大学院はてな :: 長期間経過後の懲戒権行使

 研究会にて,ネスレジャパンホールディング事件(最二小判・平成18年10月6日・公刊物未登載)の検討。
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20061010130337.pdf
 1993年10月26日ならびに1994年2月10日,社内で暴行事件が発生。両事件の被害者Aが加害者X1,X2らを被告訴人とする告訴状を警察等に提出していたため,Y社は捜査を待って処分を検討することにする。
 1999年12月28日,検察庁は不起訴処分とする。2001年4月17日,Y社はXらに諭旨戒告を通告し,同月26日に懲戒解雇にした。本件は懲戒解雇の無効確認を求めたもの。
 第一審(水戸地龍ヶ崎支判・平成14年10月11日・労働判例843号55頁)は請求を認容。これに対し,控訴審(東京高判・平成16年2月25日・労働経済判例速報1890号3頁)はXの請求を棄却していた。
 最高裁は破棄自判。Xの請求を認容する判断をした。

 本件諭旨退職処分は本件各事件から7年以上が経過した後にされたものであるところ,被上告人においては,A課長代理が10月26日事件及び2月10日事件について警察及び検察庁に被害届や告訴状を提出していたことからこれらの捜査の結果を待って処分を検討することとしたというのである。しかしながら,本件各事件は職場で就業時間中に管理職に対して行われた暴行事件であり,被害者である管理職以外にも目撃者が存在したのであるから,上記の捜査の結果を待たずとも被上告人において上告人らに対する処分を決めることは十分に可能であったものと考えられ,本件において上記のように長期間にわたって懲戒権の行使を留保する合理的な理由は見いだし難い。

 というわけで,(1)就業時間内に(2)社内の人間が関係者である事案においては,7年以上を経過しての懲戒権行使(退職処分)は許されないとの結論が得られた。当然の判断だと思われるところ。おかしいのは,懲戒権の行使を是認していた高裁判断(裁判長:久保内貞亜)の方だろう。