【注目記事/神戸新聞】 原発事故の内部被ばく 神戸の医師が警鐘本

神戸新聞 2011年10月11日付】
原発事故の内部被ばく 神戸の医師が警鐘本 
http://www.kobe-np.co.jp/news/shakai/0004540711.shtml

原爆被爆者を診察する郷地秀夫医師=神戸市中央区、東神戸診療所

 原爆被爆者の治療を続ける東神戸診療所(神戸市中央区)の医師、郷地(ごうち)秀夫さん(63)が「被爆者医療から見た原発事故‐被爆者2000人を診察した医師の警鐘」を出版した。著書の中で郷地さんは「国は原爆の放射線被害を過小評価し、病気との因果関係を否定してきた。福島の原発事故でも内部被ばくを軽視し、同じ過ちを繰り返そうとしている」と危惧する。

 原爆のような熱線や爆風のない原発事故は、見えない放射能との闘いだ。広島、長崎では、原爆投下後に被爆地に入った救護者らが残留放射線で被ばくし、数年後に白血病、30〜40年後にがんなどを発病する人が相次いだ。

 しかし、国が「原爆症」として被爆と病気の因果関係を認めたのは被爆者手帳を持つ約22万人の3%ほど。全国の被爆者が原爆症の認定を求めた集団訴訟でも、国は「内部被ばくの影響は無視しうるというのが確立した科学的知見」とする主張を繰り返した。

 今年7月、東京地裁は、放射線健康被害に関する専門家の意見が分かれていることを踏まえ、「(内部被ばくや残留放射線の)影響が小さいと断ずべき根拠はない」と判断。一連の訴訟では各地裁、高裁で原告側の勝訴が相次ぐが、国は従来の主張を変えていない。

 同訴訟を支援している郷地さんは「国は一貫し、原爆の放射線被ばくを過小評価してきた。福島の事故での対応の悪さは原爆の場合と重なっていることを伝えたい」として、6月に執筆準備に取りかかった。

 著書では原爆と原発事故の共通点、内部被ばくと外部被ばくの違いなどを8章に分けて詳述。安
全対策の具体策や内部被ばくを防ぐための対応についても詳しく記す。

 「福島第1原発の建屋内にあった核燃料、放射性物質は広島原爆リトルボーイの1万倍以上」と郷地さん。内部被ばくについて「影響がないと言いながら、食品に暫定規制値を設ける。国は主張と政策が矛盾している」と訴える。

 A5判111ページ。かもがわ出版、千円。問い合わせは同出版TEL075・432・2868(木村信行)

(2011/10/11 16:30)