紀伊半島の神髄 (前編) : 下市口→十津川→本宮


今回は久々に泊りがけのサイクリング。
行き先は紀伊半島の中央部。普段は手が届きづらい場所へ泊まりでアプローチ。
前日深夜に熊野本宮近くの川湯温泉に宿を取って出発。

峠を越えて : 下市口→大塔

近鉄で京都から橿原神宮前で乗り換えて下市口へ。下市口は天川方面の入り口に当たる場所だ。
自転車をセットアップしてサイクリング開始。
最初は国道309号から県道48号へと走る。僕の好きな交通量の少ない、ゆったりした山あいの道だ。
地蔵トンネルを抜けて黒滝村へ入る。
黒滝村からは小南峠を越え洞川(どろかわ)へ向かう予定だったのだが、
小南峠の入り口には通行止めの看板が置かれていた。
仕方ないので県道138号で国道168号へ迂回することにした。




本殿と拝殿を繋ぐ木階 (丹生川上神社下社)
国道168号への迂回中に丹生川上神社下社に立ち寄った。
本殿は高台に築かれていて、本殿と拝殿の間は木の階段で結ばれている。
周囲は太い幹の樹木に覆われていて、いかにも社叢といった感じだった。
[ Nikon D200 + Tokina AT-X PRO DX 12-24mm F4 ]


国道168号は紀伊半島南部への主要ルート。それだけに、そこそこ交通量があるのが難だ。
国道168号を南に走っていると妙に規格のいい高架橋とトンネルでできた道(?)が
平行しているのに気付いた。帰った後で調べてみた所、五新線という鉄道路線未成線跡らしい。
五條と新宮を結ぶ路線という事だが、どう考えても赤字確定。未成に終わったのもやむなしだろう。
今はバス専用の道として使われているようだ。


しばらく走ると、今回のルートで最大の峠になる新天辻(てんつじ)トンネルへ向けて登る。
傾斜は厳しくなく、ゆっくり登りきってトンネルに到着。
片側一車線が確保されていない狭いトンネルだった。
トンネルを抜けてすぐにある道の駅"吉野路大塔"で昼食休憩した。

日本最大の村 : 十津川→本宮

大塔を過ぎてしばらく走ると十津川村に入った。
十津川村は日本で最大の面積を誇る村で、奈良県の約1/5を占めている。
村に入っても村役場のある場所まではだいぶ距離がある。
まずは最初の目的地、谷瀬の吊り橋を観光。




谷瀬の吊り橋
谷瀬の吊り橋は生活道になっている橋としては日本最長で、長さ297m、高さ54mある。
ワイヤーで吊られているので橋の中央付近では結構揺れて楽しい。
最近ある人と吊り橋の話をして、ふと谷瀬の吊り橋を渡りたくなったのが今回のサイクリングを
このルートにした理由の一つだったりする。
[ Nikon D200 + Tokina AT-X PRO DX 12-24mm F4 ]


谷瀬の吊り橋を過ぎて、さらに南へ走る。ダム湖沿いの道を快走。
ダム湖風屋ダムで形成されたもののようだ。
ダムを過ぎ、さらに十津川沿いに進んで十津川村の役場がある温泉地(とうせんじ)に到着。
役場の隣にある道の駅で小休止した。
ついでに歴史民俗資料館にも立ち寄る。十津川は山間部で平地が無いので米がとれない。
そのため、時の権力者に戦力を供給する事で租税を免除してもらっていたらしい。
江戸時代は十津川村の人は郷士身分(武士と農民の中間)を許されていたようだ。
深い山間部、かつ都に近いという地理的特性がこういった特殊な歴史を作ったのだろう。




谷を越え山を潜る位置エネルギー
国道168号を走っていると、頭上に大きな水道管が渡されているのを見かけた。
「十津川第一発電所」と書いてあるので水力発電のための導水管のようだ。
帰って調べてみると、この導水管は風屋ダムから発電所まで8km以上もつながっているようだ。
ダム湖下流に広い土地が無いのでこうなっているのだろうか。


十津川村はまだまだ続く。次は二津野ダムが作るダム湖沿いを走る。
十津川温泉を過ぎ、ダムを過ぎるといきなり高規格な道が現れた。
まるで高速道路のような道の路肩を走っていると、ついに和歌山県の県境に到着。
十津川村に入ったのが午後1時、この県境にたどり着いたのは5時前。
観光や休憩の時間を含むとはいえ、実に4時間も掛かったことになる。さすが日本最大の村。

温泉、温泉 : 熊野本宮→川湯温泉

和歌山県に入ると本宮町(田辺市)に入る。
深い谷を形作っていた十津川は熊野川に名前を変え、いきなり広々とした河原に姿を変える。
その地形が変化する地点に熊野本宮大社がある。




大斎原(おおゆのはら)
熊野本宮大社は写真撮影禁止ということだったので、大斎原の鳥居の写真を載せる。
ここは明治22年の洪水まで熊野本宮大社の社殿があった場所で、今も基壇の石積みが残っている。
今は社殿は近くの丘の上に移されているが、この位置の方が熊野川に関係の深い感じがする。
ここに建つ大鳥居は日本最大の鳥居で、高さ33.9m。平安神宮の鳥居(24.2m)よりだいぶ大きい。
[ Nikon D200 + Tokina AT-X PRO DX 12-24mm F4 ]


本宮町のヤマザキショップで夕食を買って、宿を取った近くの川湯温泉へ向かう。
宿は素泊まりだが温泉の大浴場が付いていて、泊まった日は貸しきり状態だった。
サイクリングで疲れた体には温泉は最高だ。




川湯温泉
川湯温泉はその名の通り川を掘ると温泉が出るという場所だ。
源泉温度が高いので川から水を引き込んで温度調節をするらしい。
(写真は翌朝撮影/ここに浸かった訳ではない)
[ Nikon D200 + Tokina AT-X PRO DX 12-24mm F4 ]

紀伊半島の神髄 (後編) : 川湯温泉→瀞峡→新宮→串本


サイクリング二日目。温泉の効果か、意外に体力も筋力も回復していた。
紀伊半島の奥地という普段手が出ない場所にいるので、二日目は山間部の観光を中心に走った。

お腹空いた : 川湯温泉→瀞峡(どろきょう)

宿で前日に買っておいたこの地方の名物"めはり寿司"を食べる。
めはり寿司はご飯を高菜の浅漬けで巻いた物。初めて食べたが、僕にはイマイチかも。
めはり寿司3個では足りなかったので朝食に何か買おうと思ったのだが、
頼みのヤマザキショップはまだ開店前だった。仕方ないのでそのまま走り始める。
国道168号で東へ。国道169号と交差する場所から国道169号で瀞峡方面へ向かう。


国道169号は瀞峡のある北山川に沿った道。川沿いなので楽な道だろうと思っていたら、
それなりにアップダウンのある道だった。考えてみれば、瀞峡というのは渓谷の景勝地なので
それに沿った道にアップダウンがあるのは当たり前だった。
アップダウンも辛いが、朝食が少なかったことでお腹が減ってきたのが辛かった。
所々で瀞峡を眺めながら道の駅おくとろで休憩。レストランがまだ開いていなくて焦ったが、
近くの喫茶店が開いていたのでカレーを食べた。




瀞峡の渓谷美
瀞峡は写真のような渓谷美の景勝地。併走する国道169号からの眺めが限られているのが残念。
写真は高い場所を走る国道から見えた渓谷の眺め。
観光筏を使った川下り(道の駅からバスの送迎が付いている)が楽しそうだった。
[ Nikon D200 + Ai Zoom-Nikkor 80-200mm F4S ]




自転車で渡れる吊り橋
前日訪れた谷瀬の吊り橋は観光客は徒歩でしか渡れない(地元の人は自転車でも渡る)。
道の駅おくとろ近くのこの吊り橋は自転車(多分バイクでも)でも渡ることができる。
自転車で吊り橋を渡ると意外なことに全然揺れない。
自転車で吊り橋を渡るのはもっとスリリングな物かと思っていたが、やや拍子抜けだ。
[ Nikon D200 + Tokina AT-X PRO DX 12-24mm F4 ]

看板に偽りなし : 瀞峡→丸山千枚田→新宮

瀞峡と吊り橋を見終えたので次の目的地、丸山千枚田に向かう。
県道40号で取って返して南へ。この道は山の中腹を走る道で、谷側の見晴らしがいい道だ。
しばらく走ると道端に車が一杯駐車している場所に着いた。
どうやら丸山千枚田は思っていたよりも観光地だったらしい。出店?なんかも出ているようだ。
自転車を道端に停めて、斜面の道を下って千枚田を見物する。




空中の田んぼ
丸山千枚田は急斜面を階段状に均して田んぼを築いている。
横から見ると写真のように高度感のある景色になる。等高線が目に見えるようで面白い。
[ Nikon D200 + Tokina AT-X PRO DX 12-24mm F4 ]




看板に偽り無し
丸山千枚田の遠景が上の写真。千枚田の名に恥じない大量の田んぼが斜面を覆っている。
日本人の米の収穫にかける情熱を実感する。
[ Nikon D200 + Ai Nikkor 35mm F2S ]


千枚田を過ぎて新宮へ向かう。ここまで稼いだ高度を速度に変換しながら県道62号を快調に下る。
気持ち良く走りきると、ついに海が見えてきた。ようやく太平洋(熊野灘)だ。
新宮を目指して海沿いを走る国道42号を南へ走る。国道42号は紀伊半島南部を半周する幹線国道だ。
ここに来て、今回の旅で(多分)初めてになるコンビニを発見。
この旅は山奥を通るルートだったせいで補給には苦労させられた。
普段のサイクリングがいかにコンビニに支えられているかを実感。


もうすぐ新宮という辺り(鵜殿)に来て何か変な臭いを感じた。
近くに工場があるのでその臭いか、くらいに思っていたのだが、
帰って地図を見たら、その工場は製紙工場のようだ。道理でちょっと変な臭いがした訳だ。
鵜殿と新宮を繋ぐ橋で熊野川を渡って新宮へ到着。


追いかけっこ〜帰還 : 新宮→串本(→京都)

新宮でまずは熊野速玉大社へ向かう。
熊野速玉大社は熊野本宮大社熊野那智大社と並ぶ熊野三山の一つだ。




横並び
熊野本宮でもそうだったのだが、熊野大社は社殿が横に並んで建っている。
それも、同形式の社殿が並んで建っているのではなく、異なる形式の物が建っている。
何かいわれがあるのだろうが、残念ながら良く分からなかった。
熊野信仰は神仏習合の歴史でもあるのだろうが、その辺りもよく分からない。
最近、古建築を見る目が鈍ってきたような気がする。
[ Nikon D200 + Tokina AT-X PRO DX 12-24mm F4 ]


熊野速玉神社の後は新宮駅へ。駅に備え付けの時刻表で帰りの列車のダイヤを確認する。
この日のうちに京都に帰りつけるのは紀勢本線の特急オーシャンアロー32号のようだ。
オーシャンアローは新宮から串本、和歌山経由で新大阪へ行く列車だ。
ここから先はこのオーシャンアローのダイヤに追いかけられながら進む事になる。
オーシャンアローの停車駅と時刻をメモして先へ進む。


新宮を出て、那智勝浦に着く。本来の予定では、熊野三山最後の熊野那智大社那智の滝
見る予定だったが、これらは海岸からは少し離れたところにある。
紀勢本線は海沿いを走っているので、戻り損ねると帰りの列車に間に合わない可能性がある。
時間的にも結構厳しかったので、那智はあきらめて海岸沿いを走れるところまで走る事に。
クジラの街、太地(たいじ)を過ぎて、串本手前で橋杭岩を見物。




伝説の橋と現代の橋 (橋杭岩)
橋杭岩は海岸から沖にある紀伊大島の方向に向かって岩が一列に並んでいる。
伝説では、弘法大師が一晩で紀伊大島まで橋を架けようとした跡という事だ。
現在では紀伊大島と本州は写真奥に写っているアーチ橋の串本大橋でつながっている。
[ Nikon D200 + Ai Zoom-Nikkor 80-200mm F4S ]


串本に到着したのはオーシャンアローの串本発車時刻の45分ほど前だった。
ちょうどいい頃合いなので、駅近くのスーパーで夕食を買って、自転車を畳んで列車を待つ。
帰りのオーシャンアローは和歌山-天王寺間で無停車なのが気持ちよかった。
景色のいい所を走っているのだろうが、日が暮れて見えなかったのが残念だ。
新大阪で新快速に乗り換えて京都へ帰還した。



帰りのオーシャンアロー32号
貧乏性なので(特急は自転車を置く場所が無いというのも理由の一つだが)
普段は特急を使わないのだが、今回は使わないとその日のうちに帰れないので利用した。
在来線特急には普通列車に対する優越感と"旅をしてる"実感があるのが楽しい。
新幹線だとどうしても仕事な気分になってしまうのだ。

まとめ

1日目


走行距離 : 123.2km
走行時間 : 5時間39分
平均速度 : 21.8km/h
最高速度 : 48.5km/h

2日目


走行距離 : 128.2km
走行時間 : 6時間03分
平均速度 : 21.1km
最高速度 : 44.5km/h