終風日報編集後記 ヒトとネアンデルタールの交配

 ヒトはネアンデルタールと交配して免疫を高めたという記事がサイエンスにあった。国内で報道されるだろうかと思っていたら、AFPの日本語版にあり本紙にも掲載されていた。▼「現生人類は約6万5000年前にアフリカからアジア、ヨーロッパへと生息域を広げていき、2つの近縁種を凌駕した。既に、ネアンデルタール人のDNAの約4%、デニソワ人のDNAの最大6%が現生人類の一部に引き継がれていることが分かっている」▼興味の先がどのような交配であったかという疑問に行き着くのはやむを得ない。暴力的なものだったのか、あるいは合意であったか。合意であるとしても情欲はありそこから暴力が生まれることもある。いずれ人間的ともいえる光景ではあったに違いない。▼思想家吉本隆明は人間の本質的な心的な傾向として「遠隔対称性」を挙げる。簡単に言えば、ヒトの心は長じて自分から遠い者に憧れていくということだ。吉本理論では性の幻想が個人と共同の幻想に向かう原理として描かれる。荒っぽい言い方をすれば、性衝動のなかに「遠い異性の獲得」が含まれているということになる。▼興に乗って言うにすぎないが、明治時代に組み上げられた国家宗教には一連のイコノロジー(図像解釈学)が付随していた。簡単にいえば古事記という神話が初めて絵として、しかも法則的に描かれたのである。これは見ればわかるようにギリシア神話像の贋作であった。西洋列強がギリシア神話女神の贋作をイコノロジーとしたという意味では世界的な動向であったが、日本においてはそれが西欧への遠隔的な情念とも結びついた。▼西洋人の「ヌード」というのは、現代の写真ですら、あれはあれで精神性のイコノロジーである。近代日本人の私が遠隔性として憧憬するかといえば、メディアとしてはよいが、身近の対象としてはつらい。まして恋情はとすら思う。