竹内まりや『Variety (30th Anniversary Edition)』を聴く!

竹内まりや『Variety (30th Anniversary Edition)』が昨日無事到着したので、早速聴いてみた。
以前このブログで紹介した通り、今回のリマスター盤はボーナストラックが7曲追加されており、既にこのアルバムを所有していても、買い直すだけの価値は十分にある。また、ブックレットには竹内まりや山下達郎による解説、また本人による曲の詳しい解説が載っている。特に曲解説は十分な読み応えがある。最近では、アルバムの発売に連動して、音楽雑誌等に本人による解説が載せられたりする場合が多いのだが、個人的にはそれはあまりいい事とは思わない。曲とはアーティストが何かを伝えようとするものであるが、発表された作品は、既にアーティストのものではなく、それは聴き手のものになるのである(著作権についての話ではない)。つまり、聴き手は自分なりの解釈で曲を聴き、やがてそれは離れ難い大切なものへと昇華して行く。即ち、作品を成長させるのは聴き手なのである。それを、自分の言いたい事はこんな事だったと、いきなりの答え合わせや種明かしをしてしまっては、作品が自分のものにならないのだ。だから、この手の本人による解説は、まずは曲を聴きこんでから読むのが正しいのである。

さて、本題。まずは音質から。とにかく各楽器の分離が素晴らしい。以前の様な音圧上げ競争から解放された現在の状況からすれば当たり前だが、音が非常に上品で、各楽器の持つ特性が如何なく発揮されている。以前では埋もれ気味であった様な音ですら、きちんと鳴って聞こえるのが素晴らしい。まあ、山下達郎自身、無類のオーディオマニアとして名が通っている人だから、悪いわけが無い!と言っては身も蓋もないが、とにかく素晴らしいマスタリングである。
01.「もう一度」。ボーカルやコーラスには大量のリバーブが投入されているが、楽器の音が埋もれる事なく、しっかりとボーカルを支えている。出だしの青山純のタム一発と達郎のコーラスからピアノの絡み、そしてベースのソロフレーズへと、ボーカルが入る前から気持ち良すぎてクラクラするw のびやかな彼女の歌声は、きれいにリバーブが乗っていて大袈裟な印象は全く受けない。特にサビ部分でのリバーブは格別だ。この曲のタイトルは、このアルバムで再出発を果たすのだという彼女自身の思いがあったのだそうだ。02.「プラスティック・ラブ」。彼女自身も解説しているが、この曲のキモは何と言っても故・青山純のドラムだ。細かなハイハットとバスドラのフレーズは鳥肌モノだが、ブラスやストリングスが控えめながらも曲に入りこんでくる瞬間が気持ちいい。エレキのカッティングも何気に素晴らしい。03.「本気でオンリーユー」。たまたま同じスタジオでレコーディング中だった坂本龍一にお願いして弾いて貰ったという、冒頭のパイプオルガン風シンセのイントロが印象的だが、このパイプオルガン風の音や、曲中で大きなウエイトと占めているエレクトリック・シタールは意外と録音も再生も難しい部類の音だが、更には、大量のコーラスと、これにストリングスやサックス、果ては達郎演じるワンコの鳴き声まで被さって来るのだから、物凄いトラックとも言える。しかし、これまた上品に、しかもボーカルが埋もれる事無くしっかりと聴こえるのが素晴らしい。06.「アンフィシアターの夜」。自身の解説によると、LAのアンフィシアターへキンクスのライブを観に行った時の事を歌った曲なのだとか。従って、曲はライブ会場を意識した音作りとなっているのが面白い。ギターのエフェクトも演奏もかなりラフで、バンドの音が結構団子状態になっているのがいかにもといった感じだ。08.「マージービートで歌わせて」。もう、何度聴いても涙が出そうになる程の名曲。従って、正常な判断が出来ないのだが、この曲に限って言えば、チープな雰囲気を失わないまま如何にハイファイで伝えられるのかという部分が重要。この曲のミックスには仕掛けがあって、それは、この曲がビートルズに捧げられた事にに因るアイデアだ。ビートルズの特に初期の作品では、まだ録音トラックに限りのある時代だったので、最終的な作品になるまでに録音トラックを使い果たしてしまうのを防ぐために、リダクションという作業が必要だった。即ち、いくつかのトラックをひとまとめにして、空いたトラックに録音、再びひとまとめ、という作業を繰り返して行くと、最終的に、片チャンネルずつに幾つかの楽器がかたまってしまう。この曲ではそういった時代の録音を再現している。ボーカルは中央にあるものの、左にドラム、B、12G、右にはサイドG、リードG、オルガン、ハンドクラップが完全に別れて録音されている。現在の様に、ほぼ際限なくトラックを使える時代ではないものを再現したわけだ。ビートルズにさほど詳しくない人がこの曲を聞いた時(特にヘッドフォンなどで)に感じる、音がかたまって左右に別れているという違和感は、実に正しいのだ。10.「ふたりはステディ」。ちょっと遊び慣れたお姉さんが、たばこもワインも苦手で背の高さも逆さまな年下の男の子にぞっこん、っていう曲。これまたウォール・オブ・サウンドっぽいサウンドで、ボーカルには大量のリバーブが投入されており、それでも、しっとりと、伸びやかに、音に埋もれる事なく聴こえ、歌詞の持つ意志がしっかりと表現されているのが判る。最後に達郎のボーカルが絡んでくる場面が気持ちいい。11.「シェットランドに頬をうずめて」。本人も書いているが、冬の寒さと暖炉の暖かさの対比がよく表現されている。当時は全く考え付かなかったのだが、こういうのんびりとした田舎暮らしも悪くないな、等と考える自分は随分と年を取ったのだろう。30年という月日は確かに長いが、このアルバムを聴けば、すぐにあの頃に戻れる。リマスターという作業は、実はタイムマシンを作っているのと同じ様な事なのかもしれない。
最後にボーナストラックについてだが、12.「赤のエナメル」はこのアルバムに収録されなかった候補曲。後に中森明菜に提供された。13.「プラスティック・ラブ」は12インチ盤からのもの。当時、レコード盤の最後の悪足掻きで、これでもか!ってくらい様々なミックスが世に溢れ出た。この曲も遊び心万歳でミックスされている。14.「プラスティック・ラブ」は収録楽器がシンプルなミックス。15.「プラスティック・ラブ」16.「本気でオンリーユー」17.「アンフィシアターの夜」18.「マージービートで歌わせて」はカラオケだが16.にはワンコの声が入っていない。


30周年記念盤。価格は2,200円(税抜き)。