人口変化と老後の社会保障─近未来の若者老後地獄

何度も報じられている、政治が対応できていない喫緊の課題を忘備録として掲載しておく。
政治家や評論家が書いたものではなく、実務家のマネーコンサルタントが書いた点で傾聴に値する。
ただし、消費税を8%に値上げしても、国費の借金返済に回され、増収4兆円のうち社会保障には1.7兆円しか回されていない政治決断は説明されていない。
防衛費も7000億円が膨れ上がり1兆7千億円となったことに国民は許容している。
しかも米国からの武器購入は定価以上の高額の不思議にも異論がでない。
オリンピック予算しかり。
これらをスルーしていれば、国民が自分で未来を潰し、子供たちの生き難い社会を保証する。
以下の問題は、既に米国以外のヨーロッパ先進国がどこもぶち当たった解決して乗り越えてきた問題だ。なぜ日本はヒントがあるにもかかわらず、国民も政治家も放置しているのか?
幕末の日本人同様集団痴呆状態としか思えないのである。

夫婦で8万円以下の年金、75歳からの支給─
社会保障体制の崩壊の構図

 あと約10年で、まず年金積立金が底を突き始めます。2015年9月時点で135兆円あった年金積立金(過去の余剰分)は、すでに毎年6〜7兆円が取り崩され、株式の運用損もあり、今後またさらに負けが込み急速に減少していきます。先進国はいずれも戦後成長の限界に達し、経済停滞は常態化する兆候をみせているからです。

 年金受給年齢も、現行の65歳以降から70歳、75歳以降へと繰り延べされるか、現行受給額の半分以下の水準へと急減せざるを得なくなるでしょう。日本人のほとんどが満足な貯蓄額もないまま、「老後貧困」地獄に陥る恐れがあります。

 15年の医療費(薬剤費含む)は40兆円でしたが、あと10年で50兆円超に膨らみます。医療機関に掛かった際の現行の3割負担では到底賄えず、5〜6割負担になるともいわれています。高額な医薬品も増えており、現行では年10兆円の薬剤費が、大幅に増えていくと50兆円以内にとどまるかどうかも懸念されます。

 介護保険制度の報酬総額も15年の10兆円(税金投入2.8兆円)が10年後には25兆円になります。保険料もアップされたうえ、現行の利用者1割負担などでは到底制度は持たず、3〜4割負担の時代になるはずです。生活保護費も14年で3.8兆円を突破しもはや限界で(国75%・自治体25%負担)、8つの扶助のうち、すでに「生活扶助」「住宅扶助」の減額も始まっています。

 受給者の半数が60歳以上ですが、現行の1人世帯で10万円弱、夫婦2人世帯で20万円弱の支給額も、今後貧困者の激増が予想されますから、給付額は減らさざるを得ず、現行水準の半分程度にまで圧縮されるとの見通しも多いです。

 いずれにしろ約10年後の25年には、団塊世代(敗戦直後の1947〜49年生まれ、約700万人)の全員がすべて75歳以上の後期高齢者となり、そして65歳以上高齢者の人口比率が現在の27%から30%へ増加し、社会保障費の総額は現在の110兆円から150兆円規模になると推計されています。なかでも年金制度は莫大な負担に耐えきれず、現行の厚生年金平均受給額は夫婦で19万円ですが、将来的には5割以下の給付水準にならざるを得ないのです。

今の若者世代は今よりひどい老後地獄


 日本では90年代前半のバブル崩壊以降、少子高齢化の問題が浮上しつつありましたが、政府は本腰を入れることなく、事実上の放置状態を続けてきました。現役世代と65歳以上の高齢者世代の人口バランスが崩れれば、社会保障制度は機能不全に陥ります。子供の数は減る一方なのに待機児童問題は一向に解決しないまま、ただひたすら「少子高齢化・人口減少問題」は放置され続け、もはや「手遅れ状態」となっています。

 ところで問題は、社会保障体制が崩れ始める10年後だけではありません。現在20〜30代の人たちが65歳以上あるいは75歳以上の後期高齢者になる44年後の60年には、全人口に占める高齢者比率が4割を超えてしまいます(全人口は9000万人弱)。すなわち日本は、社会保障体制が崩れ始める10年後以降、高齢者が人口の半分近くまでに増えていき、ますます厳しい事態を迎えるわけです。

 日本人の平均寿命は男性80歳、女性87歳ですが、健康寿命は男性71歳、女性74歳です。つまり、男性80歳、女性87歳時点で半数が死亡し、男性71歳、女性74歳時点で半数が介護を必要とする状態になる可能性が高いということです。

 民間の有料老人ホーム施設に入るとなると、リーズナブルな施設の平均でも毎月1人分で25万円程度かかります。年金を1人で25万円分も受給できる人は今でも少ないですが、今後はもっと少なくなっていき、こうした民間の有料老人ホームですらビジネスモデルが成り立たなくなる可能性もあります。

 そうなると、6畳一間に布団を敷き詰めた部屋に高齢者を5人も6人も詰め込む「無届介護施設」が、月4〜5万円からありますが、日本の老人のほとんどが、こういう劣悪な施設で哀しい余生を送ることにもなりかねません。今の20〜30代の人はあと40年そこそこで、こういう施設で人生の終焉を迎えねばならなくなる可能性が高いわけです。こうした事態を避けるためにも、拙著『老後に5000万円が残るお金の話』(ワニブックス刊)では、現役時代からできるサバイバルの要諦を説き、自助努力を推奨しています。

現役若者世代こそが政治に物申すべき

 ところが現状では、世間の人々は平穏な世の中がこれからも続いていくかのように錯覚しています。
オリンピックなどやって浮かれている場合ではないのです。7000億円の東京オリンピック予算が2〜3兆円に膨らみそうな一方、社会保障体制が崩壊して国民の命が危険に晒される可能性があるのです。

若者世代は、せめて次のようなことだけでも、声高に政治に訴えるべきではないでしょうか。

・3〜4割も労賃をピンハネする労働者派遣業の全面禁止
 全労働者に占める非正規雇用労働者4割のうちの6%に相当。全労働者に占める割合は2.4%
 
・2人目の子供が生まれた世帯には一括1000万円のボーナス支給
 毎年2人目の100万人分支給で毎年10兆円・消費税4〜5%分に相当

内部留保を一定額以上貯め込んだ大企業には、定員割り当てで保育所施設の設置を義務付ける
 16年3月末で366兆円とGDPの8割弱、うち現預金だけで181兆円に上る

・個人・団体とも政治献金を禁止するか、政党助成金制度廃止
 大企業による政治支配を根絶し、国民がもつ1票の権利に基づく国民主権を確立する

・年間80日程度しか議会活動(しかも所要は1時間以内が大半)がない全国の地方議員を、諸外国同様に夜間議会のボランティア制にして、現行の年間報酬総額3600億円(県会議員は平均2000万円、市は800万円、町村は平均450万円で総数3万5000人)をカットし、低所得世帯の就学援助金に回す

 少子高齢化・人口減少が加速するままでは、確実に今よりひどい老後地獄が襲ってきます。将来「ゆでガエル」にならないために、若者世代こそが大きな声を上げるべきです。
(「Business Jounal」文=神樹兵輔/マネーコンサルタント

http://biz-journal.jp/2016/08/post_16303.html