「優越か、世界秩序か? アメリカと中国の擡頭」 書評エッセイ ユエン・フーン・コーン(Yuen Foong Kohng)

Yuen Foong Khong, "Primacy or World Order? The United States and China’s Rise— A Review Essay" International Security Volume 38, Issue 3 (Winter 2013/ 14), pp. 153-175.


訳語の不統一は気にしないでもらいたい。ただの怠惰。
米中関係についての書評論文の、以下、要約。



パワーの配分の存在と発展
 アジアにおけるバランス・オブ・パワーとは何か? これは、議論が紛糾しえている。

オバマは中国の擡頭を受けて「ピボット」した。」
フリードバーグは曖昧な書きぶりをしている。米国がアジアのBOP(勢力均衡)を維持することを希望しているように書く一方で、アジアにおける米国の優越的地位を認めているのである。
 ヤンはアジアのパワー均衡が米国優位の形で残っていることを認めている。これは、米国のメインストリームでもある。(スティーブン・ブルックス、ジョン・ミアシャイマージョセフ・ナイ、ウィリアム・ウォルフォース)
 フリードバーグとホワイトは、メインストリームの議論とどう違うのか?彼らは、新規性のある力、を強調し、特にsea denial(海洋拒否、でいいのだろうか?)によって中国の脅威が増していることを通底として説明している。
また彼らは、こうした「アクセス拒否anti-access」に対する米国の対応として、「エア・シー・バトルAir-Sea Battle」と呼ばれる、空軍と海軍を統合させて「アクセス拒否」や「領域拒否area-denial」を混乱・破壊しようとする試みについて議論を展開する。ホワイトは、広域の太平洋における中国との衝突に対し懐疑的である。


つまり、アジアにおけるパワーバランスの問題は、勢力均衡状態であるのか、それとも米国優位であるのか、から議論があるものだと。そして、単純な軍事力の多寡の問題ではなく、中国がA2AD能力を鍛えていることに危惧が持たれているのだ、と。

中国の優越と目標
 三者とも、中国の経済的成長を果たし、軍事敵に米国の覇権に挑戦する存在であることを認めている。
 いったい、中国の長期的目標は何なのか?フリードバーグは、東アジア、あるいはアジアの領主になることだとし、米国はその挑戦に気付くべきだと危惧している。
 ホワイトも中国の覇権挑戦を認めているが、もう少し穏当で、機会があれば挑戦するが、他のアジア諸国が黙っていないため、共存に必要な「適切に十分な」解を見つけ出すだろうとする。
 ヤンも二者に賛同する。三者ともに、不均衡な成長によって中国がパワーの再配分を欲しがるのだと認める。鍵となるのは、学者は、政策決定者と同じく、平和的な変化に対する効果的なメカニズムを学習できているかどうか、という疑問である。例えばホワイトは、ヴェトナム/フィリピンと中国間で紛争が米国の支援を導いて、大国間戦争に至るシナリオを描く。同盟の信頼性のために米国は戦争に巻き込まれるのである。


では、中国は、米国の覇権を狙っているのか?
ここも議論は分かれる。アジアのトップなのか、それとも世界大までその覇権を広げたいと考えているのか、人によって考え方はバラつく。
個人的には、中国側も決めあぐねているのでは、という気もしなくもない。

アジアにおける経済、政治、戦略的連関
 中国がアジア諸国にとっての重要な貿易パートナーになればなるほど、アジア諸国は戦略的連関も、米国から中国へと変えるようプレッシャーを覚えることになる。これはホワイトが提示した議論で有益なものである。
 ホワイトは国力は経済的なスケールを基礎的な源泉としており、中国の経済開放(貿易や経済援助)が政治的外交的影響を増加させ、アジア諸国は中国に敏感になったのだと主張する。
 これは標準的なIRの議論とは異なる。普通は経済的相互依存によって相互の政治的軋轢は抑えられるものである。そのためフリードバーグは、この状態を新しい状態だと描いている。ホワイトはこうした結論の出ない経済的議論に対して、よりローカルに観察する。すなわち、アジア諸国の人々は、中国の経済的な発展に憧れ、中国は戦略的にも上位へと相成ったのである。
 (この事実は、どうして米国がTPPに熱中するのか、の説明に有用である。この条約は、遅すぎ、また閉鎖的で、かつ米国産業の好むように構築されるようになり、進捗は遅くなっているが)
 ホワイトが、経済が政治を動かすのだと信じる一方で、フリードバーグはそうではないと信じている。


では、中国の経済的発展は国際政治にどう影響を与えているのか?
通常のIR理論では、経済的相互依存は、政治的な紛争を抑制する。しかしホワイトはこれに反し、中国の経済発展が中国のアジア諸国に対する政治的影響力の源泉となっていることを指摘する。
これは常識的に考えればそうだろう。政治的影響力は経済に依存している。では、この事実がIR的な経済的相互依存→戦争しづらい、という因果関係を否定しているか、というとそうでも無い。反論には弱いのでは?


民主主義と正統性
 フリードバーグにとっては、アイデンティティが大事だと考えられている。中国の非リベラルな独裁体制こそが、日本やオーストラリアと、中国とを決定的に分けており、米国にとって、排斥する理由に十分になるものだと主張する。
 ホワイトも民主主義による統治の価値を共有する。しかし、彼は分析的には、中国の政治体制は考慮に入れなくてもいいものと考える。経済改革が、何億もの人の命を救ったのだから、国民は政治的な正統性を認めているという事実の方が重要だからである。


非民主主義国家・中国の非正統性が米国による排斥の理由になるのか?
フリードバーグにとってはそれが最重要だが、ホワイトにとっては経済的な発展による国民の支持が大事であると主張している。
民主主義、好きだねー、としか。

アメリカの意見
 では、アメリカの意見は何か?
 ホワイトは、3つあると述べる。1.抵抗 2.アジア優位からの撤退 3.中国の役割を認めつつ、自身の役割も確保。
 フリードバーグも、中国への"覇権の割譲"を拒絶する。しかし、彼はパワーの共有も同じく反対する。なぜなら、米国が利益(同盟、市場、技術、リソース)を確保できるのは、卓越・優越だからである。フリードバーグは、地域覇権の維持を重視する。
 ホワイトの中心的メッセージは、優越が米国にとって賢い選択でなくなったということである。そして、アジアにおいて、「新しい足場」(パワーの共有)を維持することである。対してフリードバーグは、優越を維持することが、地域の平和と安定を確保するため、覇権の割譲はあり得ないものと主張する。
 しかしホワイトの「パワーの共有」は、些か説得力に欠ける。ウィーン体制のような制度論に立ち戻っているが、アジアの現状はその当時と同様ではない。既に米国による覇権が成立しているなかで、覇権の割譲は覇権戦争以外に道はない(ミアシャイマー)。また、米中日印の四か国協調を考えているが、それは中国にとっては、日印は米国サイドであり、脅威でしかない。パワーの共有は米中G2体制で上手くフィットするものだろう。
 ヤンは、G2でのパワーの共有を、協調よりも実用的と認めながら、ホワイトの議論も認めている。しかしパワーの共有は第一歩に過ぎず、フリードバーグの懸念よりも強く、全世界的な覇権を追求しているものと見ている。


アメリカはどうすべきなのか?
ホワイトは、「パワーの共有」、つまりちょっと中国に譲ってやろう、と言う。しかしフリードバーグは、これに真っ向から反対する。なぜなら、アメリカの利益はそのパワーの卓越性に根差しているから。パワーの共有は覇権国から譲渡できやしないだろう、と。
経済的に衰退し、絶対的な自信が無くなり始めると、もしかしたら、割譲している事実を許容できなくなり、排斥的になるかもしれない。いまは強者の余裕でそんなこと言ってられるけども。いまの日本を見てるとそんな感想が湧く。


ボトムライン
 軍事的には、中国は、米国優位を排除しようとしているし、経済的には、米国の役割を引き受けようとしている。そして地域覇権を目指している。これは三者が同意するところである。それでは、平和的移行の予測とは何か?
 フリードバーグは、5つの成功要素と2つの失敗要素を上げる。前者は、米中経済相互依存、中国の民主化、中国の国際制度への憎悪、共通の脅威の存在、そして核兵器の存在、である。後者は、国力のギャップの縮小と、イデオロギーや国内政治構造の深い差異の継続、である。特に、経済相互依存、核兵器、国際制度が協調に有用だと考えている。またホワイトは、ギャップの縮小を肝要と捉えている。
 これにより、「民主主義-正統性」および「経済的相互依存」が平和的移行に重要な変数であることが明らかになる。
 フリードバーグは、中国の政治的正統性につき問題にする。米国が中国の制度を受け入れられないとすれば、中国の覇権を許容できないとし、米国はアジアでの軍事的地位を維持すると結論づける。
 ホワイトの結論は別であり、中国もアジアも政治的正統性に疑問をつけず、米中は協働できるとする。米国は十分に大きく、賢いため、「パワーの共有」で中国の政治的影響を認め、その他アジアの国は中国の政治的影響に「適応」するだろう、と。
 冷戦との違いは、中国はその他アジア諸国と、イデオロギー的な違い(資本主義)がないことである。政治的な複雑性はあまり問題ではない。問題は、軍事的な心配、海上での紛争のみである(日本、ベトナム、フィリピン)。
 その他のアジア諸国は、中国に心配していない。「ヘッジ」をしている(米国とも中国とも上手くやる)。ホワイトは、米国が中国-アジア関係に入り込む余地は少なく、だからこそ、パワーの共有をしなければならないと考える。
 ホワイトにとって、平和的移行には「パワーの共有」がベストな賭けである。
 フリードバーグも、共有に反対しているわけではないが、中国がリベラルデモクラシーに移行した場合に実行するのが、より賢明だと考えている。そして、それまでは優越を維持することを支持している。ゆえに中国は、米国優越との共存か、対立かを選ばなくてはならない。
 ヤンは、両者に同意する。但しパワーの共有は踏み台であり、最終的には中国は覇権を目指す。中国の地域覇権は、政治的リーダーシップ、政策形成能力、道徳的な権威によって下支えされなければならない。それが非暴力的な覇権への道になる、と。


平和的に、二者の関係を移行させることはできるのか?
「民主主義」や「経済的相互依存」が大事だと、ホワイトは言う。分かるけど、お前ら、日米貿易摩擦忘れたんかと。あれを対中国にやったら、あんなもんじゃ収まらないだろう。
その他アジア諸国は、米中ともにうまくやるだろう、とホワイトは言うが、対立がもし始まったらそういう訳にはいかんだろう。
対して、フリードバーグは相変わらず、リベラルデモクラシーでないとダメよ、の一点張り。

 

結論
 フリードバーグとホワイトは、米国、中国双方にとって時間が尽きているという前提で描くが、著者(コーン)は、時間が双方に提供するものと主張する。中国は今は、米国に取って代われる状態にはない。ベストは、今後も6-8%の成長を続けることである。経済成長に焦点を当てることで、政治的な安定をもたらすのである。台湾問題というトラブルも、将来的に時間が(再統一という形で)解決するだろう。
 米国にとっても、時間が解決する問題と言える。つまり、アドバンテージは中国だけでなく、米国にも、富や民主主義、軍事同盟、ソフトパワーイノベーションの文化がそれだ。また国際制度も米国には有利に働いている。また、中国が変革するかどうかも、時間が教えてくれることだろう。そうして十数年という期間で考えれば、お互いの争いの切っ先も鈍ることだろう。米国の「アジアへのピボット」は、中国の「西へのピボット」(中央アジア等)を促し、東アジアの発展に全面的に依存することがなくなる。これらの地域への共通の利益を持つことで、「共進化」の余地が生まれる(キッシンジャー)。大事なのは、キッシンジャーが強調する、「内的な危急」である。中国にとって、最も大事なのは経済成長である。今後、米中のどちらが覇権を勝ち取るのか、それは、どちらが上手く政治や経済をコントロールできるか、に掛かっている。

 これを受けてのコーンさんの結論は、時が問題を解決するよ、と。中国の経済発展が継続すれば、そのうち穏やかになるんでは、と。
 何故なら米国は強く、そう簡単にはパワーの卓越を譲らないから。だから、「内的な危急」だけは気を付けて、ながーいお付き合いをしていきましょう、と。

 いいね、この強気。それまでの議論との繋がりを感じないが。
 まあ、米国が有利なのは分かる。経済情勢を見ても、まだまだ米国企業は強い。テクノヘゲモニー薬師寺泰三)はある程度は維持しそうだ。軍事同盟も、制度的な粘着性があり変えづらい。
 但し、もし米国が追いつかれて、失業が増えた場合に同じことを言ってられるのか、また、政治的に中国は国際制度をどんどん形成しており、米国を排斥した形もいくらか存在しつつある。AIIBなんかがそれだろう。政治的に、経済的に対立する図式は十分に想像可能だ。それが気になる。



次回は何やろうかな。検討中。