中産階級を支援する4つの政策とその財源

という記事(原題は「Four policies to help the middle class, and how to pay for them」)をブルッキングス研究所のRichard V. ReevesとKatherine Guyotが書いている
以下はその概要。

  1. 労働者への税控除
    • Isabel Sawhill*1が提案する、子供のいない労働者への支援を増やし、かつ、第二所得者の労働インセンティブを損なわない形のEITC(Elaine Maag提案のものと類似)。年1500ドルを上限として、個人所得の15%相当を税控除。年収4万ドル未満の全労働者を支援。推計コストは10年で8680億ドル。
    • 財源は炭素税。Aparna MathurとAdele Morrisは、拡大EITCの財源として炭素税を提案したことがあった。炭素税は二酸化炭素排出削減という点でそれ自体が価値ある政策であるが、中下流所得者への賃金補助を実施すればその逆進性を打ち消して余りある。1メトリックトン当たり27ドルから始めて年率5%をインフレ率に上乗せして上げていけば、10年で1兆ドルになる。
  2. 住宅の初回購入者への税控除
    • William Gale*2が提案する、住宅ローン利子控除を、住宅の初回購入者への一回だけの還付付き税控除に置き換える政策。住宅の新規購入者各人につき1万ドルを税控除。住宅ローン利子控除よりも逆進性が小さく、コストも小さい。Galeの言葉を借りれば「住宅債務ではなく住宅保有を促進する」。推計コストは年200億ドル。
    • 財源は住宅ローン利子控除の廃止。住宅ローン利子控除は住宅保有率の上昇に殆ど寄与せず、かつ、恩恵が高所得家計に偏っている。所得分布の中位6割の恩恵は控除全体の4分の1に過ぎない。2018年の住宅ローン利子控除は約340億ドルと両院合同租税委員会(JCT)は見積もっている(2017年の税制改革により項目別控除から定額控除に多くの人が移行したと予想されるため、2017年の660億ドルから減少する見込み)。なお、2017年の税制改革で利子控除が受けられるローン元本の上限が100万ドルから75万ドルに引き下げられたが、Austin Drukker、Ted Gayer、Harvey Rosenのレポートによれば住宅ローンを抱える家計の中で金額が75万ドルを超えるのは2%未満に過ぎない。Galeは10年かけて利子控除を廃止することを提案している。
  3. 有給休暇制度
    • 広範な支持があるにも拘らず、米国は国レベルの有給休暇制度の無い唯一の先進国。明示的に有給休暇が利用できる労働者は全体の16%に過ぎず、かつ、低賃金所得者ほど利用しにくいという不公平な状態にある。ピューリサーチセンターの調査によれば、中位所得(家計所得が3〜7.5万ドル)のうち2割近くが、過去2年間に、家庭や医療の理由で休暇を取りたかったのに取れなかった、という経験をした。AEIとブルッキングス研究所超党派家族の有給休暇に関するワーキンググループ(Reevesもそのメンバー)では、親の有給休暇として8週間を父母に与える連邦政策を提言している。賃金代替率を70%、上限を週600ドルとすれば、ワーキンググループのモデルによる推計コストは年130億ドル。
    • 財源は給与税。既存の有給休暇制度は社会保険プログラムの一環として被雇用者の給与税で賄われていることが多いが、それによって雇用者の負担が減り、休暇をより多く取るであろう女性への差別も防げる。AEI=ブルッキングスの提案もその線に沿っており、0.15%の給与税で計画は完全に賄えるとしている。そのほか、税制の逆進性を緩和して財源を捻り出すという案も出されている。2017年の税制改正で設けられた州・地方税の期限付き控除上限を1万ドルから下げる、もしくはせめて2025年以降も維持する、というのが一つの手段。上限を撤廃すれば連邦税歳入が10年で6200億ドル減少し、その恩恵の96%は上位2割の家計が蒙る。
  4. 大学進学のための子供の貯蓄口座
    • William ElliottとMelinda Lewis*3の提案では、資産の乏しい子供に対して政府は、当初の種銭として1万500ドルを提供する。資産が大きいほどその額は小さくなり、すべての子供が18歳になる時には約4万ドルの教育用資産を持つようにする。推計コストは年420億ドルとなる。ちなみに2017年に大学生の支援に政府が費やしたのは600億ドルであった(学生ローンを除く)。
    • 財源は相続税。資産の乏しい子供の教育に相続税を使えば、より公平な形で前の世代から次の世代に資産が移転されることになり、資産のギャップを狭めるという考え方に沿う。1970年代以降相続税の免除対象が広がってきたことにより、課税対象となる相続資産は減少してきており、今や相続税贈与税は連邦歳入の1%未満に過ぎない。2017年の税制改正では2025年を期限として免除対象が倍増し、1120万ドル(カップルでは2240万ドル)を超える相続資産の一部しか課税されない。Tax Policy Centerの推計によれば、2000年の税制に戻れば、個人の免税は100万ドルまで、最高税率は55%となり、2019年の相続税債務は、現行税制では156億ドルになるのに対し、660億ドルとなる。