法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『HiGH&LOW THE MOVIE』

警察が治安を放棄し、5チームの勢力による均衡で秩序がたもたれているS.W.O.R.D.地区。その1チームが守るスラム街が放火による大火災に見舞われた。
さらに他の4チームも次々に制圧されていく。そこには勢力を伸ばそうとする新たな2チームと、5チーム以前に地区を支配していたチームリーダー琥珀がかかわっていた……


EXILEによる不良アクション映像企画『HiGH & LOW』の映画第1作として、2016年に公開された。監督はPV出身の久保茂昭がドラマにつづいて抜擢された。
https://high-low.jp/movies/themovie/

やはりEXILEの資金力と政治力を感じさせる美術とアクションは素晴らしい。
ドラマで使ったセットや小道具が蓄積されていることを考慮しても、日本国内ロケで安っぽさを感じさせる場面がないことには圧倒される。新設と思われるセットは広々としつつ高さもあるし、積みあげられたコンテナの上段までグラフィティアートが乱舞する。
ひとつひとつのシーンに参加している膨大なエキストラの衣装とメイクが大変なこともわかるし、画面を埋めつくすような群衆の抗争に起用されたスタントマンの人数にもめまいをおぼえる。アクションも一撃一撃に重みを感じさるし、破壊されたオブジェクトもきちんと破片をまきちらして実在感を演出する。
さすがにノーヘルでバイクを走らせる場面では公道に見える場所を使えず、港湾や空き地を走っていることがバレてしまっているが、大挙して整然と走る姿には圧力があるし、地味に背後で二人乗りしている描写にも唖然とさせられた。


ただいかんせん、映像のすごさに圧倒されつつも、日常のカメラワークはちょっとロングショットが多いドラマレベルと感じなくもない。
残念なことにVFXの見どころも少なく、冒頭のスラム街の炎上を遠景で映すような、補佐的な役割にとどまる。その炎上の全景でミニチュア特撮を駆使するくらいはしてほしかった。


物語についても、あくまでドラマの延長上にあり、ひとつの映画として完結はしていないし、エンターテイメントらしい爽快感も足りない。
ドラマ総集編*1は、均衡の維持のために走りまわる兄弟という主軸が明確だった。しかし映画は新興勢力と旧勢力への対抗で始まりながら、旧勢力内部のドラマへと主軸を変えて、琥珀個人の心情で終わってしまう。
どの抗争にも決着がつかないことは、それを目標にしていた総集編では爽快感不足と思いつつ理解はできた。しかし映画の、倒されるために登場してきたような新興2チームとの決着すらつかない構成はいただけない。冒頭の炎上で死者が出たという説明があるのに、その重みを受け止めるドラマがどこにもない。
アクションひとつひとつのボリュームはすごいのに、違う場所のドラマが挿入されて寸断されることも痛い。特にクライマックスの大半が琥珀の回想ですまされたのは、琥珀自身のアクションが少ないこともあって、その直前までの全チームいりみだれる大抗争との断絶感がはげしい。
あまりに饒舌に情報を出されると、どうしても矮小なキャラクターに見えやすい。せめて旧世代の象徴たる琥珀は自身から心情をもらすことなく、現世代5チームが戦いながら推測していく物語にすれば、ドラマの視点がさだまり、琥珀の底知れなさも保たれたのではないか。