法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

「日本の伝統的な心・技・体の一体化した美」を「茶道や能、狂言のエキス」で理解してもらうという不思議なプロジェクト

「能の原型になった芸なんだっけ?」
「ええと……散楽だね」
狂言になったのは?」
「………散楽だね」
「もひとつ質問いいかな。茶道のもとになった仏教と喫茶、どこから来た?」
「君のような勘のいいガイジンは嫌いだよ」


官邸の「日本の美」総合プロジェクトにおいて、津川雅彦座長が「天孫降臨」のアニメ化を主張していた件 - 法華狼の日記で話題にした「日本の美」総合プロジェクトの、第3回議事次第が公開されていた。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/nihon_bi_sogoproject/dai3/gijisidai.pdf
それなりに理解できる意見もなくはないが、プロジェクト内でも異論が噴出していた「天孫降臨」アニメ化が残っているところで根本的なセンスに疑問をおぼえる。

映画への助成は、海外の方が日本を格好いいと思う感覚への貢献であり、その第一作目として、「天孫降臨」などをアニメでつくるなどしてはどうか。

ちなみに議事次第後半の資料で、すでに動いている事業として、国際交流基金によるドラマ『カーネーション』アニメ『Free!』等の外国語版作成が紹介されている。

・商業ベースでは日本コンテンツが放送されない96カ国の在外公館に対し、日本のドラマ、アニメ、バラエティ、映画、ドキュメンタリー等を提案。
・約70か国・120以上のテレビ局から800番組程度の放送希望あり。

こうした需要と供給のギャップを解消することが先決だろうし、それは新作コンテンツを企画する時でも同じはずだ。
日本の神話や伝説を題材にしたアニメはすでに複数あるのに*1、わざわざ「天孫降臨」という地味なエピソードを見たがる観客がどれほどいるだろうか。


そして今回の議事で新たに加わったひとつが、日本博の具体的な内容についての提言である。

・茶道や能、狂言のエキスを鑑賞してもらう総合事業を展開することで、日本の伝統的な心・技・体の一体化した美を世界の人々に理解してもらうことができるだろう。

念のため、直後に海外文化の国風化にも言及しており、あらゆる文化が日本起源だと主張しているわけではない。

・日本は、多様な文化を国風化していった歴史がある。不思議な独自性、多様性を組み合わせていくとよい。

他に、ラーメンやカレーライスをとりいれた食文化への言及などもある。しかし、だからこそこのプロジェクトにおける独自性の判断があやふやなこともわかってしまう。
どこまで自覚的に日本文化をとらえようとしているのか、議事次第を読めば読むほど不安がつのるばかり。国民に対して教える以前に、委員自身が知るべきではないか。

・外に向けるのと同時に、国民自身が、「日本人とは何か」ということを知らないと意味がない。日本博は日本でも開催し、「日本人とは何か」ということの確認を行うべき。

もっとも、「日本の美」を考察しようとする総論で、文化とは血縁主義的に感じるものという意見を採用している。理屈で批判してもとどかないのかもしれない。

・文化は、理屈ではなく、日本人の奥のほうから「分かる」という、遺伝子や血の中で思うもの。この感じを大切にすべき。

それにしても、文化を外国に発信しようとするプロジェクトでこれを明記する不思議なセンス。


あと、官邸プロジェクトのはずなのに「クラウドファンディング等の検討」という意見が採用されている貧乏くささには悲しくなる。

・財政のことを考えると、「案内人」の存在と、国民を巻き込むことの双方が大事。クラウドファンディングのような形も含め、資金面の方法論を検討する必要がある。

この官邸が不思議な局面で寄付金をあてにするのは、今回に始まったことではないが……
http://www.asahi.com/articles/ASJ3251QWJ32UTFK00L.html