メモ-遠藤周作も甲山は丸いと思ったのだな

もし、いつか機会があったら、電車に乗って西宮北口という駅で宝塚に行く阪急の支線に乗りかえてごらんなさい。十六歳の時の母さんの見た山や空をきっとあなたもそのまま眺めることができるでしょうから。
 母さんはあのあたりの風景が大好きでした。海からは離れているのに、まるで海岸近くのように松林が至るところにあり、松林のなかに別荘風の家々がちらばり、六甲山から流れてくる川の川原が白くかがやき、その川の彼方に山脈が青く拡がっているのでした。


遠藤周作砂の城」(新潮文庫版)15〜16ページ

駅の案内看板をみて母の実家がかつてあった甲東園が西宮北口で乗りかえることを知った。
 ウィーク・ディだったけれども意外に混んでいた。十月の秋晴れの日を利用して紅葉を見にいくらしい客も眼についた。西宮北口から宝塚に向かう阪急の支線に乗りかえる。
 車窓から母の手紙に書いてあった甲山が見えた。なるほどまるい甲を思わせる形をしている。その山の下は切りひらかれてビルの群れのように白い団地が拡がっていた。


遠藤周作砂の城」(新潮文庫版)136〜137ページ