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投資の消費性について RSSフィード Twitter

2016-11-30

価格統制のカモり方

クリーブランド連銀 @ が、第二次世界大戦中のFRBによる“yield-curve control”の失敗についてペーパーを出した。乱暴に要約するなら、政府が借りまくって、その後が大変だったという話だが、リスク証券の流動性が高まった現代に生きる我々として、ここから学べるレッスンについて考えてみたい。


The Fed’s Yield-Curve-Control Policy

https://www.clevelandfed.org/en/newsroom-and-events/publications/economic-commentary/2016-economic-commentaries/ec-201615-the-feds-yield-curve-control-policy.aspx


イールドカーブをコントロールするなどとカタカナを並べれば、とりあえずトーシロはビビるだろ、みたいなセコい考え方*1も透けて見える日銀の政策だが、要するに国債の価格統制である。対象が国債であれ、為替であれ、農産物であれ、賃金であれ、価格統制に直面した投機屋にとって、取るべき行動はシンプルだ。安ければ買う、高ければ売る、それだけ。汗水垂らして働くなんて、馬鹿馬鹿しいったらありゃしない。


         ↓
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安               0               高

国債が安く見えるとき、国債を買う。金利が高く見えるとき、カネを貸す。シンプルだ。買うカネ貸すカネが手元にないときには、あるいはもっと欲しいときには、借りてくる。借りてきて国債を買う。借りてきてカネを貸す。最近では第二次大戦中と違って、より便利なツールも台頭しつつある。例えば先物、これカネ要らない。あるいは「カネを借りる」と「国債を買う」のセット商品と考えてもよいかもしれない。


                    ↓
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安               0               高

国債が高く見えるとき、国債を売る。金利が低く見えるとき、カネを借りる。シンプルだ。売る国債が手元にないときには、自分で債券を発行しちゃう。もちろん国債よりは、あなたの信用がない分だけ高い金利になるわけだが、土台となる国債の金利が低い分だけ、あなたの債券も金利は低い。つまり安く借りることができる。突っ込む先?とりあえず不動産やら株式やら、商品やら新興国やら、日銀当座やら、お好きなところへ。


こうした理屈に沿う形で、当時の米国政府国債を発行しまくった。FRBをカモって、カネを借りまくったわけだ。もちろん、借りて突っ込んだ先がロクでもなければ、その先には、ロクでもない未来が待っている。待っていたわけだ。


ただ大事なことは、誰も世界を制御することはできない。できるのは、先回り。第二次大戦当時に比べて、さまざまな意味で、リスク証券の流動性は高い。市場は繋がっている。僕らは、当時の米国政府と似たような、そして更に洗練された行動を取る。

*1:あるいは自分自身を向いているのかもしれない

2016-11-20

スティープ化とドル高

トランプ祭りに突入して以降、米国債が売られた(長期金利が上昇した)からドルが買われた、みたいな説明を頻繁に見かけるのだが、そんなふうに見える関係は当然のことながら最近のことに過ぎないわけで、あるいは取引したことのある者なら誰でも知っていることだが、そもそも為替は短期金利の交換であって、長い債券との関係は直接的とは言えない。


じゃ何がそう動かしてるかって、そんなもん説明としてフィットするのは利上げ予想ですよ。新大統領が強く意識しているか否かは別として、選挙戦オバマの方を向いて仕事をしているとイエレンを批判したアレ*1だ。もちろん放漫財政と大幅減税も、これを助ける方向なわけだが、近い将来に利上げが待っているなら、より高い水準で長い金利を取引しておく理由になるわけだし、近い将来に利上げが待っているなら、そのとき取引されるだろう為替の水準を、いまから先取りしておく理由になる。つまり二者の相関は因果でない、統計学の教科書に出てくる典型的なアレだ。


この関係は安定的かって?そうは問屋が卸さない例を探しましょうよ。近い将来に米国で利上げが待っているという予想で前もって(対円で)ドルを買うとき、おっかないシナリオは何かといえば、1)やっぱり利上げしない、2)円の利上げ、の二点である。どちらも簡単でないことは説明するまでもなさそうだが、これまで利上げを先送りし続けて、さすがに動かなきゃとFRBの舵取りの多くは考えてるわけだし、じゃ日銀はと言えば、舵取りの多くは何も考えずに、ひたすら壁を押し続けている。


ありがとう中央銀行、要するに君たちが投機屋を助けている。物価であれ金利であれ、彼らが掲げる目標水準を断固として実現するコミットメントほど、山師にとって居心地のよい布団はない。果報は温床で寝て待て。ところで、このようにして結果的に実現した、強いドルは米国の利益である的な状況は、どこまで続くだろうか。トランプがFRBに利下げ圧力をかける方向にフリップするのか、あるいは日本を含めて片っ端から為替操作国認定して回るのか、また単にグダグダするのか。そこはまだわからない。

2016-11-18

嬉しさ加重平均

平均的には損なので保険には入るな、みたいな素朴な言説をしばしば見かけるが、なるべく簡潔に、この歴史ある商売を支える構造を記述してみたい。


10回に1度ほど起きる件に対して、支払われる保険金の1/8の保険料を取られる商品について考えてみよう。保険会社から見れば、概ね10件に1度ほど発生する支払いについて、8件分の保険料で賄い、残り2件分で職員の給料を受け取る。契約者から見れば、平均的には


1/10の確率 - 1/8の支払い


つまり保険金の約1/40ほど「損」である。ように見える。しかしながら他方で、事故であれ病気であれ、そうした状況に実際に放り込まれるとき、つらい。つらい状況で受け取るカネは、ふだんの状況で受け取るカネの1.5倍嬉しいと考えよう。このとき契約者から見れば、平均的には


1/10の確率 x 1.5倍嬉しい - 1/8の支払い


つまり保険金の約1/40ほど「得」である。できた。


【問】このケースで「損得」が分岐する、つらい状況で受け取るカネの嬉しさ(倍)を求めつつ、発生確率と料率設定、保険の商品性について論ぜよ。

2016-11-14

均衡金利の存在定理

金利が低ければ低いほど、我々の経済活動にとって素敵なことにはならないのは、例えばマイナス20%の水準を想定してみよう。預金は放っておいてもガンガン減っていく*1し、借りると巨大なオマケがついてくるので、そんなもん株でも不動産でも怪しい商売でもゴールドでも、とにかく突っ込んだ者勝ちである。壮大な無駄遣い社会だ。


金利が高ければ高いほど、我々の経済活動にとって素敵なことにならないのは、例えばプラス25%の水準を想定してみよう。どんな商売でも、利益は返済で飛んで行く。それ以前に、とにかく銀行に濡れ手で突っ込めば大量の粟である。突っ込まれた銀行の方は困るだろうが、きっと日銀に預けるのだろう。驚くほど何もしない社会だ。


f:id:equilibrista:20161114130405p:image


我々は必然的に自律的に、心地よい水準を探す。トランプ新大統領の利上げ容認*2は、そうしたアクションの一部となるだろうか。あるいは、彼もまたブルータスだろうか。

2016-11-07

財務の独立性

会計検査院から、平成27年度決算検査報告の概要が公表され、その中で、最近の金融政策と日本銀行の財務について指摘されている。


量的・質的金融緩和等の日本銀行の財務への影響について(PDF形式:108KB)

http://www.jbaudit.go.jp/report/new/summary27/pdf/fy27_tokutei_04.pdf

したがって、日本銀行においては、金融調節等を通じて取得した金融資産について、保有長期国債の利回りが低下してきているなどの状況も踏まえて適切に各引当金を積み立て、また、特に必要があると認めるときは、当期剰余金の5%に相当する額を超える金額を法定準備金に積み立てるなど財務の健全性の確保に努めることが重要である。また、財務省においては、日本銀行から引当金の積立てを含む財務諸表等の承認又は法定準備金の積立ての認可の申請があった場合には、今後の日本銀行の財務の健全性を勘案した上で、国民に還元されるべきとされている日本銀行の利益の特質等に留意しつつ、引き続き適切に承認又は認可を行っていくことが必要である。


長期債の価格は、主に日銀自身のアクションによって上昇し、実際には含み益を抱えている状況になるわけだが、ともあれ財務に気をつけろという所見である。面白いのは引用部分の2文目で、財務省は、日銀が自身の財務を守ろうとすることを妨げるなと言っている。つい先日から浮かびつつあった今日のタイトルが、耳の底から響いてきた。これまで見たことがないので、おそらく誰も指摘していないと思うのだが、最初の壁を破ろう。中央銀行の独立性とは、財務の独立性のことである。


日本銀行の独立性とは何ですか?:日本銀行 Bank of Japan

https://www.boj.or.jp/announcements/education/oshiete/outline/a03.htm/

日本銀行法第3条第1項では、「日本銀行通貨及び金融の調節における自主性は、尊重されなければならない」として、金融政策の独立性について定められています。また、同第5条第2項では、「日本銀行の業務運営における自主性は、十分配慮されなければならない」として、業務運営の自主性について定められています。


通貨及び金融の調節における自主性とは、日本語に翻訳すれば、財務省あるいは政権の意向で、日銀の意思に反した形で国債を買わされないことだ。日銀の意思はといえば、当然、目的であるところの物価の安定に沿うわけだ。自らの財務の毀損による、高インフレ*1を防ぐことである。紙幣であれ、我々の貸し借りであれ、狭義の信用とは常に、貸したカネが返されるか否かという話であって、現代の契約社会では、必然的に財務のことを指す。