私生活


4日目にして、やっとマレー半島南下を始めます。バンコクからシンガポールまでは、線路は繋がっていますが、ずっと乗っていれば自動的にシンガポールに到着する訳ではなく、タイ国鉄からマレー鉄道への乗り換えもあり、順調に行っても2泊3日の旅程となります。もちろんバンコク、クアラ・ルンプール、シンガポール界隈は、アジアの格安航空会社の主戦場であり、日本の常識では考えられないような価格で空の旅が出来、たった数時間で移動できてしまうのですが、やはりのんびり外の景色を楽しみながら、素朴な街に途中下車しながらのスローな旅というのも、やはり旅情というものがあって良いのではなかろうかと思ったわけです。前夜は奮発しエアコン付きのリッチなビジネスホテルに泊まったために、快適さも手伝ってついつい寝坊してしまい、朝発のつもりが、フア・ランポーン駅に付いたのは10時頃でした。

朝の電車はもう出てしまっていたので、カウンターにて午後初のチケットを購入し、駅周辺のチャイナタウンを散策することに。適当な店にて、なんでもない麺を適当にオーダーしたところ、これがまた美味。バンコクではタイ料理のレストランや屋台もいくつかトライしてみましたが、どうしてもあのパクチー(香草)のキツい匂いと、トムヤンクンに代表されるような、酸味の効いた味付けに馴染めませんでした。しかしまあ、世界中の料理が食べられる街ですので、暮らしていくのに苦労はまったくないでしょう。

2軒ほど梯子して腹ごしらえをしたあと、駅に戻り列車に乗り込みます。昨日の列車とは違い、長距離寝台車の2等を予約しましたので、全席指定のソフトシート。夜8時くらいになると、係の人がベッドメイクしてくれます。座席状態からは想像できませんが、これが2段ベッド状態になるんですね。1等になりますと完全個室のコンパートメントです。

深夜までつづくカオサン通りの喧騒、毎日祭りのように賑わう鈴なりの屋台、高層ビルの連なる都心、圧倒的なエネルギーを発するバンコクという街を少し離れると、車窓から見える景色も草原かジャングルの二択。バンコクから下ってきたギャップもありますが、少し東南アジアに来た時間がわいてきました。まずは300キロほど南下した、海沿いのビーチリゾート、Hua Hinに向かいます。静岡から東京くらいの距離間ですが、途中で待合があったり、物売り用に停止時間があったりと、運航はまさにスロー。

向かいの席は空いていましたが、通路を挟んだ向かい側のシートに座っていたタイ人女性が、こちらの席に来て話しかけてきました。極東アジア系の旅行者が珍しかったのでしょうか。日本語はもちろん英語も通じませんでしたが、バンコクで仕事をしているが年末の休暇で実家に帰るのだ、という風なことを言っていた、ような気がしました。訳のわからない外国人旅行者に話しかけてくるあたり、タイ人は警戒心が皆無なのか、私が人畜無害すぎるのか。夕方になってやっとHua Hinに到着。もともと王侯貴族向けのビーチリゾートだったそうで、駅にも王室専用の待合室があります。奥に見える立派な建物がそれで、本当の駅舎は奥に古びた木造のものがあります。

駅から街の中心部までは歩いて行けますし、街自体もコンパクトにまとまっており、歩いて移動が可能です。マンダリンの高級リゾートから場末の安宿まである街ですが、海のある町ということで、多少奮発してもやはり海沿いの宿が風情があって良いのではなかろうかと、海岸近辺を捜し歩き、海に張り出した桟橋の上にある宿に泊まることにしました。1500円程度。シャワーは水ですが、それなりに清潔感もあり、何より波の音を聞きながら眠れるという、ロマンのある安宿でした。

荷物を宿に置き、身軽になって、夜の街に繰り出します。歩行者天国のストリートに連なる屋台、屋台、屋台。土産物屋、バッタ物屋、洋服屋、タイ料理、中華料理、シーフード、ありとあらゆる露店が密集しており、台湾のナイト・マーケットに雰囲気が近いものがありました。

小学生の理科にも出てくる、生きた化石カブトガニもここで食べることが出来ます。屋台のあんちゃんに味を聞いてみましたが、「身も少ないし、クセがあるのでハジっこに置いてある。それよりこっちのエビのほうがいい、エビ食うか?」と言われたので、あんちゃんに従ってエビ食ってみましたが、本当にうまかったですね。もちろん言葉わかった訳ではなく、そんなことを言っている気がしただけですが。

露店を一通り冷やかしたあと、本格的に腹ごしらえ。この街の主役は欧米人ですので、レストランは欧米人だらけ。英語、ドイツ語、タイ語が店内で飛び交います。午前中に海で遊んで、午後はのんびりビーチで読書したりして、夜はパブで酒を飲む、という欧米人の優雅なバカンスが羨ましいですね。プーケットパタヤと違って、大分物価も安いようでした。