺたっと貼ります…。


「また、手術後数日して傷が化膿することがまれにあります。」


抗生剤が出ます。きちんと服用しましょう。


「手術後しばらくしてからの合併症としては陰嚢水腫(陰嚢内に液体が貯まる)があり、手術的治療が必要になることもあります。さらに、ごく稀にですが陰嚢部に痛み・痺れなどが残ることがあります。
本手術により精巣の萎縮をきたす場合があり、また萎縮を来たさなくても性腺機能が低下し、将来的に男性ホルモンの補充を必要とすることがあります。」

うちの場合は、化膿もしなかったし水腫もできませんでした。
抜糸一ヵ月後の詳細検査でも、特に何もなかったんだと思います。何も言われてないし。…いや、どうなんだ?「別になんともなかったわー」って言いながら帰ってきただけだな、そういえば…(汗)(何しろうちの旦那は、「もうこれで自分の精液は用無しだから何かあっても別にいいや」くらいなことを言ってのけちゃう人なので…)


問題は、「痛み・痺れ」ってやつです。
勿論術後しばらくは、切開してるんですから痛くて当たり前です。
抜糸する頃には、治りかけの皮膚が痒くなってきます。
そして手術から丸一年以上経った今、「手術したのってどっちのタマだっけ」というくらい、普段は違和感ありません。

ただ。

ただ、日常生活で変わったことが、一つだけあります。


自転車です。


旦那はサイクリングが趣味でした。
夫婦二人だけの我が家には、自転車が3台あります。(ちなみにPCは4台ありますけど)
嫁のママチャリのほか、18段ギアつきマウンテンバイクに、怖くて乗ったことないんでどんな代物か良く分からないけどお高いロードレーサーです。
春や秋の気候のいい時季は、ちょっと遠くの店まで二人で自転車で片道小一時間かけてお茶しに行ってみたり。旦那は通勤も自転車で片道45分でした。
しかし、今はもうそんな長時間はとても乗れません。自転車のサドルの位置が、もろにたまたまの辺りなのです。手術後しばらくしてから少しずつ、慣らし慣らし自転車生活を再開した旦那でしたが、乗りっぱなしで25分を経過する辺りで耐え切れない痛みになる、と言っています。いやそもそもそこまで我慢して乗るなよと言いたいのですが。
サドルの形状によっては、あるいは大丈夫なのかもしれませんが。また、時間が経てば経つほど航続距離(?)は伸びますが。
最近、周りに自転車の好きな男性がやたら多いので、こんなこともありましたよと。




あと、まあなんだ、セキララな話ですが。
夫婦生活は元々それほど盛んなわけではありませんでしたが、まあ回数は減りました。
嫁的には、なんていうか気分的に。いや、なんとなく痛いんじゃないのかなって気になって。
旦那的には、別に何も変わらなかったそうな。うんまあ淡白だもんな元々…。
でも、男性ホルモンが激減した!っていうような感じは、ないです。あくまで素人目には、ですけど。

旦那のTESE手術の日。


最初は「付き添いなんて要らん」と言い張っていた旦那ですが、一応身体にメスを入れるんだから予後は大事にしなきゃいかんよと、半ば無理やり(?)仕事を休んで付き添いました。
とはいえ、旦那が診察室(の奥の手術室)に消えていくのを見送った後は、特にすることなんてありません。
嫁のあたくしは、待っている時間に銀行へ行ったり、カフェでお茶してみたり、まあそんなことをして適当に時間を潰しておりました。


手術室に入った旦那は、局所麻酔を打たれた上で、陰嚢(いわゆるたまたま)にメスを入れられるわけです。


『陰嚢に2−3cmの切開を加え、そこから精巣を取り出し、精巣を包む白膜を切開して顕微鏡で精子が存在しそうなところを少量切除します。切除した精巣組織をすり潰して顕微鏡で観察し、精子が確認されれば、精子の調整を行い、凍結・保存します。』


というのが手術手順です。
旦那によれば、術中は麻酔が効いているとはいえ、刃物でたまたまをカリカリ引っかかれるのもわかるし、術後に縫合する際には、薄い皮膚を糸がビーーーっと通り抜ける感触も生々しく感じられるとのことです。
手術は2時間前後で終わりますが、我が家の場合は事前に「9割がた成功するでしょう」と言われていた通り、辻先生が満面の笑みで「精子いっぱい取れましたよ♪」と言いつつ、待合室に出てきてくださいました。
7箇所切除して、6箇所から精子が取れましたとのこと。旦那の精子は6本のストロー様の容器に入れられて、液体窒素で凍結処理されました。


ただしここで重要なのは。
精子は間違いなく取れましたが、その精子の質までは保証されない、ということです。
たくさん取れたと言っても、正常で健康で活きの良い良好な精子がいるかどうかは別問題です。後日ファティリティクリニックの培養士さんに伺った話ですが、やはり精巣精子の場合は正常な精子が少なく、精子の一部に奇形があったり、運動量が少なかったり、何かしら瑕疵(という言い方は適当ではないかもしれませんが)のある精子が多い、とのことです。
顕微授精の際にはその中から良い精子を探して選んで受精させることになりますが、1本目のストローでいい精子が見つからなければ2本目3本目と解凍して探すことになります。
この「良質な精子を探す」という作業が大変手間隙かかるため、TESE精子の顕微授精はやらなくなったと池袋の江崎先生は仰っていました。
つまり、ここで精子がたくさん取れたからと言って、即・妊娠成功に結びつくわけではないのです。
TESEの成功は、妊娠を成功させるために必要な要素の一つに過ぎないのです。


とはいえ、必要不可欠な要素であることは間違いありません。我が家がここを順調にクリアできたのも、幸運でした。


ちなみに、術後はかなり、いや相当痛いようです。
手術後しばし横になったまま休み、お会計を済ませてクリニックを後にする際、先生は仰いました。
「麻酔が消えると痛み出しますので、なるべく早く昼食を食べて、痛み止めを飲んでください」。
そ、そりゃいかん。電車に乗る前に、恵比寿で昼食を取ってしまおう。


そう話ながら外に出ましたが、麻酔はみるみる切れていきます。
歩くという動作は、一歩ごとにたまたまを自分の足で圧迫します。
最初の交差点で、既に交差点のど真ん中で股座を押さえてうずくまりたくなった、と旦那は言います。
もうなんでもいいから、コンビニでおにぎりでも買って胃に入れて薬を飲んでしまえばよかったのかもしれません。が、それもあまりに味気ないので、駅前でチラシを配っていたインド料理屋に入りました。
痛みのあまり、立ったり座ったりする動作が地獄の拷問のようです(by旦那)。
なのにそんな時に限って、一度腰を落ち着けた後、直後に入ってきた団体客のために、席を替わってくれないかと店員がやってくる。
本音を言えば鎮痛剤が効くまではもはや一歩も動きたくなかった旦那ですが、仕方がありません。歯を食いしばって席を移動しました。
美味しかったはずのインドカレーの味も、既に全く覚えていないと言います。ひたすらあの席異動が痛かったと。


女性には分からない痛みですが。
本当に痛いようです。
でもだからといって、男性の皆さん、手術をためらったりしないでください。
男性が痛い思いをするのは、この手術の時だけなんですから。

クリニック通い、開始とともに

10月末に不妊治療クラスを受講し、旦那のTESEは1月末と決まりました。
何しろそう若いわけでもない34歳の私は、できれば35歳までに妊娠・出産したいという希望を持っていました。
ここで目一杯急いだとして、

11月 or 12月に採卵して凍結 → 1月にTESE → TESE後速やかに顕微授精

というのが最短・最速スケジュールとなります。


ですが。


女性の不妊治療は、とかく通院回数がかさみます
私の場合も、不妊治療クラスでの説明等々から鑑みるに、採卵直前には数日おき、あるいは毎日に近い頻度での通院が必要になりそうです。
ですが私は、フルタイムというか、毎晩残業して当たり前の職場で働いているOLです。クリニックの診療時間は、すべて仕事で塗りつぶされている毎日です。
しかも、年末です。12月は言うまでもなく、11月も年末を睨んで仕事が立て込んでくる時期なのです。毎年この2ヶ月は、残業時間が50時間を越えるのが定例となっていました。
そんなクソ忙しい時期に、不妊治療で病院通いをしたいので早く帰らせてくださいとは…とても言えません。
仕事に支障をきたすか、生命に関わるような傷病なら、当然ですが繁忙期に仕事を放り出しての通院も許されるでしょう。
でも、不妊治療というのは、やはりごく個人的なものと判断されてしまうんじゃないかと思うのです。


仕事の内容も、絶対にその日のうちにどうにかしなければならないという類の仕事なので、今日は通院だから明日やろう!というわけにはいかなかったのです。
翌朝早出してこなすのも不可能ではありませんが、その場合朝6時に出勤するくらいでないと間に合いませんでした。
そして、同僚に代わりを頼むのもやはり、気が引けてダメでした。
私の場合、直接の上長も既婚女性で(ただし子供はいない)、チームの同僚は大半が未婚女性で、男性よりはよほど理解もあったでしょうが、何しろこの2ヶ月は社内の誰もがものすごく忙しいのです。わかってくれるからといって、甘えて寄りかかるにも限度があるだろと、自分が逆の立場だったら思ってしまうでしょう…。
よく、既婚女性VS未婚女性的な対立が産休・育休の現場で起こるそうですが、不妊治療にもこれが当てはまると思います。なんて子供が生みにくい社会なんでしょう、この国。
未婚か既婚かで利害の不一致が起こるせいもあるでしょうが、私個人としては、最大の原因は単なる人手不足だと思います。皆忙しすぎ・余裕なさすぎなんですよね。リーマンショック後に、極限まで人員を削っちゃったから…。


ちょっと話が逸れました(汗


そんなわけで、要するに仕事の繁忙期にクリニック通いは無理と判断し、比較的暇になる年明けを狙おうと考えたわけです。
採卵に向けての通院は、生理の周期に合わせてスケジュールが組まれます。
月の前半に生理がくる周期の私の場合、1月の周期だと年明け直後・成人式の連休あたりにぶつかりそうですが、連休前後も仕事が忙しくなるので1月もパス。
というわけで、2月の周期で採卵を目指すこととなりました。


で、会社には、というか上長と同僚には、「不妊治療で体外受精が必要なので病院通いを始めます」と、最初に宣言してしまいました。
かなり頻繁に通わなくてはならない。ただし、自分の仕事は、前日の残業や翌日の早出で自力でどうにかする。必要があれば、通院後にもう一度会社に戻って仕事もする。
本当にどうしてもどうしてもだめなのは、おそらく手術の当日は休まなくてはいけないということだけ。その日一日だけ、申し訳ないけれど休ませてくださいと。


……これも、ここまで、やもすると卑屈なほど下手に出てお願いする必要が、一体どこにあるのか?と思うのですよ。どこがどう申し訳ないのか?と、我ながら疑問に思います。正直。
勿論、自前の有給休暇を消費します。何のためにいつ有給を取ろうが、私の勝手です。本来は。
なんだけど、やっぱり。
申し訳ありません。せめて繁忙期は避けて暇な時期を選びました。できるだけ迷惑かけないように自力でどうにかします。なので通わせてください。
ここまで言ってやっと、それ以降堂々と通院できる心境になった、とでもいいますか。
毎回毎回ぺこぺこするんでなく、最初に一番下まで頭を下げておいて、その後はもう必要があれば必要なだけ早退でもなんでもさせていただきますよ、と。
何しろ採卵だけじゃありませんからね。その後の移殖に際しても、同じように通院やら手術やらが必要になるし。やはり最初に率直に事情を話して頭を下げておき、その後の反感を少しでも和らげると。


ええ?大変だね。不妊治療って、すっごくお金かかるんでしょ?
うん、できるだけフォローするから!頑張ってね!


このセリフを引き出しておいたほうが、後々の為だと思ったのです。ああ、計算高い自分がちょっとイヤだわ(苦笑)


……職場にオープンにせずに、治療をされる方もいらっしゃるでしょう。それがどれほどの苦労か。本当に大変だと思います。
これも一種のカムアウトですよね。カムアウトするもしないも本人の自由ですが、どちらにしても大変なことに変わりはありません。
世の中がもっと子供に、妊婦に、子供が欲しいと思う気持ちに、寛容になってくれればいいなと、本当に思います…。

初診です。

リアル子育てが始まったせいで更新が滞ってしまいました…(滝汗)
もし万が一続きを読んでやろうという方がいらっしゃったら、まことにもって申し訳なかったです(土下座)


さ。というわけで、旦那のみならず、自分もクリニックに通い始めました。
とはいえ我が家の場合、治療方法はICSI(顕微授精)に限ると既に決まってしまっておりますので、話は非常に単純です。
自然妊娠のタイミング指導から始まって、人工授精を何回かやったけどダメで、ついに体外受精に踏み切って…というステップは踏んでおりません。そこらへんの切り替えに伴う葛藤やら何やらというのも、まるで経験しておりません。
という事実を先に申し述べさせて頂きます。


まず、ファティリティクリニック東京は、日本生殖補助医療標準化機関(JISART)という団体のメンバーであり、機関が独自に定めた各種の規定に従って医療を行っているため、治療の種類によっては他の医療機関よりもシビアな条件付けがなされている場合もあります。金さえ出せばなんでもやりますよという方針では、決してありません。
逆に、藁にもすがる思いで、金なら出すからできることはなんでもやってくれ、というカップルには不向きなのかもしれません。
治療を求める際の深刻度はカップルによって様々ですから、一概にいいとも悪いとも言いません。
そしてこちらのクリニックでは、夫婦でない(非婚姻)カップルへの体外受精は行っていません。

また、体外受精のステップに進むカップルに対し、体外受精クラスという説明会への夫婦での出席を施療の条件としています。これは、院外のオフィスビルの会議室を借りて、テキストと映像を用いて行われますが、体外受精の仕組みや培養室の役割、体外受精の流れ・培養の流れ・顕微授精の詳細や受精卵の凍結などについて、院長の説明があります。このクラスの聴講後に、体外受精治療の初診の予約が取れるというシステムです。ちなみにこのクラスは無料です。(テキストのみ、院内で無料配布されたものを無くして再配布を受ける場合に500円徴収されます)
クラスやテキスト詳細な内容については、ここでは記載しません。


私の場合、江崎先生の紹介状を持参の上で来院した初回の診療で、「あ、TESEですね。顕微授精ですね。じゃあまずホルモン検査してみましょうか」という、迷いも躊躇いも他の選択肢も何もないシンプルな一本道で治療が始まりました。
不妊要因は100%旦那の閉塞性無精子症、と疑う余地なく確信して臨んだ初診でしたが。


初診:辻先生及び江崎先生の紹介状を見ながら顕微授精を行う意思の確認・血液検査(結果は後日)

体外受精クラスを夫婦で受講

再診:前回血液検査の結果を見ながら診療方針についての確認


この血液検査の結果がですね。


E2(エストロゲン):48.38 pg/ml(正常値 5.1 - 4250)
LH(黄体形成ホルモン):5.93 mlU/ml(正常値 0.11 - 198)
FSH(卵巣刺激ホルモン):12.24 mlU/ml(正常値 0.11 - 198)
PRL(プロラクチン):19.54 ng/ml(正常値 0.052 - 465.3)


どれも異常値ではありませんが、非常に低い数値です。先生には、「子宮年齢・卵巣年齢は45歳程度」と言われました。


…残業が多い仕事で日々肉体的精神的疲労ストレスは蓄積しており、不規則な食生活で冷え性持ちだしBMIも25ギリギリだけど、生理不順はない。だから多分普通。ごくごく普通。のはず。
と、勝手に思い込んでいたのに。

「子宮年齢・卵巣年齢は45歳程度」

ですよ!!!!
ちょっぴりですけど愕然としました(←日本語がおかしい)
そしてここでちょっと焦り始めました。
旦那の精子さえTESEでちゃんと採れれば、妊娠はそう難しくないはず。そう思っていたのですが、これはちょっとあまりそう楽観視もしていられないんじゃないかと。
妊娠したい女性向けの漢方薬とか、ああいうのも少し手を出した方がいいのかと真剣に考え始めました。
結局は、漢方薬ざくろドリンクも女性ホルモン的なものも飲まなかったし、他のあらゆる自然療法的なものに一切手を出さず、葉酸のサプリを飲む以外はクリニックでの治療を受けるのみ、で妊娠しましたが。


とにもかくにも、こうして治療が始まりました。

で、私はどこのクリニックへ行けば?

旦那の手術は翌年1月となりました。
場合によってはTESE(精巣内精子回収術)の直後にICSI(顕微授精)を決行できるよう、私(嫁)側の不妊クリニックを見つけておかなければいけません。


まずは、辻先生にご紹介をお願いしました。
当初はつじクリニックさんのすぐ近所にあるクリニックを提示されたのですが、我が家からも職場からも恵比寿はちょっと距離があり…。
なにしろかなりの回数を通うこととなるのは間違いないので、なるべく自宅(あるいは勤務先)に近いところがいい、と希望を出させていただき、東京北部〜東部でお願いしたのですが、どうやらこの業界(=不妊治療関連)というのは西高東低の傾向にあるようです。
渋谷から西のエリアから横浜にかけてのあたりに割と集中していて、東側にはあまりないとのこと。
最終的に、紹介状を書いていただいたのは、池袋えざきレディースクリニックさんでした。


結局、こちらにはお世話になりませんでした。
というのも、紹介状を持参して予約してクリニックに伺いましたが、今はTESE精子を使用してのICSI手術を今は受け付けていない、ということだったのです。以前はやっていたんですが…ということで、まあ仕方がありません。
代わりにどこの病院へ行けばいいか、せっかく予約して来て下さったんですから紹介状お出ししますよ、と仰ってくださったので、あれこれ相談しました。


ここでも辻先生にお話したのと同様、通いやすさを重視して東京東部あるいは北部のエリアを希望している、と申し上げたのですが、江崎先生に説得されました。

曰く、通う回数を減らしたかったら、治療1サイクルで成功させるのが一番回数が少なくて済む。
曰く、経済的な側面が心配なら、やはり1サイクルで成功させるのが一番金銭的負担も少ない。

何度もチャレンジすればするほど時間もお金がかかるから、近い遠いではなく、一発で成功させてくれる腕のある医師のもとに通うほうがいい。非常にごもっともなご意見でした。
私の場合、勤務先の隣駅に比較的名の知れた、成功例も沢山あるクリニックが一軒あったのですが、そちらはお勧めしませんといわれました。
というのは、そちらは確かに成功率が高いけれど、それはどんな些細な変化でもありとあらゆる検査をしたりして、要するにものっすごく大事に大事に医師が経過を見るという方法で治療している、という理由だと伺いました。(勿論どのクリニックでも大事に経過は見てもらえますが、別次元レベルのようです)
毎日でもクリニックまで通えて、無尽蔵に医療費が支払える人でないと、正直お勧めできないと。


勿論、我が家にそんな、高額の検査を何度も何度もやるような経済的余裕はありません。
勿論、私はフルタイムで仕事をしており、おまけに残業あって当たり前の職場でしたので、いくら隣駅でも毎日なんて通えません。
それくらいなら、多少通いにくい場所でも、一発で仕留めてくれればそのほうが時間もお金も節約できる。非常に説得力のあるお話でした。
それにしても江崎先生、結局治療はしないので初診料しかお金を取れない私に、ずいぶんゆっくり時間を割いて相談に乗ってくださいました。とてもありがたかったです。


ということで、江崎先生に次の紹介状を書いていただきました。
次の病院は、結局辻先生から最初に提示戴いた、つじクリニックのすぐ近所にある、ファティリティクリニック東京の院長、小田原医師でした。

旦那の無精子症が確定しました。


一回目の検査から約10日後。
この日は嫁の私も同行して再度つじクリニックへ出向き、もう一度精液を採取して検査。結果が出るまでに1時間ほどかかるので、外に出て近所のカフェでランチ。
結果は、私も診察室に呼んで頂いて、辻先生ご本人が丁寧にご説明くださいました。
精子濃度も精子総数も、相変わらずでした。
精子の数が少ないだけなら精子症ですが、見事なまでの精子症でした。
やっぱ俺って「種無し」なのか、とやはり内心少なからずショックだったようです。


そしてこの無精子症の原因ですが、これは再度のエコーで判明しました。
睾丸ではなく、肛門側から体内に小さな機械を入れて、睾丸以外の前立腺や精嚢の部分を見るのですが、ここで異常が見つかりました。

無精子症の原因は主に3種類あり、

1 ホルモン異常によって精子を作る能力に障害がある
2 精巣機能そのものの障害精子を作る機能に障害がある
3 精巣で精子は作られているけれど体外に排出されてこない、いわゆる精管閉塞

に分類されます。
うちの旦那の場合はこの中の3、閉塞性無精子症というやつでした。
しかも、閉塞というのは精管(精巣から精子が排出される管)が途中何かで詰まって塞がれていることをいうのですが、何度も経肛門エコーで見た結果、うちの旦那の場合はそもそも精管そのものがない、精管欠損という状態のようです。何度見ても、あるべき位置に精管の影も形も見えない、その器官がまるまるないと。
精巣(たまたま)で精子は作られているものの、それを体外に排出するルートがない。工場で商品は生産されているけれど、工場から運び出すベルトコンベアがそもそもない、という状態ということで。
そりゃー精液だって薄くもなります。肝心の精子が含まれていないんですから。主成分が欠落しているんだから、量だって少なくなるに決まってますよね。


ただしこの日、血液検査の結果も出てきたのですが。
この血液検査というのは、つまり男性ホルモンなどの数字を見るための検査なのですが。
ここでも主な項目の結果をセキララに暴露すると、


プロラクチン(分泌過剰だと性欲や性腺機能を低下させる):10.5(基準値3.6〜12.8)
黄体形成ホルモン(男性ホルモンを作らせる):6.0(基準値0.8〜5.7)
卵胞刺激ホルモン(精子を作らせる):2.2(基準値2.0〜8.3)
テストステロン(男性ホルモンそのものの一種):871.2(基準値225〜1039)

※カッコ内の説明は、素人がなんとなく理解できる程度の要約ですので、必ずしも正確な記述ではありません。


ホルモン検査の結果は、全て正常の範囲内です。つまり、ホルモンが正常=精巣内では精子が正常に生産されている可能性が高い、ということ。であれば、対策はある。
TESEと言われる、精巣内精子回収術です。たまたまにメスを入れ、精巣から直接精子を取り出します。
それができれば、顕微授精(ICSI)での妊娠に期待できるというものです。
通常の閉塞性、つまり精管が詰まっているだけの状態なら、詰まっている部分をどうにかして精管を繋ぎなおして正常な排出を促し、より自然な状態での妊娠を期待することもできるのですが、うちの場合は閉塞ではなく欠損なので、そちらの手段は使えません。


この日、事実上我が家の不妊治療の手段が決定しました。
TESE→顕微授精、これが唯一の方法であると。


精巣精子は人工授精にも体外受精にも使えないので、顕微授精以外の手段は全て使えない。
顕微授精が唯一の選択肢ではあるが、ホルモンの数値を見れば、精子回収自体はかなりの高確率で成功が見込める、との説明を戴きました。(ただし、TESEの成功とその後の顕微授精の成功は全くの別問題だけど…)


迷う余地も必要性も感じませんでした。とにかくやってみよう。まずはこのTESEが成功しない限り、ほかに何をしてもどれだけ待っても妊娠の可能性はゼロなのだから。
ためらう要素があるとすれば、お金と、そして旦那の意思でした。何しろタマタマにメスを入れるのです。嫌でないはずがありません。でも、旦那は一度もノーとは言いませんでした。

それしか方法がないなら、やるしかないんじゃね?成功する見込みが低いってわけでもないし。

こんな調子でしたが、辻先生に説明を受けているその場で決断してくれました。
お金の問題のほうも、決して家計に余裕があるわけではありませんでしたが、子無し共稼ぎ生活をしていれば大丈夫でしょうと判断。その日のうちに、手術の予約を入れました。


が、手術の予定が超コミコミです(苦笑)
8月末に申し込みをして、オペ日は翌年の1月後半となりました…。


ちなみにこの日のお会計は、再度の精液検査&エコーで、2万円弱でした。