Being on the Road ! in Hatena

タイトルは沢木耕太郎「深夜特急」トルコ編の「禅とは,途上にあること」という台詞から.

1950年代にICRPで行われていた議論

1950年代にICRPで行われていた議論の回想記(リンク切れ)を読んでいて,こんな記述を見つけ,ほほぅと思ったのでメモ.ざざっと訳すと(訳は未チェックなので注意)

・1959年,ICRPで直線しきい値なし仮説が採用された.これは,実態を考慮したうえでの,管理上の判断基準であるとみなされた(注:「政治的」なものではない)
・この仮説,公衆の管理基準を導くには非常に便利なもの
・さらに,僅かな被曝でも害の程度が上がるという考えを持ち込んだことは,核戦争を目前にしたこの時代,核実験を先延ばしにしたり抑制したりするという点で政策的にも有効,という思いが込められていた

LNT導入は核の戦争利用を抑止するため,という考えはすっごい新鮮.当時,世界中がどんだけ緊迫していたかがこの文章から伝わってきてドキドキした.
これ書いたZbigniew JaworowskiさんはUNSCEARの議長も務めた人(ポーランド人っぽい).文章全体が格調高いので,舐めるように丁寧に読んでいる.さすがだなー,こういう文章(英語)を書けるようになりたい!

回想記のリンク切れの件、参照したArticleは Jaworowski Z. 1999. Radiation risk and ethics. Phys Today 52:24–29.

The absurdity of the LNT was brought to light after the Chernobyl accident in 1986, when minute doses of Chernobyl radiation were used by Marvin Goldman, Robert Catlin, and Lynn Anspaugh to calculate that 53 400 people would die of Chernobyl-induced cancer over the next 50 years.14
LNTの不条理さは、1986年のチェルノブイリ事故後に明るみに出た。マービン・ゴールドマン、ロバート・カトリン、リン・アンスポーの3人は、チェルノブイリ放射線の微小な線量を用いて、今後50年間に53400人がチェルノブイリで誘発された癌で死亡すると計算した。

LNTを不条理と言い切ってしまっている、スリリングな文章。Jaworowskiさんが、全体に楽観的というか放射線リスク許容せよ論者なのが気になるが、このArticleはLNT導入の歴史的背景がコンパクトにまとまっていて面白い。