日経・経済教室、「復元優先より集積促せ」「住民の負担を最小化」「都市政策、人口減少見据えて」

3/12日経・経済教室、復興から再生へ3、脱成長論を疑う
「復元優先より集積促せ」「住民の負担を最小化」「都市政策、人口減少見据えて」
日本大学教授・中川雅之
ポイント
* 被災前の都市の成長過程が復興過程に影響
* 高齢者向けサービスの効率性にも配慮必要
* 利用券交付などで収縮地域の人口移動促せ

正論だが、政治的に実現できるか。

震災前にはよくコンパクトシティということが言われていた。特に青森市の例などはよく報道されていた。ウィキペディアでは、コンパクトシティについて次のように説明されている。

コンパクトシティの発想
こうした課題に対して、都市郊外化・スプロール化を抑制し、市街地のスケールを小さく保ち、歩いてゆける範囲を生活圏と捉え、コミュニティの再生や住みやすいまちづくりを目指そうとするのがコンパクトシティの発想である。1970年代にも同様の提案があり、都市への人口集中を招くとして批判されていたが、近年になって再び脚光を浴びるようになった。再開発や再生などの事業を通し、ヒューマンスケールな職住近接型まちづくりを目指すものである。
交通体系では自動車より公共交通のほか、従来都市交通政策において無視に近い状態であった自転車にスポットを当てているのが特徴である。

ところが震災後には、まったくコンパクトシティ(以下、CCという)が言われることはなくなった。CCは復興には相応しくないと受け取られているかのようであった。被災者に対してCCを持ち出すのは、住民を住んでいた地域から追い出すような強権的で冷酷な宣言のように受け止められるからであろう。

本日の経済教室は、生産性が上昇し空間的にも拡大している「成長都市」と逆の過程にある「収縮都市」ではとるべき復興戦略が異なるとして、ハリケーンカトリーナに襲われたニューオーリンズ市(2005年8月)、北海道南西沖地震のあった奥尻町(1993年7月)、阪神大震災で大被害を受けた神戸市(1995年1月)の例を取り上げている。収縮都市では災害の影響を受け被災1年後には非連続的に人口を減らし、その後も回復することなく減少を続けている。これに対し成長都市である神戸市では、地震で人口は一時大きく減少したが、その後急回復し、10年後には被災前の人口を回復していることを示している。

そして、今回の復興のあり方について、次のように提言する。

被災地の多くは収縮しつつある都市あるいは地域だった。仙台都市圏のような成長都市の復興ではまず従前の状態を回復することをベンチマークにすることが可能だが、収縮都市における復興の基本的な方向性は慎重な検討が必要だろう。収縮都市の場合、非連続的で不可逆な人口減少が起きる可能性が高い。

収縮都市において被災前の都市のスペックを復元することは合理的ではないだろう。

住宅やインフラの復興は、被害が比較的軽微な地域や、もともと人口の成長が期待できた地域に重点化し、その他の地域についてはバウチャーの交付などにより、人口移動を促すことを真剣に検討する必要があるのではないか。

集積の促進は、移動先の住民にとっても、移動する住民にとっても、一人当たりの都市サービスに関する負担を引き下げる可能性が高い。生まれ育った地域を離れることが、移動する人々に大きな負担を及ぼすことは明らかであろう。しかし群を抜いて悪いわが国の財政状況を勘案すれば、人口減少、少子高齢化時代にふさわしくない都市構造を再生産することは、将来世代に大きな負担をもたらす可能性が高い。人口移動を明示的に組み込んだ復興と、移動する人々の痛みを社会全体で分かち合う仕組みを考えるべき時期ではないだろうか。

東日本大震災からの復興は、縮小しつつある都市や地域が被災地に含まれる可能性の高い東海地震東南海地震、南海地震などにおけるモデルケースになるとともに、今後の人口減少、少子高齢社会の町づくりのモデルケースになろう。目前にある問題の解決を中長期的な観点から考える姿勢が求められる。


折しも福島第一原発事故で認定された「帰還困難区域」や「居住制限区域」の不動産買い取りが報じられている。単に金をばら撒くのではなく、中長期な展望にたったプランを政府と与党が提起できるかが見所である。

東京電力福島第1原発事故の損害賠償方針を審議している文部科学省原子力損害賠償紛争審査会(会長・能見善久学習院大教授)は23日、将来も居住制限を受ける「帰還困難区域」にある住居や企業の事務所などの不動産について、事故発生前の時価相当分を全額賠償の対象とする方針を決めた。
また現時点の年間被ばく線量が20〜50ミリシーベルトで、すぐ帰るのは難しいが5年以内に帰還の可能性のある「居住制限区域」の不動産は、賠償額を時価から何割か減少する案が検討されたが、継続審議となった。