ダメダメヒーロー軍団「セクションエイト」が揃い踏み!〜『ヒットマン2』

ヒットマン2
今回の『ヒットマン2』…サイコ―にしびれたぜ!(ぷるぷる)
アメコミのことはよく知らないオレだが、個人的に今一番お気に入りなのは『デッドプール』とこの『ヒットマン』。『ヒットマン』は怪しい超人がわらわら出て来るというので興味本位で読んでみたのだが、主人公であるモナハンの(悪人専門の)殺し屋というちょいピカレスク入った部分と、生活感溢れるハードボイルド・マッチョぶりに惚れてしまった(第1巻の感想はこちら)。いまどきハードボイルドでマッチョなんてぇのはギャグなんだけれども、そういう滑稽さをきちんと了承したうえでキャラが成り立っているのが逆にカッコいい。
なにより《正義》だの《国家》だのを背負ってないことと、でも《良心》は少々持ってて《コミュニティへの愛》はたっぷり持ってるってこと、こういう部分もいい。モナハンはいつもは行きつけのバーで、似たようなむさ苦しい男たちとつるんでビールをあおり煙草を吸いまくり、ポーカーゲームや野球賭博に精を出し、下品でタフな軽口を叩いてはエシャエシャ笑ってるようなとぼけた男だが、これがいざ汚れ仕事となると滅法強い。モナハンはアメコミ・ヒーローだが出で立ちはサングラスにロングコートというだけで、タイツ姿のスーパーヒーローは頭っからバカにしてる、なんてところも反骨精神たっぷりだ。
収録されているお話は「ローカル・ヒーローズ」(グリーン・ランタンと協力してCIAの陰謀を叩き潰す)「ゾンビ・ナイト・アット・ゴッサムアクアリウム」(ゾンビ化した水族館のペンギンやイルカを倒しに行く。つぶらな目をした動物ゾンビってぇのが可笑しい)「エース・オブ・キラーズ」(キャット・ウーマンと協力して地獄の悪魔と対決する)「キス・ミー」(「ローカル・ヒーローズ」で出逢った元女性警官とのラブ・ストーリー)「サンタ処刑命令」(放射能サンタ(!)がクリスマスを悪夢に陥れる)などなど。「ヒットマン」は一応DCコミックの隅っこに位置するヒーローなので、同じDCのグリーン・ランタンやキャット・ウーマンがこうして物語に登場するし、バットマンさえ登場したりするのだ。
どれもメチャクチャなお話ばかりで楽しいことこの上無いが、やはり特筆すべきなのはダメダメヒーロー軍団「セクションエイトが集結する「エース・オブ・キラーズ」だろう。一部でかなり話題になった「犬溶接マン」を擁する「セクションエイト」はこの辺とかこの辺のまとめとかにその存在を知った人々のパニックの程がうかがわれるが、なにしろ「酔って酒瓶で頭を殴るマン」だの「窓から投げ捨てるマン」だの「誤射マン」だの「変態性欲ソドムマン」だの「フランス人マン」だの「貧乏揺すりマン」だの「痰吐くマン」だの、「いやそれヒーローじゃなくて単なるキチ〇イとか可愛そうな人とかその辺のオッサンだし」という方々がヒーローを名乗って大活躍しちゃうのである。
どんな具合に大活躍するかは書くと具合が悪くなりそうなので割愛するが、なにしろそのあまりのとんでもなさに一周回って感動すら覚えるので興味を持たれた方は是非この『ヒットマン』第2巻を手に取ってもらいたい。これまでのヒーロー像を全く覆すエンガチョな世界がそこには広がっている!?

最近読んだコミック

アイアムアヒーロー (14) / 花沢吾一

英雄・比呂美・小田…3人は微妙な関係を紡ぎながら、東京を目指し…旅を続ける。弾丸の補充によった箱根の地。多くの人々が癒やしを求めて集っていたその地は……すなわち、大量のZQNが集まる場所と化しており………!!?大反響!大人気!黙示録第14巻!!連載時のカラーも収録!!

アイアムアヒーロー』14巻、世紀末血塗れゾンビ・サバイバル・ストーリーの筈なのに、なんだこのお色気たっぷりのまったり温泉入浴な表紙は!と思ったら、こんなシーンがちゃんとストーリーにあったのね。ゾンビ・パニックと世界の崩壊から始まったこのコミックも、主要キャラが固定され物語テーマも次第に核心へと近づきつつあり、こうなると段々主要キャラへの愛着が強くなってくるから、もう誰も死んでほしくないと思えてくるんだよなあ…。

ヴィンランド・サガ(14) / 幸村誠

奴隷の身分から解放されたトルフィンだが、農場を去る前にやり残したことがあった。それは、かつての同朋クヌート王が始めたこの戦争をやめさせること。クヌートは今やイングランドデンマークの統一王となっている。奴隷の身なりのままでは近衛兵に阻まれて会うことすら出来ない。どうするトルフィン! これにて奴隷編完結 そして、新たな旅が始まる!

一時「完結編だと!?」と思ってしまい、「まだヴィンランド行ってないんだけど…」と首をかしげてたが、「奴隷編完結」ということだそうで。ということはこれでやっとヴィンランド目指すことになるんだよね…ああまだまだ長い…。

■人生は二日だけ / 堤谷菜央

人生は二日だけ (リュウコミックス)

人生は二日だけ (リュウコミックス)

人工的に作り出した赤ん坊を売って大儲けしようとする女性科学者。しかし彼女の男友達(ゲイ)は自分が赤ん坊を育てると言い出す。啓示と救いに満ちた衝撃のデビュー作『バースデイ』を始め、情緒不安定な従姉に振り回されるヘタレ青年の物語『ライトナイトライト』、ロリータの純愛『金りんごちゃんの恋』、死んだ兄に憑かれた女子高生を描く『兎の生る木』、火星の海底プラントが舞台のSF『BIANCA』など計6作品収録のデビューコミックス!
(著者について)「COMICリュウ」の新人賞「第12回龍神賞」にて、応募作品『バースデイ』が審査員の吾妻ひでお安彦良和に絶賛され、リュウ創刊以来初の「金龍賞」を受賞。同作品が「COMICリュウ」2013年2月号に掲載されてデビューを飾る。以降、「COMICリュウ」「フィールヤング」(祥伝社)を中心に精力的に読切作品を発表。今回がファーストコミックスとなる業界注目の新鋭。

作画やストーリー運びが大島弓子そっくり、とあちこちで物議を醸している堤谷菜央さんの短編集です。まあ確かにその通りなんだけど、大島さんって実質今殆ど描いていないわけで、そんな中で大島テイストの漫画読めるって、それはそれでいいんじゃないですか。ただしそっくりとはいっても、大島さんならではの繊細かつ緻密な構成力にはまだまだ全然及んでいないことも確かで(まあ大島さんは天才だしなあ…)、そういった力量不足を逆に自分らしさで補うことでこの人は成長してゆくんじゃないかと思いますけどね。