水曜どうでしょう第34弾「北海道で家、建てます」 がとんでもなく面白かった

水曜どうでしょう第34弾「北海道で家、建てます」

水曜どうでしょう第34弾「北海道で家、建てます」は北海道テレビで2019年12月から2020年3月まで放送された企画番組のディスク化作品である。この企画は北海道は赤松市の森の中にミスターが自腹で土地を買い、そこにどうでしょうメンバー4名&本職の大工さんを加えて「どうでしょうハウス」なる家を建てようというものだ。

2017年に始まったこの企画が終了したのは2020年、なんと4年越しというどうでしょう史上始まって以来、そもそもTV番組企画としても破格の長さのロケとなった。別に4年間ずっと家を建てていたわけではなく、今や売れっ子の大泉さんが、スケジュール的に厳しいという事で伸びに伸びたこともあっただろうが、それにしたってなぜこんな長さになったんだ?と最初疑問に思っていた。

そもそも「家を建てる」って企画自体、最初聞いた時はなんだソレ?と思った訳である。旅企画が多かったどうでしょうだが、ここに来て新機軸を打ち出したかったのらしい。しかし、「家を建てる」ってなんだか地味かもなあ……とはいえ、水曜どうでしょうに地味も派手もないし、きっとあの連中が何かやらかしてくれるんだろう、と思っていた。そして実際ディスクを観ると、

これが、とんでもない面白さだった。

水曜どうでしょう」はこれまでも様々な名作逸作を生み出してきたが、今回のコレはひょっとしたら「水曜どうでしょう」最高傑作になるのではないか。

では、いったい何がどう面白くて最高傑作とまで思ったのか。それは、

これまで以上に徹底的にグダグダだからである。

確かに、どうでしょうメンバーがドカジャンに身を包み、大工工具を駆使して家造りをする姿は可笑し味に溢れているのと同時に新鮮だ。その中でミスターが妙に大工作業に精通しテキパキと動いている姿(なんと個人でユンボを所有している)とか、大泉君は能書きばかりで全然使えない奴だったりとか、なんだかんだで藤村Dもきちんと作業に参加していたりとか、そういう面白さは十分に伝わってくる。ただしそれは、「家を建てる」という本来の企画をきちんと遂行している姿に他ならない。しかし、ディスクに収められている映像において、そんな作業場面は3分の1ぐらいで、残りの時間は4人の果てしなく下らないおしゃべりが延々と垂れ流されるのである。

そして、そこが最高に面白いのだ。

まず何と言っても、当日の作業終了時に必ず催される、

「大泉シェフのお料理タイム」。

大泉シェフはかつて番組において、しったかぶった適当料理をこさえてメンバーの大ブーイングを招いたが、今作ではなんと適当に作っている割にはなんだか美味い料理が出来上がってしまうのだ。そしてそのなんだか美味い料理をメンバーが寄ってたかって、「かつての覇気がない」と否定するのである。美味くても地獄、不味くても地獄、大泉シェフの明日はどっちだ!?

もうひとつは、作業が終わったんなら帰りゃあいいのに、「ここをキャンプ地にする」と言って真冬の雪の中でキャンプを張る果てしない無意味な行動だ。そしてその中で藤村Dの獣の唸り声のようなイビキが轟き、他メンバーが延々とブー垂れるのである。

さらに作業打ち合わせにおける

大泉君の終わらないボヤキと藤村Dとの丁々発止の悪口合戦。

実の所いつも通りといえばそれまでだが、どうでしょうも回を重ねる毎に、そのしょーもなさには研ぎ澄まされた狩猟ナイフのように磨きがかかりまくってきている。

そして今回はなんと、大泉君のスケジュールが合わず、大泉君無しのロケ、というどうでしょう始まって以来の事態が発生する。だがその大泉君のいない回の方が、作業がとてもはかどった上に、出演者が皆和やかなのだ。大泉君の存在意義とは。大泉君がロケに参加できないばかりに、番組のエンドロールにおける大泉君の名前の位置がどんどんぞんざいになってきて、しまいには番組協力の弁当屋の名前の下にちっこく出てくるだけになってしまう。大泉君の立場とは。

こんなグダグダな進行しながら、にもかかわらずここまで面白い番組として成立するのは、日本のTV番組の中でも「水曜どうでしょう」だけだろう。大手の他局がやったら、なんだかきっと真面目に作ってしまったり根性やら感動やらを盛り込んで結果的に退屈極まりない番組にしかならないだろう。あまりにグダグダな作りなばかりに、逆に他局には絶対に真似できない、真似のしようがない番組になってしまう、

そこが「水曜どうでしょう」の凄みである。

そして今回の企画において最も凄まじかったのは、

その思いもよらないとんでない最終話である。

いやー、オレ、こんな展開をまるで知らずに観ていたので、あまりの事実に心底驚愕してしまった。これはもうどうでしょう史上空前絶後の事件だったのではないだろうか。この最終話だけでも水曜どうでしょう最高の回だったと言えるかもしれない。まだ何も知らない方は是非ドキドキしながら観てください、ホントにもう唖然とするから。そしてこれが長期ロケ化した理由なのだろう。

という訳で今回の「水曜どうでしょう」も最高に笑わせてもらえました!

購入はHTBオンラインショップで。DVDとBlu-rayで発売されています。配信もされているようですが、ディスクだと2時間あまりの特典映像があったり、副音声で当時を振り返るメンバーの声が聞けたりと全然お得です。(Amazonのは転売価格だから買っちゃダメだよ!)

 

旧東海道起点:日本橋までの行脚

連休の後半は最近相方さんの趣味となっている旧東海道巡りに付き合いました。この間までは旧東海道に沿って神奈川をどんどん南下していたんですが、今回は品川近辺から旧東海道の起点である日本橋をゴールとして歩きました。

実はこの旧東海道巡り、旧東海道の起点である日本橋からスタートしたわけではなくて、横浜近辺からスタートして東京方面へ北上するルートと神奈川県を南下するルートの二つを、その時の気分で歩いていたんですね。前回東京北上ルートに付き合ったのは平和島から品川本陣までで、これは丁度去年の今ごろの話でした。その時の相方さんのブログを貼っておきます。

という訳で今回はこの品川本陣からスタート。場所的には京急新馬場駅辺りになります。とりあえず品川駅を目指しさらに高輪の辺りをぶらぶらと歩きます。この日は気温も高かったですが、まだまだ爽やかで歩きやすかったですね。それにしてもこの辺り、建設ラッシュなのか工事中のビルが多くてびっくりしました。日本は景気がいいのでしょうか!?オレの給料や退職金や年金は上がるのでしょうか?!(いやない)

途中で餃子の自動販売機を発見。

高輪神社。

ちっこい辰の置物が可愛かった。

そして泉岳寺に到着。赤穂浪士四十七士の墓所がある有名なお寺です。

なんと線香の自動販売機がある。

そして討ち入りと言えば血腥い逸話で一杯!これは吉良上野介の首級を洗ったという「首洗いの井戸」!

 

こちらは浅野内匠頭切腹した際に血が飛び散ったとかいう「血染め梅」と「血染の石」!怖いのう!怖いのう!

 

泉岳寺を後にしてどんどん北上してゆきます。おおっと東京タワーが見えてきたぞう。しかしこの写真、なんだかミニチュアを撮影したみたいに見えますね。

田町の辺りでお昼にすることにしました。これは「連休の反省:2024」で使った写真の使い回しです。

田町から今度は浜松町方面へ北上します。それにしてもピカピカのオフィスビル街って、眺めていて本当につまらない光景ですねえ。やっぱりゴジラに上陸してもらってですね(以下自主規制)。つまらないので生蕎麦の自動販売機の写真を撮りました。

こちらは浜松町近辺にある芝大神宮。結婚式もやっているらしく、カンヌ映画祭のレッドカーペット映像でしか見た事のないようなギンギラギンのドレスやスーツを着た男女が歩き回ってました。

なぜか生姜の塚があったんですが……なぜだ!?なぜ生姜なんだ!?だったらジャガイモ塚やモロヘイヤ塚があったっていいじゃないか!?(なんでも昔この辺一帯は生姜畑で、神宮によくお供えされていたからなんだそうです。)

新橋を超えたあたりから銀座の目抜き通り(中央通り、銀座通りとも)に差し掛かり、歩行者天国をどんどんと歩くことになります。というか銀座の目抜き通りそのものが旧東海道だったんですね!?江戸時代の商業の中心地がそのまま現在の日本最大の商業地帯になったんですね(なんにも知らなくてスイマセン)。

日本橋の橋に到着。日本橋の橋の名前は日本橋です(お父さんもう止めてあげて)。ここで「日本橋」を「にほんばし」と呼ぶのか「にっぽんばし」と呼ぶのかという事ですが、諸説あるようですが東京の日本橋は「にほんばし」、大阪の日本橋は「にっぽんばし」と呼ぶということになっているようですね。でもオレは性格がひねくれているので東京の日本橋も「にっぽんばし」と呼ぶことにしています。オレはいったい何と戦っているのでしょうか。

日本橋を作った人はファンタジーRPGが好きだったらしく、ドラゴンの像が飾られています。嘘です。麒麟です。麒麟の像が作られた経緯はここに書かれてありましたのでご参考までに。

そして遂に旧東海道の起点に到着。「ここから【東海道伝説】は始まったッ!?」って感じですね(どういう感じだよ)。辺りはキラキラしたお客様の出入りするキラキラした三越デパートだらけで、代々ソフホーズで過ごしてきた真性プロレタリアートのオレとしては眩しすぎて過呼吸になりそうでした。

という訳で旧東海道巡り、起点の日本橋を制覇したのでこれで「日本橋~平塚」まで歩いたことになります。 あーこの日もたっぷり歩いた!

そういえば発起人の相方さんに「ところで旧東海道ってどこまでなの?」と訊いたら「京都の三条大橋まで」という答えでした。「まさか京都まで歩くつもりじゃないよね?」というオレの問いに、「ぐへへ……」と怪しく笑う相方さんでした。

サルマーン兄ィがまたもや大暴れするインドのスパイアクション・ムービー『タイガー 裏切りのスパイ』!

タイガー 裏切りのスパイ (監督:マニーシュ・シャルマ 2023年インド映画)

インドのスパイアクション映画「タイガー」シリーズ第3弾!

ボリウッド映画なんてェ呼び方もされるインドのヒンディー語映画界には俗にいう「3カーン」と呼ばれる大スターが君臨しておりましてな。一人が「キング」と呼ばれ愛されるシャー・ルク・カーン、もう一人が日本じゃ映画『きっと、うまくいく』が有名なアーミル・カーン、そしてもう一人が今作『タイガー 裏切りのスパイ』の主演男優サルマーン・カーンな訳なんですよ。サルマーン・カーン、大ヒットアクション作『ダバング 大胆不敵』を始めとして『バジュランギおじさんと、小さな迷子』や『プレーム兄貴、王になる』といったヒューマンドラマでも高い人気を誇る俳優です。オレも大好きなインド人俳優の一人で、拙ブログではよく「サルマーン兄ィ」と呼んで敬愛の情を示しているほどです。

さて映画『タイガー 裏切りのスパイ』はスパイアクション映画「タイガー」シリーズの第3作となります。「タイガー」シリーズはインドの国家諜報機関RAWの伝説的スパイ、タイガーを主人公としたシリーズで、これまで『タイガー 伝説のスパイ』(2012)『タイガー 蘇る伝説のスパイ』(2017)が公開されています。『伝説のスパイ』は少々ロマンチックコメディ風味なんですが、『蘇る伝説のスパイ』はランボー並みの壮絶バトルを見せてくれる作品でした。

二重スパイ嫌疑に揺れるインドとパキスタンの諜報局員!

さて「タイガー」シリーズ第3作となるこの『裏切りのスパイ』では、主人公タイガーの愛する妻でありパキスタン軍統合情報局(ISI)の局員でもあるゾヤに二重スパイの嫌疑が掛けられるという物語です。インドとパキスタンの諜報員が夫婦!?というのはちょっと驚きですが、「タイガー」シリーズはその1作目から、本来は敵対関係にあるインドとパキスタンの諜報員同士が恋をして結ばれ同時に強大な敵と戦うという、いわば両国家の融和と共闘をテーマとして描かれた作品なんですよ。

しかし今作はその融和に暗雲が垂れ込め、ゾヤがテロリストの手先として動いている!?という展開を見せます。このゾヤを日本公開作『チェイス!』(2013)や『バンバン!!』(2014)出演のインド名女優カトリーナ・カイフが演じています。アクション良しルックス良しの大変素敵な女優さんなので、皆さんも一度劇場でご対面されることをお勧めします!

インドスパイ映画ユニバース「YRFスパイ・ユニバース」の1作

しかもこの『裏切りのスパイ』、「YRFスパイ・ユニバース」と呼ばれる、他のインドスパイ映画と同じ世界を共有する映画として描かれているのがなにより心憎いんですよね。いわゆるアメコミスーパーヒーロー映画の集う「MCU」やゴジラを始めとするモンスターが集合する「モンスターバース」のインドスパイ映画版と言えばいいでしょうか。

この「YRFスパイ・ユニバース」ではリティク・ローシャン主演の『WAR ウォー!!』(2019)、シャー・ルク・カーン主演の『PATHAAN パターン』(2023)が「タイガー」シリーズの世界と融合するという訳です。映画『PATHAAN パターン』では既にタイガーがその姿をちょい見せしていましたが、この『裏切りのスパイ』では誰がどこでどんな具合に絡んでくるのか楽しみにして観て下さい!期待は絶対に裏切りません!

痛快なアクション作!

この『裏切りのスパイ』の見所はなんといってもとことん痛快なアクションにあるでしょう。ド派手な銃撃戦と肉弾戦、景気のいい大爆発、インド映画お得意のスローモーションを多用した溜めのあるアクション、アクションの度に高らかに鳴らされるテーマソングと、憎たらしいぐらいに盛り上げに盛り上げます。それはあたかも歌舞伎俳優が大見得を切るときみたいな華々しさ&格好良さで、実にインド映画らしい演出だと言えるでしょう。サルマーン・カーンのアクションの良さは定評ですが、カトリーナ・カイフがタオル一枚体に巻いた姿で、同じくタオル一枚だけの敵女将軍と格闘を演じるシーンは、個人的に今作における最大のハイライトシーンでした!

また、インドのスパイ作品という事で、「007」や「ミッション・インポッシブル」シリーズといった欧米のスパイ作品とは一味違う世界観を見せてくれる部分も見所の一つです。ロケはインドをはじめトルコ、ロシア、オーストリアで行われ、スパイアクションらしいワールドワイドな光景が目を奪います。これまでの「タイガー」シリーズや『PATHAAN パターン』ではストレートで骨太なアクション展開を見せていましたが、今回の『裏切りのスパイ』では二転三転するストーリー展開により面白さを感じました。今後の「YRFスパイ・ユニバース」、そして多分次に公開されるであろう『WAR ウォー!!』第2作でのスパイたちの活躍が楽しみでなりません。そういった意味でも「YRFスパイ・ユニバース」企画は大正解だったんじゃないでしょうか。

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連休の反省:2024

4月27日土曜日

今年のゴールデン・ウィークも会社は暦通りのお休み。連休初日はまず髪を切りに行ってさっぱりした。どうやら今年初めて髪を切るのらしい。随分伸びない髪だな……というか、髪がもう残り少ないんだな……。

その後相方さんと桜木町で合流、夏物洋服選びに付き合う。3時間ぐらいぶらぶらしてから居酒屋にGO!刺し盛りが美味かったよ!

4月28日日曜日

一日掛けて相方さんの部屋の家具移動を手伝う。この日は暑かったがまだ爽やかな暑さだった。

4月29日月曜日(昭和の日)

家でダラダラとブログの下書き。連休ってもっと他にやる事あるはずなんじゃないのか。そうじゃないのか。

5月3日金曜日(憲法記念日

連休後半戦。映画を観に行き、ブログ記事を書く。記事はまた後日更新します。風邪引いたみたいでちょっとだけ調子が悪い。

5月4日土曜日(みどりの日

風邪っぽかったが最近の相方さんの趣味となっている旧東海道巡りに付き合う。これはまた別記事にまとめておきます。途中、お昼におろし天婦羅蕎麦を食べた。

散々歩いて疲れたし喉も乾いたので、この日の夜は焼肉屋でビール三昧。焼肉をたっぷり食べ、大ジョッキ3杯とマッコリを飲んで撃沈した!

5月5日日曜日(こどもの日)

前日相当飲み過ぎてしまいダウンしていた。とはいえ天気も良かったので布団干しを敢行、ちょっと気分が良くなる。午後からはゲームをして1本クリアする。夜は何か作るのも面倒で、ピザを注文して『水曜どうでしょう』のブルーレイを観ながら食べる。『水曜どうでしょう』があまりに面白過ぎて遅くまで観ていた。

5月6日月曜日(こどもの日の振り替え休日)

連休最終日。この日は朝から掛け布団の洗濯。オレは洗濯が好きなんだ!DVD1本観て、例によってブログの下書き。そんなにブログが好きなんですか!?どうなんですかそこどうなってるんですか!?スーパーに行ったら鱈が相当安く売ってたのでそれを買い、夜は鱈のムニエルを作って食す。結局飲んで食ってた連休だったが、1日だけ休肝日を設けたオレ偉い。

というわけで連休も終わり。体も頭もなまってるので仕事をしてリフレッシュしましょう!(そうなのか)

(おしまい)

P.I.L.のフロントマン、ジョン・ライドンの半生/『The Public Image Is Rotten ザ・パブリック・イメージ・イズ・ロットン』

The Public Image Is Rotten ザ・パブリック・イメージ・イズ・ロットン (監督:タバート・フィーラー 2017年アメリカ映画)

セックス・ピストルズ、現パブリック・イメージ・リミテッド(P.I.L.)のヴォーカルでありフロントマンとして活躍するジョン・ライドン。その彼の軌跡に迫るドキュメンタリー映画がこの『The Public Image Is Rotten ザ・パブリック・イメージ・イズ・ロットン』だ。映画はライドンの不幸な出生、ピストルズ時代を経ながら、ロックバンドP.I.L.結成後の活動、メンバー間のゴタゴタ、そして映画公開時2017年までの破天荒な生き様を抉り出してゆく。

かつてパンク/ニューウェーヴの洗礼を受けたものならジョン・ライドンの名は避けて通れないものに違いない。オレも70年代後半、セックス・ピストルズのデビューを目の当たりにして《大いに困惑した》クチだ。そのけたたましい音にパンク?なにこれ?と思う間もなくピストルズはあっけなく空中分解、なんだなんだ?と思っていたら続いてニューウェーヴの時代が到来。ジョン・ライドンP.I.L.を結成、ピストルズ/パンク・ミュージック通過後の新しい音を自ら創造し始めた。そしてそのP.I.L.の音は、ニューウェーヴ・ジャンルの中でも別格だった。

P.I.L.の音は、ジョン・ライドンのアラビア音階を思わせるヴォーカルと、ジャー・ウォブルによるレゲエ譲りのヘヴィー・ベースと、キース・レヴィンによるサイケデリックなギターにより、実験的で先鋭的で、まさに唯一無二のものだった。少なくとも1stから3rdまではニューウェーヴ史に残る名作中の名作だった。

ただまあ、映画でも描かれているように、バンドの中はメンバー間で相当にゴタゴタしていた上に、お金がない!儲からない!と火の車、もともと偏屈でブチキレキャラだったライドンはバンドメンバーを次々に首にしたり(そしてまたよりを戻したり)と「ロックバンドあるある」な展開が続く。

なにしろライドンは元がパンクなので堪え性のない男な上に、ジャー・ウォブルは録音済みテープを勝手に持ち出して自分のアルバム作っちゃうだけでは飽き足らず、売上金かっぱらってクビになるし、キース・レヴィンはいつもヤクでヘロヘロになっていて、そしてやっぱり録音済みテープを勝手に持ち出して「これが俺のやりたかったP.I.L.だああ」とか言ってアルバム出してクビになるし、まあなにしろメチャクチャである。

しかしウォブルとレヴィンという強力な屋台骨を失ったP.I.L.は急速に陳腐化、実はP.I.L.の先鋭性というのはウォブルとレヴィンによって支えられていたという事が露呈してしまう。この二人無き後のライドンには何が残っていたか?それは彼独特の偏屈で皮肉で鼻っ柱だけは強い態度のみであり、音楽的な創造性については皆無だった。P.I.L.はライドンのバックバンドと化すが、それは「どこにでもあるハードロックバンド」レベルのありきたりなものに成り下がってしまった。

こういった形で、もはやP.I.L.には聴くべきところなど何もないのだが、それでも、どこかジョン・ライドンという男のことを、今でも見捨てられずに気にしている自分がいる。なぜなら彼は、オレの10代から20代にかけてどっぷりとハマっていた、ニューウェーヴ界の《神》だったからである。腐っても《神》なのだ。まあ昔みたいに信奉はしていないが。

だいたい、今やライドンも68歳、腹も出てきてゆるゆるの体をしているし、顔なんざ単なるその辺のおっさん、言動は相も変わらず頑固ジジイ、ルックスだけならミュージシャンというよりフーリガンだ。でもいいんだ。もういいんだ。オレは、オレの青春期にブイブイ言ってたアーチストが、もう前期高齢者と言っていい年になってもなんだか元気そうにクダ巻いてる姿を見られるだけでも嬉しいんだ。そもそもオレ自身もう60過ぎのジジイだしな。だからお互いジジイ同士、長生きしような、と思えてしまうんだ。

そしてオレは知っている。ライドンはああ見えて結構恩を忘れない奴だったり家族思いだったりする奴だってことだ。「ロックは死んだ」なんて言いながら、デビュー時世話になったピート・タウンゼントミック・ジャガーのことは決して悪く言わないし、義娘であるスリッツのアリ・アップが亡くなった時は、その3人の子供(義孫)の後見人になったりしている。この映画は2017年公開だから描かれてないが、この後ライドンはアルツハイマーになった嫁さんを介護し、その嫁さんも去年亡くなってしまった。人生いろいろあるんだ。ヤツも、その辺の誰もと変わらず、茫漠として無慈悲な人生と戦い、そして今もまだ生きている。だからなおさら、ジョン・ライドンのことが嫌いになれないんだ。