平成19年新司法試験の答案を作成してみた。(刑事系第2問)


前回の記事から時間が開きましたね。
あいかわらず、授業、起案、授業、起案の繰り返しです。

期末テストも12科目、計24時間、、、、。
レポートは1科目だけ、、、、(鬱)。


それはともかく、新司法試験の答案を作成してみました。
今回は、実際に答案を作成しました。

その後、なにも手直しすることなく、ワードに書き写しました。


今日は刑事系第2問です。
実際の答案では、158行(7頁と4分の1)くらいの長さになりました。

本番なら、これにあわせて刑法も書くんやよね。
そしたら、あわせて16頁くらい行くのではないか、、、(汗)。
考えただけで右手が痛くなります。

あ、今週の学校の答案練習会を使って、平成19年の刑事系第1問を書くつもりです。
来週くらいにはここにUPできるかな。


では、下に刑事系第2問をUPします。

実際に受験された方、予備校の答案例を検討された方、問題を読んだ方、これから検討する方、

参考にしていただき、遠慮なくコメントをください。


僕の個人的な感想としては、
設問1は、旧司法試験の平成15年第1問を検討しているか否かで、かなり差がつくんじゃないかと思います。
白鳥説を読んでるだけでは、写真撮影は強制処分になって即答案終了してしまいますが。
そんな答案は平成15年では軒並みFG評価と聞いたので、今回もそうだと思います。

設問2は、前科なんで事前準備の問題ですね。
前科と公訴事実の罪名が異なることに着目しました。



よろしくおねがいします。



試験問題は、

http://www.moj.go.jp/SHIKEN/SHINSHIHOU/h19-19jisshi.html

にあります(法務省にリンク

第1 設問1について
1 STUでのビデオ撮影・録画の適法性について
(1)ア 本問では、警察は、令状を取得せずに撮影・録画を行っている。そうすると、本問の捜査方法が強制処分(197条1項ただし書き)にあたるのであれば、令状が必要になる(令状主義・憲法35条法218条1項)。そこで、強制処分と任意処分の区別を検討する。
 思うに、現代では、科学的な捜査方法が発達し、強制力を行使しないでも人権侵害を行うことが可能である。そうすると、処分を受ける側の権利利益の侵害の態様で区別する必要がある。しかし、すべての権利利益の侵害が強制処分に当たるとすると、捜査目的を達成することができない。そこで、「強制の処分」とは、重要な権利侵害をいう。
イ 本問では、STUに出入する駐車場利用者の容ぼうが公権力に撮影・録画されるので、プライバシー権侵害の問題になる(憲法13条)。そして、利用者は何ら犯罪行為を行うものではない以上、理由なく容ぼうを撮影・録画されることはプライバシー権侵害という重要な利益を制限される処分にあたるとも思える。
 しかし、本問では、野外である駐車場において撮影している。そして、人は野外において自分の容ぼうを人に見られることを黙示的に承諾しているのであり、プライバシー権が保護されることへの期待が減少している。そうすると、利用者やその他の者のプライバシー権は、重要な利益としては保護の必要はない。よって、「強制の処分」によらず、撮影できる。
(2)ア もっとも、任意処分といえど、無制限に行われるものではなく、適正手続(憲法31条)の理念の下、限界が存在する。そこで、本問の撮影録画が任意処分の限界を超えて違法ではないか、検討する。
 この点、判例は、写真撮影の場面において、現行犯性がある場合に令状無く撮影することが許されるとした。
 しかし、将来に犯罪が行われることが強く予見されるのに、あらかじめ捜査をしておくことができないとするのでは、真実発見の要請に反する。
 そこで、?現行犯性、または撮影をする強度の必要性があり、?緊急性があり、?手段が相当な場合には、任意捜査の限界を超えず適法であると解する。
イ これを本問について検討する。
?について。本問では、すでに類似の放火事例がPQで発生しており、PQとSTUは隣接する木造住宅に囲まれていること、管理人が常駐しておらず、放火がなされやすいこと、だれでも自由に出入りできることが共通している。そうだとすれば、STUにおいて、PQで放火を行った者が同様に放火をする可能性がかなり高い。
 また、犯人を特定するためには、出入り口において撮影を行い、人の流れをチェックする必要がある。また、PQではC社の車が燃やされているのだから、STUにおいても同様にC社の車が燃やされると考えることが可能である。
 以上のことからすると、新たにSTUでの放火がなされた場合にその犯人を特定し、また、PQの放火の犯人を特定するためには、本件のように駐車場の出入口を特定することが困難である。以上により、?撮影録画をする強度の必要性がある。
 ?について。本問では、建造物等以外放火という社会法益に関する犯罪であり、一度発生すれば、他の車や隣接する住居に燃え広がるなど、多数の生命財産が危険にさらされる。
 また、本問の犯行は深夜に行われているが、必ずしも人通りが多いものではない住宅街であるB町において、ただちに放火が発見され、犯人が目撃されて犯人が逮捕されるということを期待することはできない。そうすると、?ビデオ撮影の緊急性がある。
 ?について。本問の撮影時間は、PQにおいて放火がなされた深夜に限定し、午前零時から5時に限定しており、それ以外の時間における利用者のプライバシー権を侵害しないように配慮している。
 また、撮影する場所について、一台のカメラは公道から見える駐車場入り口に限定し、駐車車両や公道の通行人の容ぼうを撮影していない。そうすると、放火の疑いの無い者がビデオに入ることがないような配慮をしているといえる。もう一台のカメラもC社の車を中心にとらえるにすぎず、広くすべての車を撮影し、他の利用者の容ぼうが撮影されることがないように配慮をしている。もっともC社の車の所有者、隣の車の所有者の容ぼうが写されることは否定できないが、公道に準じる屋外の駐車場であり、これらの者のプライバシー権侵害の程度は低い。
 さらに、ビデオテープの使用方法についても映像を精査した上で必要がないと判断したならば、他の捜査目的に使用することなく、上書きすることにより消去し、プライバシー権の侵害の程度は低い。よって、?相当といえる。
 以上により、STUにおける撮影・録画は適法である。
2 F方における撮影・録画について
(1)本問の処分は強制の処分か任意の処分か。
 本問では、甲方から出てきた又は入る直前の公道における人の容ぼうを撮影するにすぎず、私道での人の容ぼうを撮影したり、プライバシー権の保護の必要性が強い甲方の家の中を撮影したりするものではない。そうすると、公道においてはプライバシー権侵害の期待は弱くなっているのであるから、住人の重要な権利を侵害するとはいえない。よって、任意処分である。
(2)では、任意処分の限界を超えないか、前述の基準で判断する。
 ?について。本問では、警察の捜査により、甲とよく似た者がRの近くの路上で500ミリリットル程度の瓶を持ち、Rの方向から反対方向に走り去っていったことが目撃されていること、甲のバイト先でベンジン入りの瓶(500ミリリットル入り)が数本紛失されている。このことから、甲がベンジンを所持し、Rの駐車場での放火班員であることがある程度推認される。そうすると、Pの放火についてもその類似性から甲である可能性が高い。そして、いまだ甲の容ぼうがはっきりとしていないこと、また、新たに放火がなされた場合に甲のその当時の服装をチェックすることで、甲の犯人性が強く推認できることから、撮影をする郷土の必要性がある。
 ?について。本問では、多数の者の生命財産が危険にさらされる放火事件であり、早く犯人を特定することが要求される。よって、?も該当する。
 ?について。本問では、犯人が放火現場から帰ってくる時間は午前0時から5時までであることが予測される。その他の時間は撮影する必要性が無いので、時間を限定するのは相当なものである。
 また、撮影範囲を通行する者はすべて録画されるが、私的な領域ではなく公道を撮影しており、他の者のプライバシー権の侵害の程度は低い。また、甲宅の中を撮影せず、不要な画像は消去していることから、他の者に対し、プライバシー権を侵害しないように配慮している。
 以上により、?を満たし、本問の撮影・録画は適法である。
第2 設問2について
 被告事件の犯人が甲であることは犯人性を特定することである。これは刑罰権の存否およびその範囲に関する事実にあたり、厳格な証明(317条)によることが必要となる。
 そして、証拠に証拠能力が与えられるためには、?自然的関連性があること、?法律的関連性があること、?証拠禁止にあたらないことが必要である。本問では、特に??を検討する。
(1)?について
 自然的関連性とは、証拠が要証事実に対し、必要最小限の関連性を有することである。
 本問では、前科の事実が証拠となっている。本問の甲の前科は、器物損壊事件であり、本問の放火事件とは罪名が異なるため、必要最小限の関連性はないとも思える。
 しかし、前科事件は、たまたま公共の危険が生じなかっただけあり、仮に公共の危険が生じていたならば、同様に建造物等以外放火罪により処罰されていた事案である。
 そうすると、実質的には同一の罪名といえる。そして、同一の罪名の場合には、前科があるため、公訴事実を行ったという推認は可能である。そうすると、証拠が要証事実に対し、必要最小限の関連性を有する。よって?を満たす。
(2)?について
 法律的関連性とは、その証拠が裁判官の証拠の評価を誤らせないことをいう。
ア では、前科について法律的関連性は肯定されるか。
 思うに、前科を証拠として使用することを許容すると、被告は控訴事実のみならず、前科の事実の有無や、公訴事実との関連性を争う必要が生じる。そうすると被告人に必要以上に防御の範囲を広げることになり、酷である。
 また、裁判所に前科を示すことにより、裁判所は予断を持ちつつ審理に接することになる。これは、不告不理の原則や公平な裁判所(憲法37条1項)の理念に違反する。
 そこで、前科については、原則として法律的関連性が無いのが原則である。
 しかし、前科を証拠として使用する理由が以上のようなものであるから、?証拠として使用する特別な必要性があり、?被告人の防御に特に不利益とならないのであれば、例外的に法律的関連性が肯定されると解する。
イ 本問では、甲は自分は犯人ではないと述べて犯行を否認している。そうすると、甲の犯人性を立証するためには、他の物的証拠によらなければならない。そして、甲の前科はC社い逆恨みして屋根のない駐車場で本件と同様にひっかき傷を作り放火したというものであり、手段が公訴事実とかなり類似している。そうすると、前科を使用することで、公訴事実が甲によるものと強く推認できるので、?が満たされる。また、別の証拠で犯人性を争えばよく、?も肯定。よって、証拠とすることができる。
以上

平成19年新司法試験の答案を作成してみた。(民事系第1問)

まだ卒業していないので、受験はしていません。
しかし、授業の合間に答案構成をしました。
実際に答案を書いて、それを書き移すべきかとも思いましたが、二度手間なので答案構成のみにしました。
なにも参照していません。 
答案構成時間は40分なので、仮に答案を作成していたとしても、下記のようなものになっていたと思います。

今日は民事系第1問です。

実際に受験された方、予備校の答案例を検討された方、問題を読んだ方、これから検討する方、
参考にしていただき、遠慮なくコメントをください。
よろしくおねがいします。


試験問題は、

http://www.moj.go.jp/SHIKEN/SHINSHIHOU/h19-19jisshi.html

にあります(法務省にリンク)


1 設問1 
取締役であるB1としては、募集株式発行無効確認の訴え(828条1項2号)を提起して、本件の乙に対する募集株式の発行の有効性をあらそうことが考えられる。
(1)しかし、同条は、無効原因を明示していない。そこで、いかなる場合に無効原因になるか、まず検討する。
 思うに、募集株式は、発行後は証券として第三者に転々流通することが多く、取引の安全をはかることが要請される。
 また、会社が生じた損害等については、損害賠償で填補することも可能である。
 そこで、募集株式の無効原因としては、狭く解する必要がある。
(2)本問では、募集株式差止請求(210条)の要件を満たしていた可能性がある。そこで、差止請求の要件を満たしていたのに、発行された場合に、無効原因になるか、検討する。
 ア 第三者有利発行の事案であったのに、株主総会特別決議がなかったこと(199条3項、201条1項、309条2項5号)。
 本件株式発行が第三者有利発行にあたるのであれば、株主総会特別決議を経ていないという法令違反(210条1号)があることになる。
 そこで、「特に有利な金額」(199条3項)の要件を検討する。
 思うに、新株発行の場面で、第三者が株式を引き受けやすいように、時価よりも安く価格を設定する必要があることは否定できない。
 しかし、あまりに安くすると、既存株主の利益を害する。
 そこで、発行決定時直近の平均株価から10パーセントを引いた価格であれば、「特に有利な金額」にあたらないと解する。
 本問では、平成18年6月6日までの6ヶ月間の株価の平均価格に90パーセントを掛け合わせたものである。
 そうすると、計算方法によっては、不公正になりうるが、10パーセントを超えるものではなく、「特に有利な金額」にあたらない。
 したがって、法令違反ゆえに無効原因になるということはできない。
 イ では、「著しく不公正な方法」による場合にあたり、差止請求の要件を満たしていたということはできるか。その判断方法を検討する。
 思うに、会社では、多少なりとも資金調達の目的があるのであるから、資金調達の目的がない場合というように設定することはできない。
 そこで、主要な目的は何か、という見地から決すべきと解する。
 本問では、A1は、乙社との経営統合の手段として募集株式をはこうしている。これ自体は、企業結合の手段として通常ありうるものであり、不当なものとはいえない。
 また、55パーセントの株式を引き受けさせれば、乙社から相当の資金が甲に入ってくるのであり、これは甲の収益改善につながる。
 さらに、A1はB1と経営方針で対立はしていたものの、Bの不在の隙に株式発行を決定したにすぎず、Bを排除して地位を安定させる手段として株式発行を使ったものではない。
 以上のことからすると、A1の株式発行は甲社の経営改善、収益の安定のためになされており、その目的をみても「著しく不公正な目的」とはいえない。
 ウ 以上から、差止事由にあたることはなく、これをもって無効原因ということはできない。
(3)では、募集株式の発行までの取締役会の手続に瑕疵があったことをもって、無効原因とすることはできるか。
 まず、A1は召集通知を6月4日に発し、これはB1B2に到達している。そして、取締役会は7日に開催され、これは法定の出席要件(369条1項)を満たしているし、A1A2Dの全員が賛成しているので、決議は有効に成立している(369条1項)。
 しかし、A1は、B1らが海外主張に出かけたことを利用して召集している。これは、役会が紛糾しないようにする目的からでたことにあるといえる。
 かかる目的がある場合には、役会決議に瑕疵があるとして、例外的に無効というべきとも思える。 
 しかし、新株を引き受けた乙としては、このような取締役の1人の不当な目的を認識しうるとはいえず、このような無効原因を認めると、乙の取引の安全を害する。
 また、仮にA1らが出席しても、決議は過半数で通っていた可能性が高く、決議を無効としなくてもよいといえる。
 以上により、取締役会の手続に瑕疵があったとはいえず、これをもって無効原因とはいえないと考える。
(4)よって、無効原因はなく、B1が募集株式無効確認の訴えを提起しても、請求は認められない。
2 設問2
 Y1、Y2は任務懈怠に基づく損害賠償債務を乙に対して負わないか、(423条1項)検討する。
(1)任務を懈怠について
 乙会社では、甲の株式を引受けるにあたり、資料??を参照するなどしたうえで、これを行っている。かかるY1らの措置に任務懈怠はないか、経営判断に誤りがあり、善管注意義務違反(民法644条)になるのはどのような場合か、検討する。
 思うに、取締役が職務を執行するに当たり、将来の不確定な要素を考慮にいれつつ意思決定をしなければならない。
 それにも関わらず、安易に善管注意義務違反を肯定すると、取締役の経営が萎縮し、会社の運営をはかることができない。
 そこで、取締役の意思決定時において、通常の企業人がしないような不合理なことをしたような場合に限り、経営判断に誤りがあったとして、善管注意義務違反になると解する。
 本件では、資料?にあるような文書が、「研究費の大幅な低減が可能である」としたり、「開発期間が半分に短縮可能」としたり、「注通コストが削減できる」という記載をして、Yらの決定があながち不合理ではないとの結論をしている。
 しかし、資料?をすべて検討しても、Yらの計画を否定することはないが、積極的に肯定するような記載は認められない。
 そうすると、資料?の記載のみで通常の企業人がYらのような決定をするということはできない。
 そして、資料?を検討するに、CはB1の恩義をもっていままで甲で働いていたこと、Cはカリスマクリエイターであり、唯一の甲社の収益部門であるソフト開発部門で重要な存在であること、他のSEは企業への帰属意識が低く、これらの者のみでは収益を維持することは困難であることが記載されている。
 また、この記載からすれば、Bが取締役を辞めれば、Cが他企業に移ることは容易に予測できる。
 そうすると、甲社の他の部門では、従前の収益を維持することは困難であり、通常の企業人であれば、Bらがやめることを予測することができる本件では、甲と経営統合しないとするのが通常の判断である。
 したがって、Yらは、通常の企業人がしないような不合理なことをしたといえ、善管注意義務違反がある。
(2)損害について
 Yらが甲の株式を引受けたことにより、Cが辞め、その結果、甲社のソフト開発部門の収益性が下がり、甲の株価が下がったことは、通常人では予見できたものである。そうすると、甲社1株あたり160円の減損処理額×乙の引受けた株式数の金額は、「損害」(423条)にあたる。
(3)過失について
 前述のように、乙が甲の株を引受ければ、Cが退職し、甲の収益が下がることが予見可能であり、Yはこの事実を資料?をもって予見できたのに、回避しなかった。そうすると、Yらに過失がある。
(4)以上により、Yらは乙に対し、善管注意義務違反に基づく損害賠償債務を負担する。
                            以上

最終学年前期

2008年の新司法試験を受験するので、今年度前期に大量に単位をとって後期を受験勉強の時間にあてなければならない。

そこで、前期は14コマを履修予定です。
内容は、、
公法実務総合演習、
民事実務総合演習、
刑事実務総合演習、
企業法務ⅠⅡ、演習(2コマ)、
労働法務ⅠⅡ
情報法、
家事法務Ⅰ、Ⅱ、
保険法、
独占禁止法
です。
授業の内容、得られた点等は、順次書いていこうと思います。

とりあえず、今からは、春休みにできなかった会社法の講義テープを聴くことにします、、、。

 平成18年刑法 成績A(自己評価B)

第 1 問
 病院長である医師甲は,その病院に入院中の患者Xの主治医Aから,Xに対する治療方法についての相談を受けた。
 Xに対して恨みをもっていた甲は,特異体質を持つXに特定のある治療薬を投与すれば副作用により死に至ることを知っていたことから,Aをしてその治療薬をXに投与させてXを殺害しようと考えた。そして,甲は,Aが日ごろから研修医乙に患者の検査等をすべて任せて乙からの報告を漫然と信用して投薬を行っていることを知っており,かつ,乙がAの指導方法に不満を募らせていることも知っていたので,AにXの特異体質に気付かせないままその治療薬を投与させるため,乙を仲間に引き入れることにした。
 そこで,甲は,乙に対し,「Xに特異体質があるので,特定のある治療薬を投与すれば,Xは,死に至ることはないが,聴力を失う。」旨うそを言い,Aの治療行為を失敗させることによってAの信用を失わせようと持ち掛けた。すると,乙は,これを承諾し,甲に対し,「AからXの検査を指示されたときは,Aに『Xに特異体質はない。』旨うその報告をする。」と提案し,甲は,これを了承した。
 その上で,甲は,Aに対し,その治療薬を投与してXを治療するよう指示した。そこで,Aは,乙に対し,Xの特異体質の有無について検査するよう指示したが,乙は,Xに対する検査をしないまま,Aに対し,「Xを検査した結果,特異体質はなかった。」旨報告した。
 Aは,本来,自らXの特異体質の有無を確認すべき注意義務があり,もし,AがXの特異体質の有無を自ら確認していれば,Xの特異体質に気付いて副作用により死に至ることを予見し,その投薬をやめることができた。しかし,Aは,実際には,その確認をせず,軽率にも乙の報告を漫然と信用したため,Xの特異体質に気付かないまま,Xに対し,その治療薬を投与してしまった。その結果,Xは,副作用に基づく心不全により死亡した。
 甲及び乙の罪責を論ぜよ(ただし,特別法違反の点は除く。)。

(出題趣旨)
 本問は,患者の殺害を企図した病院長が,他の医師とともに,患者の主治医をして患者の特異体質に気付かせないまま治療薬を投与させて患者を死亡させたという事例を素材として,事案を的確に把握してこれを分析する能力を問うとともに,過失行為を利用した間接正犯及び共同正犯の成否等に関する理解とその事例への当てはめの適切さを問うものである。

1 甲の罪責について
 甲は乙に嘘を言い、Aを利用することでXに治療薬を投与している。その結果Xは死亡している。そこで、甲の行為に殺人罪が成立しないか、検討する。
1) この点、甲は乙、Aの行為を利用している。そこで、間接正犯に実行行為性がみとめられるか、検討する。
ア 思うに、実行行為とは、特定の構成要件に該当する法益侵害の現実的危険性を有する行為である。そうだとすれば、他人の行為を利用することによっても法益侵害は可能であるから、間接正犯に実行行為性は認められると解する。具体的には、①自己の犯罪として行う意思があり(正犯意思)、②他人の行為を自己の行為として一方的に支配利用すれば、間接正犯の実行行為性は認められると解する。
イ 本問で甲は乙のAに対する報告行為を利用している。まず、甲はXに対する恨みを晴らすために利用しているのであり、①正犯意思がある。
しかし、乙はXに傷害行為をすることは認識している。そうだとすると、乙は犯罪行為をすることは認識していたのだから、②一方的に支配利用されていたとはいえないとも思える。
  しかし、乙は甲の殺害意思については知らなかったのであるから、甲が犯そうとした犯罪については事情を知らず、甲の道具といえる。そうすると、甲は乙の行為を自己の行為として一方的に支配利用していたといえる(②)。
ウ また、甲はAの行為を利用している。そして、Aに過失犯が成立するのならば、甲はAの行為を一方的に支配利用したとは言えないとも思える。そこで、Aに業務用過失致死罪(211条1項前段)が成立するか、「怠」ったといえるか。検討する。
 ア)思うに、たとえ法益侵害の結果が発生しても、社会通念上要求されている行為をしたのであれば、違法性はないはずである。そこで、過失は違法性を類型化した構成要件で検討すべきである。具体的には①結果予見可能性を前提とした②結果回避義務違反があれば、過失があり、「怠」ったことになると解する。
 イ)本件では、AはXが特異体質により死亡することを予見しえたのであるから、①結果予見可能性がある。また、自ら特異体質の確認をしていれば死亡を防ぐことができたのに、これを行わなかったものである。そうだとすると、Aが軽率に乙の報告を信頼して治療薬を投与することは、②結果回避義務違反があったといえる。以上により過失があり、「怠」ったといえる。Aに業務上過失致死罪が成立する。
   そうだとすると、Xが死亡したのはAの行為によるものであり、甲に帰責しえないとも思える。しかし、甲はAの過失行為を予想して利用したのであるから、②Aの行為を一方的に支配利用したといえる。
エ 以上により、甲の行為に殺人罪の実行行為性が認められる。
2)また、甲は乙とAの行為を予見したうえで実行に移している。そうすると、甲の行為→乙の報告→Aの過失行為→Xの死亡結果が生じるのは社会通念上相当である。因果関係はある。
3)よって、甲の行為に殺人罪が成立する。
2 乙の罪責について
 乙はXの聴力を失わせる目的で、Aの行為を利用し、Xを死亡させている。そこで、乙の行為に傷害致死罪(205条)の間接正犯が成立しないか、①②の要件を検討する。
1) 本問では乙は、自己のAに対する不満を晴らすためにXを死亡させ、Aの信用を失わ
せようとしている。そうすると①乙に正犯意思はある。
2)また、乙は、Aが漫然と投薬を行うという過失行為を利用しているので、②Aの行為を一方的に支配利用したといえる。以上により、傷害罪の間接正犯の実行行為性はある。
3)では、乙の利用行為とXの死亡に因果関係はあるか。
  本問ではXが報告を信用して漫然と投薬をいる。そして、入院患者への投薬方法を間違えれば、死の結果が生じてしまうことはよくあることである。そうだとすると、乙の行為とXの死亡に因果関係はある。
4)よって、乙の行為に傷害致死罪の間接正犯が成立する。
3 共同正犯について
 甲と乙の行為に傷害致死罪の共同正犯(60条・205条)は成立するか、検討する。
1)この点、甲はXを殺す意思、乙はXに傷害を加える意思を有しながら、Xを死亡させている。このような場合に共同正犯は認められるか、検討する。
2)思うに、共同正犯に一部実行全部責任が認められた(60条)趣旨は、相互利用補充関係の下、特定の犯罪を惹起したことにある。そうだとすると、共同して犯罪を実行した場合に共同正犯が認められると考える(犯罪共同説)。
  もっとも、犯罪すべてを共同する必要は無いことから、構成要件的に重なりあう範囲で共同すれば、その限度で共同正犯は認められると解する。
3)本問では、甲と乙はXの身体に攻撃を加える限度について共同している。そうすると、甲・乙が犯そうとした犯罪は傷害致死罪の限度で重なりあう。
4)よって、甲と乙の行為に傷害致死罪の共同正犯が成立し、甲には殺人罪の単独犯が成立する。
                                     以上
・第1印象「2重の間接正犯か・・・」
・反省等 因果関係をどれ位論証しようか、その配分にかなり迷った。一方で「他人の行為が絡んでいるので、積極的に論じよう」と思った。しかし、他方で、「死因が当初の予見どおりの『副作用』であるので、因果関係が明らか」とも言いうる。
「因果関係に配分をおくかは、死因をチェックし、行為者が予見したものか否かで決める」というマニュアルを(一応)持っていたので、行為者が予見したものである以上、「ちょろっと触れる」という風に逃げた(H11−1参照)。
 
 罪責を問われていない者の部分を書いてしまったのは失敗(過失犯の部分)。
 
 共同正犯については、どのように書くべきか迷ったが、H15−1で独立した項目で書いてAという再現答案があったので、それに従った。

・未来に向けて 共同正犯は永遠のAランク。 

 平成18年民事訴訟法 成績A(自己評価B〜C)

第 2 問
 株式会社Xは,Yとの間で中古の機械を代金300万円で売り渡す旨の契約(以下「本件売買契約」という。)を締結し,当該機械をYに引き渡したが,Yが代金の支払をしないと主張して,Yに対し,本件売買契約に基づき代金300万円の支払を求める訴えを提起した。
 この事例に関する次の各場合について答えよ。
 1  Yは,第1回口頭弁論期日において,(1)「Xとの間で本件売買契約を締結したことは認めるが,契約締結後に当該機械の性能では購入の目的を達成することができないことが判明したから,本件売買契約は錯誤により無効である。」と主張した。ところが,第2回口頭弁論期日において,Yは,(2)「Xと本件売買契約を締結したのはYではなく,Yが代表取締役をしている株式会社Zである。」と主張した。
 Yの(1)及び(2)の各主張の訴訟上の意味を明らかにした上で,(2)の主張の訴訟法上の問題点について論ぜよ。
 2  Yが,第1回口頭弁論期日において,「Xと本件売買契約を締結したのはYではなく,Yが代表取締役をしている株式会社Zである。」と主張したため,Xは,Yに対する訴えを取り下げた。その上で,Xは,改めてZを被告として同様の訴えを提起したところ,Yは,Zの代表取締役として,「Xと本件売買契約を締結したのはYであり,Zではない。」と主張した。
 裁判所は,Zの主張をどのように取り扱うべきか。

(出題趣旨)
 1は,裁判上の自白,抗弁及び否認を正しく理解しているかを問う問題である。(1)の主張は自白及び抗弁から成ること,(2)の主張は積極否認であり,かつ,自白の撤回であることをそれぞれ理由を付して指摘した上で,自白の拘束力の内容及びその根拠,自白の撤回が許される要件について論ずべきである。2は,民事訴訟においてどのような場合に信義則が適用されるかを問う問題であり,XY間の訴訟とXZ間の訴訟とが当事者を異にする別訴訟であることを踏まえて検討すべきである。


1 小問1前半
1)(1)の意味について
ア まず、「Xとの間で本件売買契約を締結したことは認める」という主張の意味を検討する。
 この主張は、裁判上の自白(179条)としての意味を持たないか、検討する。
 この点、裁判上の自白とは、相手方の主張と一致する、自己に不利益な事実に期日における陳述をいう。そして、「自己に不利益な」とは、相手方が証明責任を負う事実のことをいう。また、証明責任とは、ある事実が真偽不明の場合に、その事実を要件とした自己に有利な法律効果の発生・不発生が認められないという一方当事者の地位をいう。さらに、証明責任の分配は、自己に有利な法律要件を主張するものが追うことになると解する。
 本件では、売買契約の締結の事実は代金支払請求権の発生を基礎づけるものであり、Xが証明責任を負う事実である。したがって、「自己に不利益な」の要件を満たす。
 しかし、本件では「売買契約を締結」という法律用語を使用している。そこで、請求の当否の判断の前提をなす権利法律関係に関する自白として、権利自白にあたる。そこで、権利自白に裁判上の自白が成立するか検討する。
 思うに、法律の適用は裁判所の専権に属するものであり、当事者が自由に処分できるものではない。そこで、権利自白が成立しても、裁判上の自白は成立しないと解する。
 もっとも、日常用語に引きなおすことができる場合には、裁判上の自白は成立するものと解する。
 本件では「本件売買契約を締結したことは認める」と主張しており、売買契約は日常用語として使われている。そうすると、日常用語に引きなおすことができる場合にあたり、例外的の裁判上の自白は成立する。
 したがって、裁判上の自白が成立し、その効力として①裁判所はこの自白に拘束される。また、②Xは売買契約を締結した事実を主張する必要はない(179条)。さらに、③Yはこの自白を撤回できない。
イ では、「錯誤により無効である」と主張した部分の意味はいかなるものか検討する。
 この点、売買契約が錯誤により無効であったという事実は、売買代金支払請求権の発生を妨げる、権利障害事実である。そうだとすると、抗弁にあたり、この事実が認められることにより有利になるYが証明責任を負う。
 そうすると、上記の部分は抗弁になるという意味がある。
2)(2)の意味について
 この点、(2)に主張した事実が認められる場合には、XのYに対する請求には理由がないことになる。そうすると、この主張はXの請求に理由がなく、却下を求めるという意味があると考える。
2 小問1後半について
 本問の(2)部分の主張が認められる場合には、裁判所はXの請求を却下すべきなのが原則である。
 しかし、Xが、代表取締役がYであるZに再度訴えを提起しなければならないとするのは煩雑であり、本件の訴えの中でZに訴えを向け代える必要がある。
 そこて、当初訴えられていた者から他の者に訴えを向け代えるという任意的当事者変更が認められるか、その要件を検討する。
 思うに、新当事者の手続保障と旧当事者の便宜の調和の見地から、任意的当事者変更の法的性質は、旧訴の訴えの取下げと新訴の提起の併合形態であると解する。
 そうすると、任意的当事者変更は1審のみで可能であり、また、新当事者の手続保障の見地から、旧訴訟での訴訟審理は引きつがれないのが原則である。
 しかし、旧当事者と新当事者が実質的に同一である場合には、新当事者の手続保障を考える必要はない。そこで、かかる場合には、旧訴訟での訴訟審理は引き継がれるものと解する。
 本件では、ZはYを代表取締役とする者であり、Zを被告としても以前と同様にYにより訴訟追行される。したがって、旧当事者と新当事者が実質的に同一である場合にあたる。
 したがって、本件でZに任意的当事者変更をしたとしても、以前の訴訟審理はZに引き継がれる。
3 小問2について
 本問の旧訴訟の被告はYであり、新訴訟の被告はZである。そうすると、YとZは別の人格である以上、Zの主張は認められるのが原則である。
 しかし、前訴での主張をしたのはYであり、後訴で主張をしたのも、Zの代表取締役としてのYであり、Yの言動は前後矛盾している。
それにもかかわらず、Yの後訴での主張を認めることは、前訴でYの主張を信じて訴えを取下げたXの信頼を害する。
そこで、裁判所はZの主張が信義則(2条)に反するものとして、排斥すべきである。
                                     以上

・第1印象→「1(2)の部分は自信がない」
・反省等 1(1)の部分は権利自白ということを皆書いているが、出題趣旨からは明らかでない。「売買」は権利自白として問題になり得る→しかし日常的用語なので、自白成立肯定。という流れは押さえていたので、書いた。しかし、権利自白を論証せずにAの再現答案もある。
 反省点は、第1に、1(2)を任意的当事者変更としてしまったこと。素直に読めば、自白の撤回であることが分かるのに・・・。これで沈まなかったということは、よほど第1問の出来がよかったのであろうか。
 また、1(2)が積極否認であることの認定も出来ていない。
・今後に向けて 積極否認、否認、抗弁の区別など、「論点以前」の知識を正確にしなければならない。

▼合格者コメント「相当に不十分な答案
それにもかかわらずAなのは、他の受験生の出来が相当悪かったから。(「採点した答案の3分の1しか自白の撤回を論じていなかった」(試験委員)。
第1問が上位答案であったので、第2問が平均でもカバーされたのであろう。」