本家が遅れ後家。

本当に本家なのかという疑問があった「ラブレターフロム宝島関係?」ですが、狩田さんの問い合わせによって本当であると確認されました。 こういうケースは怪しいというのは、長年ネットを眺めている人からするとまったく普通の判断。 きっちり確認を取った狩田さんお疲れ様であります。 というかもうしばらくお疲れが続きそうですが、がんばってください。
で、まいじゃー推進委員会・極楽トンボさんの公式発言。  名前に関して固執するつもりは無いとの事。 って言ってもいろいろと突き詰めて話さなければいけないこともありそうなので、しばらく大変そうですねえ。
さてさて。
今回の件で一番問題なのは、「企画者が“どれくらいちゃんとしているか”」でありまして、「今、この分野をきっちりと世に示すんだ! そしてゆくゆくは金のなる木に!」みたいに正当でも邪道でも情熱があれば、それだけ良い物になる確率が上がるんでいいんですが、「適当にやっつけでつくって小銭稼ぎだ〜」みたいなの小遣い稼ぎのノリは、確実にクオリティにでるので他人事とはいえ正直勘弁して欲しいわけであります。 ここ最近の「別冊宝島」はその辺のハードルが低く感じるのでなおさらです。
情熱があるところを乙木さんの所であった「ライトノベル完全読本」のように、もうちょっと世間的にアピールする必要があるんじゃないかな〜と思う次第。 まあとにかくやっつけだけは勘弁な。

 感想一題 ネタバレ味

今まで「ネタバレ無し」をひっそりと標榜して感想を書いていたのですが、今回はネタバレをしてでもいろいろと含めて書きたい欲求がわいてきたので、その欲求に思いっきり負けてみようと思います。
さあネタバレ見たくない人は帰った帰った!

今回の「吉永ガー」は、タイムスリップ物ならぬタイムスリープ物です。 いきなり意味が分かりませんね。 もう少し詳しく説明しましょう。
「自分は騒動に巻き込まれるもの」と和己兄さんがいい具合の諦観を得ながら「兎轉舎」*1の門を開くと、お姉さんこと高原イヨ(年齢不詳)が変な装置に横たわってグースカグー。 そのそばで双葉とガーゴイルが無理やり起こそうとするも、まるで起きる節も無し。 すわ何事かとなぜかそこにいた東宮天祢に聞いてみれば、なにやら過去を夢で追体験していて、すでに3日も経っているとのこと。 「いっちょ中に入って起こてしいや」(意訳)という東宮の言葉に双葉の好奇心がフルスロットル、結局吉永兄妹はガーゴイルと共にイヨのいる記憶の中の「昭和2年」へとタイムスリップならぬタイムスリープすることになるのでありました。 はてさて、その珍道中というか珍夢中やいかに。
という始まりであります。
にしても敵もさる者、考えた物であります。 普通にタイムスリップすると「タイムパラドックスとかなにかしたら歴史が変わる」という面倒(?)が付いて回りますが、記憶内過去ならいくらその世界をいじろうと、実質的な世界になんの影響もおよぼさ無い、というわけであります。

余談ながら。
記憶内の世界といってもその記憶は本人の認識できた周辺に限られているのでは? とも思いますが、どうやら本人の“記憶”を参考に“記憶の世界”をつくるという機械らしい(p87参照)ので、ある程度当時状態で本人の都合のいいような世界になっているようです。

それはさておき。
今回の内容の方は思いっきり真っ当な青春錯綜物です。 錬金術が絡んでいるのに。 ちょっと任侠物も入ってますがご愛嬌、いやしかし小林さんあんたちょっと強かっこよすぎやしませんかとも思いますが、ご愛嬌。
最初の方はじっくり「昭和2年」をめぐる形で進んでいきますが、後半、東宮の祖父に当たる雅臣が、イヨと高原潤とで力をあわせて造ったガーゴイルの起動をどうしても見たいがゆえに焦らしに焦らしたせいで、婚約者が死装束の覚悟でやってくるわ、怒りで「座頭市より強く」なった小林さん大暴れだわ、それを向こうに回して吉永兄妹も大暴れだわ、ガーゴイルガーゴイルガーゴイルの勝ちだわと、最終的におさまる鞘におさまったのが不思議な感じなくらい見事な怒涛の展開をみせてくれます。
でも、やっぱり一番じんわりとくるのは、終盤。

「それは……優しい敵ですね」
「優しくはないですよ、敵ですからね」

から後、「それから」の事を淡々と語るイヨさんといったら! 思った以上に想いのある「兎轉舎」の由来といったら! 終わり際に吐露されるイヨさんのガーゴイルへの感情とかガーゴイルの態度といったら!
悲しいでも哀しいでもなく、なんともいえない、淡いじんわりな味わいであります。 ふと、これ新人の四冊目って嘘なんじゃないか? と疑心に駆られる位に、おみごとな出来でありました。
そして、この話とまったく関係ない「エイバリー少尉対デュラハン」もおみごとでした。 いや、平和じゃないだろ、百色!

ちょっと長いネタバレ小噺。
今回、章題として小説等の名前が使われてますが、実はこれが今回の話と深い関係にあったりします。 その辺の解説をひとつ。 青空文庫にあるものに関してはそこにリンクを貼っておきます。そこに無い場合で他で見つけたものは、後ろの注釈にそれがあった場所のリンクを貼っておくことにします。

  • 第壱話「注文の多い骨董品店」
  • 第弐話「或阿呆達の一生」
    • 元ネタは「芥川龍之介」の遺稿の一つ、「或阿呆の一生」。
    • 作中にいきなり「芥川龍之介」が自殺したというのが新聞で報じられます。 実は吉永兄妹が到着した日が「七月二十三日」(p25) そして、「芥川龍之介」が自殺するのが「七月二十四日未明」、東宮雅臣が自殺の報を読むのが吉永兄妹がきて二日目、つまり「七月二十五日」となっており、田口仙年堂さんがきっちり調べてるのが確認できます。
    • 第四話のp224で出てくる「唯ぼんやりとした不安である」というのは「芥川龍之介」の遺書の一つ「或旧友へ送る手記」からの抜粋。 当時の新聞に載ったらしい。
  • 第参話「暗夜行路」
    • これはそのまま「志賀直哉」の「暗夜行路」。
    • 作中の昭和2年の段階で、雑誌『改造』にて連載6年目に突入(始まりが1921年=大正10年)。 これが完結するのが作中時間より10年後の1937年(昭和12年)。
    • 暗中模索から光明を見いだすという内容を作中の展開と重ねている。
  • 第四話「吾輩は石像である」
    • 元ネタは「夏目漱石」の「吾輩は猫である」。
    • 言葉のまんま。
    • 作中の時代的にはまだ漱石が死んで10年ほどしかたってないので結構広く読まれてたのだろうか。p147で「こころ」が会話にでてくる。
    • ちなみに、「こころ」は「親友二人が同じ人を好きになって…」という話。
  • 第伍話「それから」
    • 夏目漱石」の「それから」より。
    • これも言葉のまんまですね。

えらくきちんと関連付けしてんなーと感心したので軽くではありますが調べてみました。
もしかすると、漏れがあるかも? まあ、その辺は個々人で調べてください俺はもうイヤだ。(調べるのに2時間かかった。)

*1:テンの字は探したらちゃんとありました。

*2:こちら宮沢賢治作品館より