Amazon.comは何を根拠に海賊アドオン「Pirates of Amazon」にクレームつけてるの?

Amazonの映画、ゲーム、テレビ番組、CDなどの製品ページに当該商品(コンテンツ)の海賊版Torrentへのリンクを表示させるFirefoxアドオン『Pirates of Amazon』が話題になっていたが、そのアドオンを制作した2名の学生に対してAmazon.comの弁護士は「ノーティスアンドテークダウン」通知を送付し、その学生らが同アドオンの提供を停止したのだとか。

この学生らは今回のアドオンの制作意図を芸術的パロディであったとし、

「(Pirates of the Amazonは)インターフェースデザイン、情報アクセス、さらに現在議論されているメディア文化におけるさまざまな問題に関する実用的な実験だ」

アマゾン、「Pirates of the Amazon」アドオンを制作した学生らに法的措置:ニュース - CNET Japan

と主張している。

まぁ、これを言い訳とみるか、純粋な表現と見るかは人それぞれなのだけれど、個人的にはもっと確信犯的なものだと思っていたので、即座に削除したことには少し拍子抜けしたところもある*1

ただ、それ以上に気になるところとしては、Amazon.comが一体何を根拠に「ノーティスアンドテイクダウン」通知を送付したのか、ということ。もちろん、提供されるリンクは十中八九*2海賊版コンテンツであることは疑いないのだが、かといって、そのTorrentからダウンロードされるコンテンツはAmazon著作権を侵害しているわけではない。Pirates of Amazonが提供したリンクからTorrentを入手し、それによって著作権侵害が生じたとしても、それはそのコンテンツの著作権者に対する権利侵害であり、Amazonに対するものではない。

また、たとえ著作権に絡んだものであったとしても*3、その責任を問えるかどうかは難しいかもしれない。P2PプロトコルであるBitTorrentは、ユーザ同士が直接データをやりとりすることでコンテンツが流通する。つまり、著作権侵害が生じたとすれば、そのユーザこそが責任を負うことになる。
ただ、BitTorrentはその性質上、多くのサポートを必要とする。ユーザ同士が接続するためにはトラッカーというサーバが必要になるし、そのトラッカーに接続するためには通常はtorrentファイルが必要となる。そのtorrentファイルはThe Pirate Bayを初めとするBitTorrentサイトがホストしている。

今回のPirates of AmazonはそのBitTorrentサイトへのリンクをAmazonのウェブページ上にユーザ側の処理で挿入するというものである。直接の著作権侵害行為からはほど遠いものであるといえるかもしれない(ユーザ>トラッカー>BitTorrentサイト>Pirates of Amazon)。リンクに対する責任が何処まで及ぶのかは依然として不明瞭なままであるが、たとえ著作権侵害に関連するリンクへの責任が問われたとしても、著作権侵害に繋がるまでの経路には複数のプレイヤーが介在しており、Pirates of Amazonのようなアドオンにまで責任が及ぶのかなと疑問に思える。

CNETの記事では書かれてはいないが、New York Timesの記事には以下のようにある。

Mr. Cramer maintained that Pirates of the Amazon was legal, since the tool only provided simple links between two Web destinations, Amazon.com and the Pirate Bay.

Pirates of the Amazon Abandon Ship - Bits Blog - NYTimes.com

客観的にみれば、Pirates of Amazonは2つのウェブサイト、The Pirate BayとAmazon.comを単にリンクさせるだけのアドオンである。また、このアドオンが提供された結果として著作権侵害が生じたとしても、それに対する申し立てが可能なのはAmazonではなく、個々のコンテンツの著作権者である。

そういった点からみれば、Amazonのノーティスアンドテイクダウンは、このアドオンによって間接的に著作権侵害が生じるため、というものではないようにも思える。となると、一体何を根拠にしていたのか、というところが気になるのだが…。

もちろん、Amazonにしてみれば売り物である製品ページにでかでかと海賊版へのリンクが掲載されるのはたまったものではないのだろうが、かといってアドオンやユーザスクリプトの配布(や利用)をAmazon側が制限できるというものでもないように思える。

追記

id:mohnoさんよりコメントをもらったので、追記という形でご返信。

mohno mohno BitTorrentでの違法コンテンツの入手」を違法と想定すれば、Pirates of Amazon は違法行為を幇助しているとみなされ、削除しなければ損害賠償を請求されていた可能性はあったと思う。原告はamazon じゃないかもしれないが。

現状ではリンクのリンクへの責任を追求することは(現実的に)難しいとは思っていますが、それでもそうした解釈/方向性はあり得ると思ってます。その辺はこれまでビデオリンクサイトの責任問題に関する話題と繋がるところでもあります。

違法コンテンツへのリンクに対して法的責任を問えるという解釈が存在しつつも*4、法的責任を問う流れにはなっておらず、依然としてほぼ手つかずのままである、というのが私の現状認識です。

ただ、今回のエントリのフォーカスは「それを判断/追求するのはAmazonじゃないはず」なのに、なぜクレームをつけたのか、というところです。確かにAmazon経由で海賊行為に繋がるという側面もあるとは思うのですが、アドオンというAmazonの責任が全く及ばないところで生じた問題に対して、Amazonが何らかの措置を講じなければ権利者側から責任を追及されるということも考えにくいですし。

ともすれば、ユーザスクリプトを用いて、サイトのアウトプットを改変することがNGだ(少なくとも配布を禁じることで)というところにまで至る可能性もないわけではないかなと思うところもあります。

*1:後述するNYTではもう少し詳細にその動機づけについて語られている。

*2:むしろそれ以上の割合で

*3:おそらくはそうではないと思っているが。蓋を開けてみたら、なんだそりゃ?という理由づけがなされていたりするのかなと

*4:もちろん、問えないという主張も存在します。