小出裕章氏講演「原子力の専門家が原子力に反対するわけ」2011.3.20(日)於アクティブやない 第6回


 次に何をやったかというと、原発を都会には作らないようにした。日本の原子力発電所はいったいどこにあるか。それはどうしてそんなことができたかというと、原子炉立地審査指針という、まあ法律を作ったんですね。その法律にはこう書いてある。「原子炉の周囲は、原子炉からある距離の範囲内は、非居住区域であること」と書いてあります。つまりある範囲は、人が住んではいけない。電力会社が敷地を買い取って、人を近づけるなというわけです。


 次に、原子炉からある距離の範囲内にあって、非居住区域の外側の地帯は、低人口地帯であること。都会はいけません。さらに念がいっている。原子炉敷地は、人口密集地帯から、ある距離だけ離れていること。何なんですかこれ一体。電気使うところに作れよと私は思います。


 そして実際にどこにつくったか。いうと、今赤丸を順番に打っていく。ここが福島。関西電力若狭湾にピピピピピ。ここは皆さんの目の前の四国の伊方。関東地方は全部素通り。名古屋圏も素通り。大阪湾も素通り。本当に人の住んでいないところに建てて、長い送電線を敷いて、都会に電気を送るということをやってきた。ここに青い点を打ったのは、六ヶ所の再処理工場という、原子力発電所よりまたはるかに危険な工場を押しつけた。そして青森には今、大間というところにまた、巨大な原子力発電所を作ろうとしています。住民が抵抗しています。そして、ここが皆さんの、上関。こんなことをやりながら、日本の原子力というものはやってきました。


 何ででもやるか、というと、電力会社が儲かるからです。何で儲かるかというと、法律でちゃんと守っているから。皆さんは、電気を買おうと思ったら、中国電力からしか買えません。魚を買おうと思ったら、祝島の方からだって買えるし、他のどこの魚だって買える。どっちがうまいか。どっちが高いか安いか。みんな選択ができるけれども、電気だけはできないんです。


 では、私たちが買う電気の値段って、どうやって決めるかというと、法律で決めてあります。こんなふうに。まず電力会社も会社だから、必要経費があるだろう。減価償却費、営業費、税金とか、それは必ずある。それに、会社なんだから、儲けをとらなければならない。利益ですね。それを合算したものを総括原価と言っている。この総括原価が懐に入るように電気料金を決めろと書いてある。


 では、この利潤というのは、いったいどうやって決めるか。普通だったらみんな汗水たらして、少しでもいい商品を作って、買ってもらって、利潤を取ろうと思うわけですけれども、電力会社の場合の利潤というのは、これも法律で決まっている。レートベースというものに、報酬率という、まあ一定のパーセントをかけて利潤を決めろと。それだけ儲けていいぞと書いてある。


 じゃあそのレートベースというのは何かというと、ここに書きましたけど、言ってみれば資産なんです。電力会社が持ってる資産。それの何パーセントかという割合を必ず毎年儲けていいですよと書いてある。原発というのは建設費が膨大です。一基作るのに、5000億円、6000億円かかる。建設期間がずっと長くかかる。核燃料を備蓄すればそれも資産となる。研究開発などの特定投資も巨額である。それらすべてが利潤をふくれあがらせる。原子力発電をやればやっただけとにかく電力会社はどんどんどんどん儲かるというそういう法律だった。それで電力会社はうまくてうまくてしょうがなくて、ずーっとやってきた。


 その結果どうなったかというと、電気代がどんどんどんどん高くなっていきました。当たり前ですね。原子力発電の電気は一番高い。国や電力会社の宣伝によると、何か原子力発電の電気は安いかのように言いますけれども、そんなことはありません。十歳のデータから計算してみる。これは立命館大学の大柴さんという方が、実際の電力会社の有価証券取引書から計算してくれてこの図を、こんなデータを作ってくれたのです。原子力発電、火力、水力、一般水力、揚水、原子力+水力と並んでおりますが、発電方法で一番高いのは何かと言いましたら原子力


 そしてこの揚水発電というのは何のためにあるかと言うと、原子力発電が小回りが利かない、夜間で消費が減ったときに止めることができない、そうすると電気が余ってしまう。しょうがないからあまった電気を使うためにこの揚水発電所というのを作るんですが、上と下に池を作っておいて、夜間電気が余ったときには、下の池から上の池に水を汲み上げて、昼間電気をたくさん使うときに、上の池から下の池に対して水を落として発電するという。そのたんびにエネルギーをどんどんどんどんロスしていくという馬鹿げた発電所ですけれども、その電気代がものすごいケタ違いに高い。でもこれは原子力発電をやるために必要なものですから、それも上乗せするとすれば、一般水力なんかに比べたら遥かに高いという。こんな馬鹿げた発電方法が原子力なんです。


 でも中国電力もやろうとしてるんですね。まだまだ原子力をやろうとしている。これまでもやってきたし、原子力発電は絶対安全です。言い続けて、上関にも建てようとしている。それをやるときに、彼らは事故をちゃんと考えてると言うのですね。原子炉立地審査指針というので事故を考えているというわけです。

 その指針では、重大事故というような事故を考える。これは、技術的見地から見て、最悪の場合には起こるかも知れないと考えられる重大な事故である。つまり、技術的にもう、これ以上考えられないというような事故を考えてますという。


 そしてさらに念を入れて、仮想事故というのも考える。重大事故を超えるような、技術的見地から起こるとは考えられない事故。こんなものまでちゃんと考えて、事故のことを評価しているから、原子力発電所は絶対安全ですと彼らは言い続ける。でも重大事故にしても仮想事故にしても、皆さんこのごろ報道で聞いてると思いますけれど、原子炉格納容器というものが、原子力発電所にはあります。放射能を送り込める最後の防壁ですけれど、その最後の防壁だけは絶対に壊れないという仮定なんです。もう福島の事故では最後の防壁までが壊れてしまいましたけど、絶対壊れないから安全、防壁で閉じ込めているから。当たり前じゃないですか。そんなもの考える事故がおかしい。


 それ以上の事故、格納容器が壊れるような事故は、想定不適当だと彼らは言ったんですね。なぜ想定不適当かと私が問うと「起こる可能性が低いから」と彼らは言う。万一にも万々一にもそんなこと起こるはずがないから大丈夫だよと彼らは言ったんですね。そこでじゃあ、起こる可能性は低いというけど一体いくらなのかと聞くと、彼らの答えはこうなんです。「研究がなくわからない」「杞憂と言えるほど低い」こんなもの科学と無縁ですよ。起こらないだろう、起こらないでくれよと言ってるんですね。


 そのため今はどうなっているかというと、確立論的安全評価という、どんな低い事故だって起こる可能性は必ずある、そういうものまで含めて研究して、ちゃんと科学的なデータを公表しなければならない。そういう時代にすでに入っている。


 今度福島で起こったことはまさに、彼らが想定不適当と言った事故が、残念ながら福島で起きてしまって、今現在進行中ということです。

 
 原子炉の事故が起きた翌年に、原子力安全白書というものが出ました。これは日本の原子力安全委員会と言ってる、原子力発電の安全性を守るためにあるのが建前の委員会が出すものなんですけれど、私はその委員会を「原子力安全宣伝委員会」と呼んでいます。その委員会が、2000年に報告書を、ま白書を出したんですね。この報告書に何て書いてあるかというと、こう書いてある。「多くの原子力関係者が、原子力は絶対安全などという考えを実際には有していない」と書いてある。


 どう思いますか皆さん。中国電力に聞きに行ってください。原子力は安全かと。絶対安全です、と言ってきたんですよ。ずーっと何十年も何十年もの間。今日は行ったらわかりませんよ。彼らもさすがに不安に思っているかも知れないけれど、ずーっと絶対安全だと言い続けてきた。でも、原子力安全白書には「多くの原子力関係者が、原子力は絶対安全などという考えを実際には有していない」と言う。危険があるってことを承知だと言うんですね、本当には。「にもかかわらず、こうした誤った安全神話がなぜ作られたのだろうか。その理由としては以下のような要因が考えられる。外の分野に比べて高い安全性を求める設計への過剰な信頼。長期間にわたり人命に関わる事故が発生しなかった安全の実績に関する過信、過去の事故経験の風化、原子力施設立地促進のためのPA(パブリック・
アクセプタンス=公衆による受容活動)の分かりやすさの追求、つまりだましやすいかどうか。最後はこれです。絶対的安全への願望。


 私だって安全であってほしいです。原子力発電所が事故を起こしてほしいなんて、私だって願わない。でもときに事故を起こすんです、機械というのは。そしてとてつもない危険を抱えていて、都会出は引き受けられないのであれば、どこに建ててもいけない。というものだと私は思います。


 それを今、まだ日本という国は、過疎地に押し付ける、上関にも押し付けるということをやろうとしている。これが皆さんの向き合ってる上関原発。位置。柳井市はここ。ごく近くですね。もっと大きくすると、ここに柳井、ここに田野浦、祝島は目の前にある。ここに、今2基計画しています。

 137万3000キロワット、私は先程から100万キロワットの原子力発電所のことを基本にして話をしてきました。チェルノブイリ原子力発電所もぴったり100万キロワットの出力です。それよりも4割も大きいような、原子力発電所を2基作ろうとしている。というのが、上関の計画。そんな原子力発電所がもし事故を起こしたら、どんなことになるのかということを、シュミレーションした結果を、今日は持ってはきたのですけれど、もう時間がつきてしまいました。でもそんなシュミレーションの結果、計算ですけど、私が計算をしたものを見るよりは、先ほど見ていただいたチェルノブイリという事実を見てもらうのがいいと思うし、今現在進行中の、福島の事故で、いったいどれだけの悲惨な被害が出るのかということを見ていただければ、もう一目瞭然、わかっていただけるだろうと思います。


 私は、こうした事故の経験を、風化させることなく、ちゃんと評価して、原子力を即刻廃止すべきだと思います。それができなければ、あまりにも馬鹿な国、ということになってしまいます。何とかみなさんもここで踏みとどまって、ちょうど山口県の知事も、工事の中止を要請するというようなことに、ようやくにして、なりました。祝島の人たち28年の戦いの上に、そこまで私たちは踏ん張ってきたわけですから、何としてもこの機に、上関の原発を葬りさる、ということにしていただきたいと思います。今日はありがとうございました(拍手)。