「蛍の光」の原曲は別れの歌ではない

(第237号、通巻257号)
    
    かつては「仰げば尊し」と並んで卒業式の定番だった「蛍の光」は、一般にはスコットランド民謡とされる《注1》。本場・英国エディンバラの聖メアリー大聖堂音楽隊が歌う「蛍の光」を先日初めて聴いた《注2》。東京は六本木のサントリーホールが演奏会場だった。正直に言うと、はじめ歌声を耳にした時は、何語なのかすぐには分からなかった。スコットランドの古英語だという。
    
    歌の題名は、“Auld lang syne”という。現代の英語になおせば、“Old long since(ago)”。「久しき昔」とか「遠い昔の日々」という意味だという。日本での「蛍」は、題名にない。ならば、歌詞はどうか。
    
       Should auld acquaintance be forgot,
       And never brought to mind?
       Should auld acquaintance be forgot,
       And auld lang syne?

       For auld lang syne, my dear,
       For auld lang syne.
       We'll take a cup o' kindness yet,
       For auld lang syne.

    各種辞典、参考書やウェブサイトに載っている訳を参考にして言うと、歌の大意は――
       「古い友は忘れて もう二度と思い出さなくなるだろうか
       古い友は 忘れてしまうものだろうか
       遠いあの日のことまでも

       友よ 遠いあの日のために
       遠いあの日のために
       変わらぬ友情の祝杯をあげよう
       遠いあの日のために」というような内容だ。
    
     歌詞にも「蛍」は出てこない。日本の「蛍の光」は「蛍の光窓の雪 書(ふみ)読む月日重ねつつ いつしか年も過ぎの戸を 明けてぞ今朝は別れ行く」で知られる通り、「別れの歌」《注3》であり、内容も悲しげで暗い。対して原曲の歌詞は、懐かしい昔の友と再会して思い出話をしながら祝杯を挙げよう、という前向きの内容だ。
    
    この日の演奏会は、東日本大震災の被災者に向けての意も込めて「手をつなごうコンサート 2011」を標題に掲げたジョイントコンサートだっただけに、「別れ」よりも復興につながる「再会」を主にした歌詞の方が合っていた。ステージの最後は、聴衆もいっしょになって日英語での大合唱となった。

《注1》 スコットランドに古くから伝わる民謡とされているが、作詞はスコットランドロバート・バーンズが1788年に発表したもの。
《注2》 この演奏会は、国内では抜きんでた歌唱力を持つ「東京少年少女合唱隊」(略称LSOT)の創立60周年記念コンサートとして開かれた。聖メアリー大聖堂音楽隊は賛助出演というよりジョイントコンサートの形での出演だった。
《注3》 日本語の歌詞の意外な意味については、当ブログの2007年3月14日付けの第10号「蛍の光の『かたみ』は『形見』か」で詳しく取り上げている。