金融政策にとって金利はどの程度重要なのか?

という点についてMatt RognlieとNick Roweが論争していた。


まず、Rognlieがこのエントリで以下のように書いた。

You may have heard from Scott Sumner, among others, that interest rates are a terrible indicator of monetary policy. This is actually true if we’re talking about current interest rates: it’s possible for monetary policy to be effectively tight because the Fed’s policy rule is contractionary, even if the current rate is very low. (Maybe it plans to raise interest rates dramatically in a few years, or whenever the economy shows signs of an expansion.) The key is to remember that monetary policy works through the entire expected path of future interest rates, not just the current rate. But interest rates are ultimately the key mechanism through which monetary policy affects the economy.
(拙訳)
スコット・サムナーを初めとする人々から、金利は金融政策の指標としてはお粗末なものだ、という話を聞いたことがあるかもしれない。現時点の金利について言えば、これは本当のことだ。たとえ現時点の金利が非常に低かったとしても、FRBの政策ルールが緊縮的であるために金融政策が実質的に引き締められている、ということはあり得る(FRBが数年以内もしくは景気が上向き始めたら即座に金利を大幅に引き上げようとしている場合がそうだ)。ここで銘記しておくべきことは、金融政策は、現時点の金利だけではなく、将来の金利の予想経路すべてを通じて効果を発揮する、ということだ*1。しかし最終的に、金融政策が経済に影響を与える際にかなめとなるメカニズムは金利なのだ。


この最後の一文にRoweがコメント欄で噛み付き、両者の間で暫しやり取りがあった。双方の主張を簡単にまとめると以下の通り。

Rowe
貨幣経済においては、すべての市場は、貨幣とある商品という二財の市場である*2。そうした市場が何千とある中で、貨幣と債券の市場(金利はそこで決まる)だけに焦点を当てる理由は無い。
Rognlie
金利が関係していないように見える場合でも、財の便宜収益(convenience yield)と金利の均衡が裏で成立している。
また、人々の現金の保有割合は僅かであり、大部分を預金などベースマネーに直接裏付けられていない形で保有している。従って、ベースマネーの増減が人々に影響するのは、銀行間取引で決まる金利を通じてである。Roweの議論ではその伝達経路が不明。


Rognlieの主張の前半で言及されている便宜収益は、簡単に言えば持ち越し費用の逆の概念で、何らかの理由によりその財を保持していることがプラスとなる要因である*3。それをケインズのいう自己利子率に置き換えれば、Rognlieのここでの主張は、自己利子率マイナス持ち越し費用プラス流動性プレミアムがインフレ調整後に財と貨幣の間で均衡する、というこのエントリで紹介したケインズの話に通ずるもの、と言えるだろう。

*1:ちなみに、サムナーが好んで言及するフリードマン論説では、過去に金融を引き締め過ぎたために現在の低金利が必要になった、というようにむしろ過去の金利経路に焦点を当てている。

*2:Roweはこの表現を良く使う。cf. このエントリ

*3:cf. Wikipedia岩田一政氏説明。また、このエントリで紹介したスティーブ・ワルドマンのエントリでは便宜収益について詳細に論じている。