第13回札幌読書会レポート

札幌読書会レポート 「レンデル読ンデル!」


 皆さまお久しぶりです。
 最近、「読書会レポート」の文字を辞書から削除していた札幌読書会でございます。
 今回は久々に、10/24に行いました『ロウフィールド館の惨劇』読書会の模様を、前日譚と併せてお届けいたします。
 さり気な〜〜〜く、レンデルの版権をお持ちの出版社様の方角を向いて……。


 今年5月にルース・レンデルの訃報が伝えられ、これはいっちょ“ロウフィールド”で追悼読書会しようぜい! とツイッター上で常連メンバーと盛り上がった時、札幌読書会専用人間検索エンジン(←読書会で“ググる”と言えば彼に尋ねることを指す)が即座に答えを返してきた。
「版元ニ在庫ナシ」
 マージーでーーっ!?
 それじゃ読書会は無理か……と世話人はしぼみかけたが、


「入手困難とあらば尚更読書会をする価値があるというものではありませんか!」


 読書会メンバーは不屈だった。自発的にロウフィールド探索隊が結成され、札幌及び近郊のありとあらゆる古書店を探し歩いたのだ。しかし……
「ありません!」
「全然ありません!」
「どこにもありません!」
 なぜか札幌一円から消えてしまったロウフィールド。どういうこと?
 果ては
「捜しに行って切符切られました……」
 スピード違反とは……無念。焦る気持ちがアクセルを強く踏ませたか。
 待て待て待つんだジョー。私たちが求めているのは「ロウフィールド館の惨劇」という本であって、北海道警察発行のクーポンではない。
 その時世話人はハタと気がついた。一体何のために翻訳ミステリー界に悪の組織(=シンジケート)があるのか……。
 早速窓口に相談し(悪の組織は気軽に相談できるのだ)、各支部代表者のML(まさしくブラックリスト!)に陳情した。
「目下ロウフィールド探索中。当方ナントシテモ レンデル ノ 読書会開催希望。貴会カラノ提供ヲ求ム」
 ……正直云うと少々不安だった。
「品切れ本で読書会とかあり得ないし」「めんどくさいし」「そういうの勘弁してくんないかなー」というお叱りを覚悟していた。
 しかし! 悪の組織はダテに悪の組織じゃなかった。
「それは面白い!」
「いいよ、みんなに声かけてみるね!」
「目標は何冊ですか?」
「頑張って成功させて!」
 ……いい人すぎるゾ、悪の組織! 軽く泣けたぢゃないか。
 すぐに東北から九州、全国各地の善良なる悪の組織支部から寄せられた膨大な情報。
「蔵書貸出OK」
古書店にてゲット」
「ネットで廉価な古書発見」


 そして迅速に行われる受け渡しの手配。
 多くのものは札幌に密輸され(え?)、時にはエージェントを出張させて(=読書会遠征)直取引をすることもあった。
 続々と届けられる『ロウフィールド館の惨劇』
 世話人宅の郵便受けからこぼれ出るほどの『ロウフィールド館の惨劇』
 この時点で日本で一番の蔵書量といっても過言ではないくらい集まった『ロウフィールド館の惨劇』



 なにこの機動力。悪の組織は目標達成意識が高い。そして翻訳ミステリーに対する情熱が並ではない。
 ご厚意をありがたく頂戴し、これらは皆無事に札幌読書会参加者に行き渡った。というかこれ読まなかったら呪いがかかるゾといわんばかりに押し付けた。最後は脅しだよ、ふははは。
 さらに札幌メンバーもレンデル作品を収集しては気前よくバラまくという布教活動を推し進め、じわりじわりと高まりをみせてきたレンデル熱(蚊が媒介するみたいに言うな)。


 そして最後にダメ押し。読書会当日には、三門優祐氏から「読書会のお土産にどうぞ」と豪華“なんてったってレンデル”セットが届けられた。ありがとう、三門さん!


 さあ、これで準備は万端、やる気は満々!


 当日は約30名での読書会となりました。7〜8人のテーブルを4つ作ってのグループトークは途中でクジ引きで席を大シャッフルするという形式をとりました。
 以下、ディスカッションの内容を『ロウフィールド館の惨劇』の有名な出だしの一文とともにお送りしましょう。


“ユーニス・パーチマンが”
「感情移入できない」「空っぽで打っても響かない感じ」「ためらいがなくて怖い」「自分まで石になりそうな気がした」「もともと他人に興味がないのかも」「最後にようやく“人間”に戻ったと思う」「でも家政婦としては有能だよね」「きれい好きでピッカピカにしてくるし」「ウチに来てくれてもいいよ、ユーニス」「だめだよ、絶対積んでる本を全部捨てられる!」


“カヴァデイル一家を”
「善意だけど鬱陶しい」「鈍感な人たち。鈍感ゆえに自分たちが幸福だと思ってる」「リア充が非リア充にちょっかいをかけてる感じ。大きなお世話なのに」「家が汚くてイヤ。ジャックリーン、掃除しなさすぎでしょ」「服装センスも悪いし」「それは舞台が70年代だからチャーリーズエンジェルな感じだよ、きっと」「ミリンダの幼い善意が惨劇に繋がった。もう少し大人だったらよかったのに」「てか、ウザいでしょ、あの子」「ジャイルズは面白キャラなのにやっぱり殺されちゃって、レンデル容赦なしだね」「面白い? ただの中二病だってば」「お父さんはわりとちゃんとしてるのに」「でも“クラシックの第何楽章をこの家族が全員で見ていないはずはない”みたいな家族って私もついていけない」「いいふりこきだよね」
「え?」「え?」(きょとんとする道外参加者)
「……“いいふりこき”って北海道弁なの!?」(愕然とする地元民)


“殺したのは”
「結末がわかっているからこそ怖さから逃げられない」「フリーフォールで上に登っていくのを止められない感覚」「読み終わってホッとした」「いつ破裂するのか気になって仕方なかった。志村! うしろ! って感じ」「BGMにドン・ジョバンニかけたらすごい臨場感だった」「真相の発覚の段階はもうひとひねり欲しかった」「風景描写の美しさがかえってユーニスを追い詰めていくように感じた」
 そしてこんな意見も。
「タイトルがイマイチ。“惨劇”だから斧とかで血しぶきドバーッ! みたいな想像をしてたのにぃ」「ショットガンじゃ雰囲気でない」「いやいや、ショットガンすごいから! ゾンビでも殺せちゃうくらいだから!」「しかも4人殺したくらいで惨劇?」……え、えーっと、日常生活に支障が起きていないか心配ですよ、ミステリクラスタ。あ、大きなお世話ですか、そうですか。


“読み書きが出来なかったためである”
「文盲だから殺人を行ったのではない」「でも文盲ゆえにサイコパスが強くなった面があると思う」「殺人がいけないことと教わらなかったから?」「いきなり他人を恐喝したりするのは文盲と関係ない」「字が読めないことで猜疑心が強くなったのかも」「文盲を隠す努力と文字を学ぶ努力はどちらが大変だろう」「善意と悪意がすれ違った」「悪い偶然の重なり合い」「階級差の社会的対立がベースにある」
 また6月に課題書に取り上げた『プレシャス』は同じく読み書きのできない少女が主人公でしたが、困難を克服しようとするプレシャスとすべてが負の方向に向かったユーニスの対称も話題になりました。


 その他には、
「叙事的なものと抒情的なもののバランスが絶妙」
「不幸な人が必ずしも聖人というわけではない」
「ジョーンの方が怖い/ジョーン中心の物語も面白そう」
「ジョーンのダンナも気持ち悪い」
「全体的に想像力の欠如した空気の読めない人が多い」
「ノンフィクションみたい」(《週刊新○》黒い報告書ですね)
エヴァ・バアラムとは誰?」(誰もわからなかったです……)
「ジョージ、ジャックリーン、ジョーン、ジャイルズ……ジで始まる人が多すぎてわけわかんなくなる」(これにジャックとジェニーなんかがいたら大混乱ですね……)


 瞬く間に時間が過ぎ、最後はレンデル既読の方々からおすすめのレンデル作品を教えていただきました。
 読書会がきっかけでレンデルにハマった人が多いようで、後日早速図書館で本を借りた人、ゲットした三門文庫(!)を読み始めた人など「レンデル読ンデル」方がたくさんいらっしゃるようです。世話人としても読書会やってよかったと心から嬉しく思っています(ちなみに三門文庫の本は、今回初めてレンデルを読んだ方に優先的にお配りしました)。


 これからも「レンデル読ンデル」を合言葉にせっせとレンデルを読み進めたいものです。新刊『街への鍵』ポケミス数冊以外は入手困難なレンデル作品。どこかでレンデル作品を見つけたら迷わずGET!です。積みましょう、読みましょう! え? 積むのはダメだろうって? いやいやこれくらい積むならむしろアッパレ。積んだら崩せばいいだけのこと。


 というわけで、ルース・レンデルの版権をお持ちの出版各社さま。もっともっとレンデルを読みたいので、どうか、復刊プリーズ!

これまでの読書会ニュースはこちら


ロウフィールド館の惨劇 (角川文庫 (5709))

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プレシャス (河出文庫)

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街への鍵 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

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心地よい眺め (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

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無慈悲な鴉 (ハヤカワ ポケット ミステリ―ウェクスフォード警部シリーズ)

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マンダリンの囁き (ハヤカワ・ポケット・ミステリ―ウェクスフォード警部シリーズ (1449))

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虚栄は死なず (光文社文庫)

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