時間分割の天使『絶滅危愚少女 Amazing Twins』

年始はCSのAT−Xチャンネルで先行放送された『絶滅危愚少女 Amazing Twins』第一話などを観たりして昨今ネットで盛んに飛び交っている「無駄な努力はバカ」とかいうワードを連想していました。

『絶滅危愚少女 Amazing Twins』の主人公、等々力あまねはイメージした力を具現化可能な能力ISHの持ち主。しかして急にみんなに「ISHってスゴいよ!」とか宣言すれば「異端者」としてつまはじきにされるのは火を見るより明らか。んで彼女はパフォーマンスチーム「NOUGHT」の一員として街の高台で手品と称して能力ショーを開催。「これでみんなが能力を楽しんでくれればISHを怖がらずに親しんでくれるんじゃね?」とかいう「『未知との遭遇』は宇宙人に耐性をつける為にスピバと宇宙人が結託して作った映画」みたいな発想のもと、日々、みんなの笑い物になっていたのでした。
ところがある日突然、仮面の少女アヤが出現。実はアヤもISH能力の持ち主。「オメーの発想はヌルいんだよ! どしどしビビらせて支配すりゃいんだよ!」と宣言。方向性の違いからあまねたちとアヤたちは敵対関係となる……。
しかしアヤの所属する組織「IAM」はあまねに関するとある事実を入手していた。彼女は普通のISH能力者とは異なる部分があるのだ。

このアニメ速や! とにかく速いんである。展開も早いが体感的に速いと感じるのはカット割がガンガン入るからだ。
このアニメはとにかくカットを割りまくってカメラアングルを変えまくる。計ってみたら同じシークエンスが十秒以上持たない。
25分間、視点が切り替わりまくる。

ところで佐藤順一監督である。僕がこの監督に一貫して抱いている印象は「このひとは孤独とか心の暗部とか、そういうのを徹底的に避けるひとだなあ」である。偉いなあ、と思っている。
「孤独」とか「心の暗部」ってめちゃおいしい材料だ。
それだけで2クール、1クールもたせたアニメが腐るほどあることからも分かるように非常においしいのである。
嫌いじゃないですよ。しみったれた展開も料理の仕方によっては、よりしみったれた故に非常に内向的な、それだけにすごくおいしい作品に仕上がる。
しかし佐藤順一はしみったれた展開を避けてきた。つらいことがあれば努力でなんとかする。なんとかならなかったら仲間が助けてくれる。これは多分、自覚的なものによると思う。おそらく佐藤順一は知っている。
自分の感性と能力が暗いほうか、明るい方か、どちらに適切なのかを。

そして今回の『絶滅危愚少女』である。

ネットで盛んに「努力はバカ」的なメッセージが飛び交う中、主人公、等々力あまねは『カレイドスター』『たまゆら』のヒロインたちと同じく、努力の少女を貫き通す。
自分に足りないものがあると感じたら、アドバイスを求める。次は特訓。仲間たちとともに野原で振り回される鉄球を避ける訓練である。
まさに現代社会において絶滅危惧種であり「愚」の骨頂であろうと思う。
あまねが能力者なのと努力は矛盾するが、このアニメはそのへんのことをあまり考えさせない。
能力が足りなかったら努力で研磨するのだ! 

この『絶滅危愚少女』はさらに熱血だ。加えて能力を発揮すると赤いマフラーをたなびかせて『ジョジョ』のスタンドみたいな90年代に大流行した能力で敵と闘う。目の色も変わる。オーラも立ち昇る。
さらに「ATフィールド」を模したような能力防御盾やビームソードといった90年、80年代臭いエフェクトがこのアニメには多用されている。
なにをいまさら……である。
佐藤順一がそのいまさら感に無自覚な訳がなく、きっと分かってやっている。
そういえば佐藤順一監督は00年に『ゲートキーパーズ』という高度成長期時代の日本を舞台にした作品の原作担当、総監督も務めている。

スピードである。激しいカット割。画面切り替え。いわゆる映画業界でいうところの「映像派」との蔑称を受けていた面々が多用してきた技術である。
この激しいカット割の編集技術によって『絶対危愚少女』の画面はスタイリッシュになる。どのようにすれば痛快な映像になるか、に重点を置いて編集が施されている。
カッコ悪いとされている「努力」も「赤いマフラー」も「スタンド」「80`90年代エフェクト」もついでに「仮面の少女」なんてダサいスタイルも全部スタイリッシュに熱血に映像化される。(余談だが第一話の敵が右手にチェーンソーのスタンドなのは『死霊のはらわた』でしょうか)
ついでに『絶滅危愚少女』はISH能力者のルサンチンマンの側面も描いている。
ところが速い展開が描写を薄っぺらくしてしまう効果で、ルサンチンマンな鬱陶しい展開に感じない。
終始、あっけらかんと、しかし、異様な熱量を伴ってこのアニメはぐいぐい進む。

印象に残るのは走るシーンだ。滑りこむシーンである。とにかくこのアニメはあまねの走るシーンがかっこいいし、爽快である。
坂道の商店街をあまねがテレポーテーションを繰り返しながら走るシーンで僕は「これって細田守の『時をかける少女』ですやん……」と思ってしまった。きっとこのアニメの美少女キャラのミニスカートと健康的な脚線美はこの為に存在しているのだ。
その走り方もテレポーテーションもまともじゃない。巧くコントロールできないので、あまねは手当たり次第に正面衝突し、滑り込み、蹴散らし、周囲のものをふっとばしながら全力で瞬間移動と疾走を繰り返す。バカか。お前。そう。バカである。
あまねはバカ喰いするが、バカ喰いも速い。ここのところの作画は非常に丁寧な割にあっという間に終わってしまう。
このアニメはそういう作画に非常に気を使っているが、一瞬で見せ切ってしまうという勿体ないことをしてしまう。
しかし、作画とは一瞬の動きを爽快に表現するのが第一目的だ。
『絶対危愚少女』は丁寧に、あっという間に作画を消費してしまう。その消費感覚がまたスタイリッシュたるゆえんではないか。

あと、このアニメは激しく動く癖にパンチラがない。おっぱいが揺れない。これは恐らく佐藤順一が手掛けてきた「子供向けアニメ」の蓄積なのではないだろうか。パンチラやおっぱいがあると観客の目は自然とそちらに向いてしまう。
つまり気が散る。アクションに集中できない。逆説的にいうと極端ではあるが「おっぱい」と「パンチラ」を売りにアニメが出来る。
でもこのアニメはおそらく「疾走感」が売りなのである。

「努力」「熱血」「80'90年代」という時代に逆行する道具立てを「速い」「可愛い」「瞬間消費」で覆いつくしてしまうような『絶滅危愚少女』
とにかく画面の勢いだけでぐいぐい視聴者を引っぱっていくアニメである。
もう画面を駆けまわるあまねの後ろ姿を追い掛けるだけで精いっぱいだ。


ヒロインの等々力あまね役に内田彩。『キディ・ガーランド』の時は「あ、なーんか可愛い子が出てきた」と思ったのだが、正直、その後の活躍はおやおや? みたいな感じだった。ところが『あいまいみー』というこれもスピードとバカっぽさがウリだけのアニメで弾けた途端に『ラブライブ!』の南ことりでちゅんちゅんとさらなるバーストがかかった、加速中の声優である。無駄に力の入ったテンションとキーが高めの演技が熱い。

対するアンチヒロイン、アヤ役に着実に実績を積み重ねてきた結果、ブレイクの階段を昇りはじめた東山奈央。おっぱいが大きそうな少女の声が似合う、元気声声優である。彼女の名を知らずともネットで東山奈央演じる『艦これ』の金剛のアグレッシブな「ヘーイ! 提督ゥ! 時間と場所をわきまえなよ!」を一度は耳にしたことがあるはず。今回、彼女は悪役を演じる。やはりアグレッシブで、おっぱいの大きそう(事実大きい)な演技である。全然関係ないが、僕は現在、この子の存在が気になっている。

あまねの能力を握るあまねの双子の妹には佐藤聡美。彼女に関しては2014年現在、色々プロジェクトが動いているようである。
内田彩のあまねの声は力が入り過ぎているので時折、ややウザく感じるのだが、クールプリティーな演技の佐藤聡美が随時ツッコミを入れてくれるので、いい感じのコンビが成立している。

等々力あまねには面倒くさいことを全部後ろにおいてどんどん突っ走ってもらいたい。

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