半熟三昧(本とか音楽とか)

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小西康陽『11のとても悲しい歌』『Attractions Konishi Yasuharu Remixes 1996-2010』

まずは、『11のとても悲しい歌』

11のとても悲しい歌

11のとても悲しい歌

インタビュー(http://www.hmv.co.jp/news/article/1105100024/)やサイトでの紹介(http://www.universal-music.co.jp/jazz/j_jazz/pizzicato_one/from524.html)とかをみていて、気になったので購入しました。

 地震・福島の原発事故の時期にたまたま重なったわけですが、
 ここ最近の小西康陽は、Pizzicato Fiveの頃のゴージャスでハッピーなアレンジよりも、音数を抑えた枯れたアレンジを指向していましたた。今回は "Pizzicato One"というちょっとあざといのではないかというネーミングを引っさげてのリリースで、逆に彼の本気さがうかがえる一作である。音楽全般、売れないんだろうし、売りたいんだろうなあと。

 基本的にアコースティックな作り。悲しい歌をいろんなアレンジ、いろんなボーカルに歌ってもらっている。
 そして、音楽の振幅がものすごく広い。さすが、と思う。
 マリーナ・ショウによるジョン・レノンの「Imagine」。 これが枯れた黒っぽさがあり、非常にいい。
 イマドキのイケメンジャズボーカル、ウーターハメルによる、マリリン・モンローの「I Wanna be loved by you」。
(これは、なんつーか、バタバタして、ドラッグクイーン的な感じもあるような。それはまたそれでいいんですが)。

まるで、創作料理人のコース料理を食べているようです。
「なんちゅうことをしてくれたんや」「きょ、京極はん!」
みたいな感じに涙ちょちょぎれます。
いいアルバムだと思う。
でも、あまりに振れ幅が広すぎて、僕の少し偏った音楽遍歴では、すべて咀嚼できないのが残念。

そして、Attractions。

ATTRACTIONS! KONISHI YASUHARU Remixes 1996-2010

ATTRACTIONS! KONISHI YASUHARU Remixes 1996-2010

 小西康陽が手がけた膨大なリミックスの一部(本人曰く「よりぬきサザエさん」)のコンピレーション。二枚組。
 橋幸夫「メキシカン・ロック」あり、「マツケン・サンバ」あり、かと思えばJB "Sex Machine"あり、多岐にわたってリミックスしています。

 そして、ブックレットが付いていましたが、そこに小西が長い総括を書いています。
 これが、非常によかった。

そもそも、リミックスとは何かということ。
彼の個人史。
リミックスにおいて「オリジナルの尊重が何よりも大切である」ことが強調されており、非常に誠実なアプローチをしていたのだなあと改めて感心しました。ま、この人のレコードへの偏愛ぶりを思い起こしてみるに、オリジナル愛はそりゃあるわなあ、と思う。

そして、リミックスの歴史と現在の立ち位置についても、言及しています

2009年の秋、須永辰緒さんにいまビクターでリミックスを6曲作っている、と、このアルバムの話をしたところ、リミックスとはまた懐かしいことを言いますね、と笑われました。たしかに、もうリミックスという手法が刺激的な音楽を作り出すような時代は過去となってしまったのかもしれません。12インチ・シングルを売るレコードショップも今は少なくなる一方ですし、my spaceなどを拠点として誰かが誰かのリミックスを作ることなどはまったく日常的なことです。そしてMADと呼ばれる作品は、リミックスという言葉を完全に過去のものにしています。
もしもリミックスという行為がすでに死んでいるのなら、このCDは音楽の葬儀なのでしょうか。
(Bookletから)

 まあ自分のやってきたリミックスという行為に対して、おそろしく醒めている。
 確かにこの人の音楽に対する関わり方って、自分自分と我をはるようなところがなくて、常に謙遜というか謙譲というか、そういう態度であるように思います。

 収録されている一曲一曲にもコメントをしていますが、これも、非常に見所というか、舞台裏を惜しみなく書いており、非常におもしろかったです。

 確かに小西康陽のいうとおりで、リミックスという手法が、歴史的意義を終えつつあるというのは、本当なのかもしれない。これはあざとい言い方をすれば、リミックスで食えた時代は、もう終わり、ということだ。
(ブックレットの中で リミックス・バブルは Punch the monkey(ルパン三世の曲のリミックス)で始まったと回想しています。僕も買ったなああれ。サブカル入門アイテムみたいなもんで、みんなあれ買ったよね)。
 僕はタコツボ目ジャズ科トロンボーンという絶滅危惧種なので、ミュージック・シーンのトップ・マーケットのことはよくわからないのですが、そこで仕事をしている人間にとって、この手法の限界はひたひたと感じ取られるものに違いありません。それで、上に紹介した「11のとても悲しい歌」のようなコンセプトに舵を切るわけなのだろう。

 僕自身はインドア・ソノフィルなので、クラブに行ったりせず、iPodかオーディオで音楽を垂れ流すだけだから、このAttractionsと11のとても悲しい歌の間の使用用途に大きな断絶はないわけですが、両者の使われ方には、大きな懸隔がある。 もうちょっと若い時に、クラブ行っときゃよかったなー 、と思う。

 ここ最近は、ジャンルの寿命は、携わっている人間の寿命よりも短命化している。
 栄枯盛衰を感じさせられます。ま、最近は音楽に限って言うと、栄も盛もあまりありませんが。
 K-Pop? あれはちょっとね。

メモ:(孫引き用)
ドリームガール リミックスアルバム 高橋孝博「Baby Love」
JB リミックスアルバム MURO「Funky Drummer」
コーネリアス Fantasma
I want you to be my baby