フィリップ・K・ディック 浅倉久志訳『高い城の男』

高い城の男 (ハヤカワ文庫 SF 568)
フィリップ・K・ディック 土井宏明(ポジトロン)

4150105685
早川書房 1984-07-31
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by G-ToolsISBN:4150105685
高い城の男」を読んだ。1963年度ヒューゴー最優秀長編賞受賞作品。「第二次大戦の勝敗が逆転した世界を舞台に現実と虚構との間の微妙なバランスを、緻密な構成と迫真の筆致で見事に描き上げ」たということらしい。で、敗戦国アメリカ(東西に分断されている)を舞台に、物語はドイツの政権交代劇やら、発禁本「イナゴ身重く横たわる」やら、詐欺事件やらをぐちゃぐちゃにして語っていく。
 日本人である自分が読むと、この作品世界はドイツと日本が支配している気がしない*1からだ。何かというと筮竹を取り出して占い出すし、町を走っているのは輪タクだし*2
 もっとも、読むべきところは、むしろアメリカ人たちの言う「アメリカやイギリスが勝っていたら世界はもっと悲惨なところになっていただろう」という主張で、それは逆に現実でなされる「ナチスが勝利していたらどれだけ悲惨な世界が作られたことか」という主張が単なる想像力欠如でしかない(いや本当に悲惨だったかもしれないけど)可能性を示唆しているように感じられた。
 それなりに面白かったけど、自分は「ヴァリス」の方が好きだ。
 そう言えばさっき電話してきた友人が本作を最後まで読むと感動すると言っていたのだけど、スルーしてしまった。感動ポイントはどこだったんだろう?
 あとになってから気付いたことだけれども、解説によるとディックはヴァーテックス誌1974年2月号のインタビューに答えて、本作中でキャラクターたちが占いをする場面に来るたび、実際にコインを投げ、そこで得られた卦を書いていったと語っているのだが、これって大塚英志物語の体操に出てきたカードシャッフル法と同じことをしてるんだよなあ。選択肢が64になっているけど。

追記2015/02/28 キンドル版が出ていた。価格は確認時で700円。
高い城の男
フィリップ・K・ディック 浅倉久志

B00B2GXKIU
早川書房 1984-07-31
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*1:というのは、日本として描かれるものが大方アジア、あるいは中国のもので、作者自身もそれについて「日本人は物まねしかできやしない」と、誤解しているわけじゃないぞと書いているのだけど、やっぱり誤解だよなあと思ってしまう。在米の日本人はどうやら英語を話しているみたいだし、名前も「ポール」だったりするし。戦争に勝っていたらあり得ないだろ。ここら辺、アメリカ人の限界っぽい。

*2:ただし易に関しては、全体を通してみるなら人間にはどうしようもない運命の象徴っぽいので、ディック的には、間違っていたとしても、アメリカ人にはほとんど関心のない日本のことだし、知ったことか、俺はどうしても易を書きたいんだ! というような思い切りがあったのかもしれない。それならそれでありだと思うけど、だとしても日本人でこれを読み、違和感を感じない人がいたとしたら、歴史への興味がなさ過ぎると思った。