感想 柴田亜美 『ほごけん』

ほごけん (バンブーエッセイセレクション)

ほごけん (バンブーエッセイセレクション)

 大体の内容「保護犬とは。その実態とは」。基本的に、保護犬とはどういうものか、というのを実際に保護犬を預かるボランティアをしている柴田亜美さんの視点から朗々と語られる漫画、それが『ほごけん』なのです!
 先に言いますと、この漫画は普通にガチ、真面目な漫画といえます。柴田亜美さんのギャグ方向の持ち味は当然あるにはあるんですが、それでも抑え目。強みを使い過ぎない、話の主体をぶれさせないという選択をしていると思います。とはいえ、その点が深刻になり過ぎないという工夫もなされており、つまりはさじ加減の塩梅が良い、と言えましょう。
 さておき。
 この漫画は実際の体験話を主体に語られる、エッセイ漫画。時におかしく、時に真面目に、それがつらつら語られます。語られる内容は、センターに保護され、一時的にボランティアに預けられる犬達について。どの犬も辛い過去があるけれど、それを解きほぐし、新しい飼い主へと送っていく。そういう過程のお話でもあります。その話を懇切丁寧にして、保護犬を取り巻く環境が同なのか、ボランティアとは何をしているか、そういう部分もしっかり描かれてあります。実際、ペットを飼うというのは生半ではないのに、あっさりと見限る人がいるという話や、東日本大震災で行き場を失ったペット達を保護している施設の話、保健所の話などがされて、うーん、と考えさせられたりもします。特に、犬などのペットを気軽に捨てる、気軽に虐待するというのに対してはそこここでそれでいいのか? という提言があり、見ていてやっぱりペット飼うのは覚悟がいるよなあ、と思わされます。相手も命ですからね。生半な事は出来ない。そういう気持ちになる人が、増えればいいんだけど、とか思っちゃいました。
 さておき。
 この漫画は個人的な判断と前置きしますが、それでもとても漫画として高いレベルにあると思います。実際に経験のある話がされるので、突拍子の無い事でもなく、間はじっくりとあるので詰め込み過ぎて混乱するという事も無い。ごちゃごちゃした背景を入れ過ぎないのが逆に読む部分を分かりやすくしていたり、描かないとどこか分からない場所はきっちりと描いたり、見せ場というか見せる場所はきっちり見せたり、単に犬を描くだけで訴えてみたり、と、その持てる漫画スキルを十二分に引き出した仕事で、既に20年近く一線で漫画描いてる漫画家さんの力、というのを強く感じました。タツジン! このスキルをこんな、というとちょっと失礼ですがそれでも言います、場末とも言える漫画でフルに活用する、というのは漫画力が勿体無い、とすら思うんですが、それだけ柴田亜美さんが保護犬に対して色々と知ってもらいたい、という気持ちが強いんだろうなあ、という解釈も成り立つので、それだけマジだという理解でいいと思います。うーん、でもなんか勿体無いと思ってしまうなあ。
 にしても、あの茶壷、どきバグでは凶獣として描かれていた茶壷が、その世話をする事によって柴田さんが生活リズムを正し、健康的に仕事が出来るようになった、という話があったのにはなんか凄い感動がありましたよ。だって、あの茶壷だよ!? なんか飼い主に凶悪な牙をむいた写真とかあった、茶壷がだよ!? と書いて誰がわかってくれるか微妙だなあ、と思いつつ、筆を置きたいと思います。