附属機関の委員の守秘義務と罰則

附属機関を設置する場合、秘密事項を扱うようなものについては、その委員に守秘義務を課し、その違反に対し罰則を科すことによって、その履行を担保することが通常だと思われる。
しかし、国のいわゆる八条機関である国地方係争処理委員会の委員については、守秘義務は課されているが(地方自治法第250条の9第13項)、その違反に対する罰則規定は設けられていない。このことについて、松本英昭『新版逐条地方自治法(第4次改訂版)』(P1057)には、次のように記載されている。

特別職の国家公務員に対して、個別法により特に守秘義務が課されている場合であつても、さらにこれに伴う刑事罰を設けるかどうかについては、これを設ける例と設けない例とがあり、刑事罰の必要性は、個別具体の立法趣旨に照らして検討される必要があるものと考えられる(国家公務員法の適用のある一般職の職員については、同法第109条第12号に守秘義務違反に対する刑事罰規定が設けられている。)。国地方係争処理委員会が取り扱う国と地方公共団体との係争の場合は、その成り行きに社会的な関心が広く集まることが予想される。そのような状況において、優れた識見を有する者として両議院の同意により選ばれた委員が、守秘義務という職務上の義務に違反するようなことになれば、国民からの強い批判を受けることは免れないところであり、その社会的評価を失うことにつながると考えられるが、これは本人にとつては極めて強い社会的制裁にほかならない。刑事罰は、他の手段又は作用によつて十分に義務の履行が確保され難い場合の制度であり、国地方係争処理委員会の委員については、義務違反があつた場合において、国民的な批判を受け、その社会的な評価を失うという、有識者としては致命的な社会的制裁を受けるものであることを考慮すると、あえて刑事罰を設けるまでもなく、義務の履行は十分に確保され得るものと考えられる。

この考え方を押し詰めていけば、委員を有識者とする場合には、あえて守秘義務違反の規定すら設けなくてもいいという考え方になるのかもしれない。