感想 平坂読 『ホーンテッド!』

ホーンテッド! (MF文庫J)

ホーンテッド! (MF文庫J)

 内容を要約すると「嘘吐きの為の唐突な非日常」。一言で申せば非常にアンバランスなバランスの上に成り立った作品という印象で、最序盤の圧倒的つかみ力を持って全部読まされたという気もしないでもないんですが、設定なんて端です、お偉方にはそれが分からんのですよ、ってしゃっつらしてるのがやっぱり印象的で、書きたいもの書いたもん勝ちという言葉が頭をよぎるというか、とにかく才気煥発の極み、平坂読の味わいを一気に堪能出来る一作となっているんじゃなかろうかしら、とか考えてみたりもします。とにかくなんか原石投げつけられた感覚とでもいいましょうか、処女作にありがちなその作家の全てが詰まってる感が満ち溢れております。最近の作の臨場感のあるゆるいノリも、『白い恋人』で魅せたしゅっと息を飲ませる黒さも、等分に盛り込まれ、惹きつける。そんな作品。特に最序盤と終盤の引力は素晴らしいものがあり、その上で最終盤のどうしようもない事実がどうしようもなくこちらを混乱の坩堝に叩き込むのであります。というか、2巻目読んでる現在、その最後のが確定している現在でもまだ混乱がありますよ。信じてないというか、信じられないというか、理解しきれてないというか。
 さておき。
 そういう混乱がある、というのはやはり一人称が嘘を吐く、という点が引き起こしている現象ではなかろうか、という直感があります。普通、一人称は嘘を読者には吐かない。吐いたら、読者は何を信じればいいのか、全く指針がなくなってしまい、どうしようもなく混乱する。なにせ、その世界を知れる口はそこしかないわけで、そこがまともじゃないと読み手側は対処の仕様がない。だから一人称は基本的に嘘を吐かない。何かある場合はまずその事を語らない手法をとる。あるいはレイチ君(ネルリ)のように迷彩を掛けて結局何が言いたいのか濁す。言動が食い違ってツンデレキョンハルヒ)みたいな稀有な例もないわけじゃないけど、やっぱりそうそうない。しかしこの巻での平坂読は知ったこっちゃ無いわけですよ。信頼できない語り手が語る言葉ほど空虚なもんはないですよ。そりゃあ、最終盤で混乱もしてその後も引きずるわ。まあ、それだけ信頼できないやつという印象をこちらが持ってるという意味においては、成功した語り口ではなかろうかと思いますがやっぱりやりすぎです。二巻はどうなるんだろうなあ。これだけの事やったら、上回らないとな二巻は辛そうだけども。