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半可思惟 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2008-07-06-Sun

ニコニ・コモンズクリエイティブコモンズライセンスの誤解について瑣末な点ながら指摘する

id:akasataさんが「ニコニコ大会議で発表されたニコニ・コモンズを考えてみる」というエントリにてニコニ・コモンズCCライセンスについて比較検討している。しかし、私から見ると少し誤解を含んでいるように思える。当該エントリの主旨とはあまり関係がないのかもしれないが、一応指摘しておきたい。以下、引用部分は上記エントリからである。


CCライセンスでも公序良俗に反する利用は一部対応可能

クリエイティブ・コモンズで対応しにくい事例として最初に提示されていたのが公序良俗に反する利用への対応であった。氏の記事によると、ニコニ・コモンズにおいては

- この素材はニコニコ動画以外でも使って構いませんが、公序良俗に反するコンテンツで利用するのはやめて下さい(ニコニ・コモンズもニコニコ動画も公序良俗の規定がありますが。)

という対応をとるようである。

では、CCライセンスは公序良俗に反するような利用を禁止できないのだろうか。

あまり知られていないのかもしれないが、日本版のCCライセンスでは、ver.2から著作者人格権について名誉声望を害するような改変の場合には同一性保持権(著20条1項)が行使できることになっている。なお、CC全体ではv3.0によって著作者人格権との整合性が図られた*1

したがって公序良俗違反を全てカバーできるというわけではないだろうが、著作者の名誉声望を害するような改変の場合であれば、CCライセンスでも対応可能である*2


期限付ライセンスの技術的困難さと、期限付利用を認めることで失われること

クリエイティブ・コモンズで対応しにくい事例の2つめとして挙げられているのが、期間限定で利用可能性であった。

埋め込み型の期限付きライセンスCCライセンス策定時にレッシグも悩んだ問題である。結局CCライセンスは期限付きライセンスというものを持たなかった。実装されなかったのは、技術的ハードルが高かったからだと風の噂で聞いたことがあるが、現在検討されているかはわからない。

pdl2hさんによると、期限付きライセンスの難しさは、あるデータがライセンス変更前のものか後のものか判別しにくいことにあるという。それ以外にもライセンス不特定多数に対する契約として考えた場合に、ライセンシーとの間でライセンス変更の合意が得にくいという問題もあるという指摘もされている。

後でも述べるが、ニコニ・コモンズライセンスではなく利用ルールないしガイドラインである。ガイドラインであり、そしてサービスの枠組みの中で利用者が管理され追跡可能であるような設計をしているからこそ、上記問題点をクリアできるのだろう。逆に言えば、そこがニコニ・コモンズの限界を画することになる。


CCライセンス付きコンテンツはGoogleやYahoo!、flickrでも検索できる

良いコンテンツは既にネット上にある、ただそれを見つける方法がわからないだけでも書いたのですが、ネット上には億単位でライセンスフリーな素材が存在していると言われています。ただ、それを効率よく見つける方法は今のところなく、「再利用されることを前提にした素材の集積」はそれだけで価値があります。

これは結構ありがたいと思います。

主張の部分はまったくもってその通りなのだが、再利用されることを前提にした作品を「効率よく見つける方法」については、既にいろいろなアプローチが存在している。

検索大手では、最初に米Yahoo!が、次いでGoogleCCライセンスを採用しているコンテンツのみを検索できるインターフェイスを整えた。私の場合は、Firefoxの検索バー内にCCタブがあるので、それをときどき利用している。もっと頻繁に利用しているのは、flickrCCである。大変上質な写真を素材としても入手できて便利である*3


以上はとても瑣末な指摘であり、おそらくはCCの広報不足が主たる原因なのではないかと思う。しかし、以下については全体の主旨に関わる問題であると考える。


ニコニ・コモンズライセンスではなくガイドラインである

ニコニ・コモンズライセンスではなく利用ルールないしガイドラインであると述べた。この点については、サブマリン特許のような弊害を生むのではないかとの懸念が既に表明されている。

サブマリン特許の弊害とは、かつての米国などでは特許出願段階では非公開だったため、補正等の手続きを繰り返して成立が遅くなった(時としてあえて遅らせた)場合、当該発明が一般に広く普及してから突如として特許発明であることが明らかになるところが、あたかも潜水艦が浮上するようであったこと(そして多くの場合、多額の使用料を請求したこと)から名付けられた*4

このように広く普及した技術的思想や作品(素材)を「人気が出てきた時点で有料化するといったこと」は法的安定性を害するので、本来好ましくないように思われる。CCライセンスのようなライセンス契約形態下では、当事者双方の合意がなければ基本的に利用許諾条件を変更することはできないから、法的安定性には優れている。見方によっては「柔軟」でないということになるだろう。ここは二律背反的である。

しかし、ニコニ・コモンズではこれが可能であると言う。おそらくこれは、ニコニ・コモンズライセンス契約ではなくガイドラインであり、著作者の一方的な宣言によって事後的に変更することが許されているからであろう。それは「柔軟」かもしれないが、利用者にとってみれば当初の利用条件が変更されるというリスクが大きく、法的安定性に欠く。


ライセンスガイドラインは一概に比較できない

CC著作権を管理する団体ではない。CCライセンスも DRD(デジタル・ライツ・ディスクリプション:digital rights description:デジタル著作権解説)に過ぎない*5。一方、ニコニ・コモンズは特定枠組みの中で著作物の利用を管理でき、追跡を実現するサービスである。

CCライセンス設計思想は「コンテンツの自由な流通」であると思う。だから利用許諾を期限付きにすることは難しいし、ライセンス契約であるため、後から許諾条件を変更することは難しい。そしてCC自体は管理には関わらない。

ニコニ・コモンズは「コンテンツ流通の可視化とコントロール」に主眼があると思われる*6。だから期限付きの利用や事後的な条件変更を許容する設計になっているし、管理にも携わる。

私が懸念するのは、ライセンスガイドラインの差を認識した上での議論があまり行われていないのではないかということである。同じ「コモンズ」を冠し、コンテンツ流通を促進しあるいは規律するものであるとは言え、両者の性質は異なるため、カバーできる範囲も自ずと違ってくる。その点を考慮した上で、ニコニ・コモンズCCライセンスについて語るべきだと思う。

*1:ただし注意が必要なのは日本における著作者人格権は、著作者の意に反する改変一切が保護範囲としているが、世界的には、著作者の名誉声望を害する態様での改変に限って、同一性保持権の行使を認めているケースが多いという点である。詳細は【CCPLv3.0】著作者人格権(同一性保持権)に関する議論を参照のこと

*2:念のため述べておくと、職務上作成する著作物であれば法人であっても著作者となり、同一性保持権の主張が可能である

*3:「再利用されることを前提にした素材の集積」という意味では、CCライセンスからは離れるがmorgueFileなどが大手だろうか

*4:米国も法改正により新たなサブマリン特許は発生しなくなったものの、1995年以前に米国に出願された発明が「潜水」している可能性もある

*5:それでも既存のサービスと組み合わせることで、ある程度の利用をコントロールしたりクリエイタに還元することは可能ではある

*6:余談だが、ニコニコニュースなどによれば、作品ごとに割り振られた管理番号「コモンズID」を利用者が派生作品をアップロードする際に自己申告させる形で管理する仕組みのようだ。ISRCコードなどと比べると情報管理自体は徹底していないと言える。仮にコモンズIDが権利管理情報(著2条1項21号)に該当するとしたら、虚偽の情報を付加したり情報削除・変更をすると3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金または併科となりうる。この点について申告者は留意すべきだろう

wanda002wanda002 2008/07/07 21:37 初めまして。いつもブログ記事を見て勉強させていただいております。

ブログ記事での「ライセンス契約」と「ガイドライン」の違いが気になったので質問します。
恥ずかしながら、私は「ライセンス契約(契約)」と「ガイドライン」を同じようなものとして認識していました。それを今回の記事で、どうやら違うものであると分かりました。

それで質問なのですが、「ライセンス契約(契約)」と「ガイドライン」は記事で上げたもの以外にどのような部分が違うのでしょうか。

自分で考えたこととしては、「ライセンス契約」の場合は双方(提供者・利用者)が債権者・債務者としての権利・義務を持つ一方で、「ガイドライン」の場合はそのような権利・義務を双方が持たないということなんですが、これは合っていますでしょうか。

お返事いただければ、幸いです。

inflorescenciainflorescencia 2008/07/08 00:41 wanda002さん、はじめまして。コメントありがとうございます。
ご質問の「ライセンス契約」と「ガイドライン」の違いについては、りんごとみかんの違いを説明するのと同じように、列挙しようとしてもきりがないので概括的な説明をさせて頂きたいと思います。
そもそも「ライセンス契約」が法的にいかなる位置付けがされているのかというと、基本的には以下のような説明の仕方をしている場合が多いです。すなわち、権利を専有している者(著作権者/ライセンサー)が、契約相手(ライセンシー)に対して差止請求権や不当利得返還請求権を行使しない、あるいは刑事告訴しないことを約束することである(中山信弘『著作権法』有斐閣(2007)P329)と。もっと丸めた言い方をすると、ライセンサーはお金をもらう代わりに「侵害(=利用)」に対して目をつぶることを事前に約束するわけです。
契約である以上、双方当事者が同意した内容に反する行為をした場合は、民法上の責任を問われます。例えば、あるアニメをDVD化と販売を独占的に許諾するという契約を結んだのにもかかわらず、ライセンサーが他社とも同様の契約を締結すると、債務不履行に該当してライセンシーはライセンサーに対し損害賠償の請求(民法415条)、契約の解除権の行使(民法543条)ができます。また、エントリ本文にも書きましたが、契約内容を一方的に変更することは許されません。
それに対して、ガイドラインは指針や規範に近いものと一般的に考えられています(もちろん、法律効果が発生するとの解釈もありえますが、以下、ガイドラインは法律効果を生じないものとして論じます)。権利者の(効果意思以外の)判断や認識が示されているので判断基準にはなりますが、法的拘束力は基本的にありません。つまり著作権者は、特定の行為について差止請求権や不当利得返還請求権を行使しない、あるいは刑事告訴しないことを約束しているわけではありません。したがって、一見ガイドラインに反しない利用のように思えても、著作権者は当該利用を侵害として訴えることが可能です。また、エントリ本文にも書きましたが、契約内容を権利者が一方的事後的に変更することもできます。
wanda002さんが仰るように、ライセンス契約の場合は著作権法の権利を契約で上書きする形で「双方(提供者・利用者)が債権者・債務者としての権利・義務を持」ちます。一方、ガイドラインは著作権法の権利と侵害がほぼそのままの形で認められ、契約における「権利・義務を双方が持たない」ということが出来るでしょう。
なお、実務上は「企業間でライセンス契約が締結される場合、ライセンシーはライセンサーに対し、当該キャラクターの利用が第三者の著作権を侵害するものではないことの保証を求めるとともに、第三者からクレームを受けた場合にはライセンサーが紛争の解決に中心的に努めるとともに、その解決に要した費用はライセンサーもちとする旨の条項を契約書に入れていることが多い」らしいです(http://benli.cocolog-nifty.com/benli/2005/10/post_12d2.html)。契約条項に盛り込むことでライセンシーの負担を軽減することができます。
また、著作権から少し離れて、同じ知的財産である特許の場合をみますと、特許法においては、専用実施権(ライセンス契約の一種)が認められていて、当事者間の契約と登記を行ことによって、専用実施権者(ライセンシー)が、自分で差止請求や損害賠償を行うことができたりします。
また、著作権分科会法制問題小委員会では、ライセンシーの保護強化について検討しています(http://211.120.54.153/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/013/07100407/002.htm)。その過程で、平成14年の資料になってしまいますが、著作物利用のライセンス契約についてパターン分けして図示した資料がありますので、参考にしてみてはいかがでしょうか(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/014/021202e.htm)。

wanda002wanda002 2008/07/08 01:54 丁寧な説明、ありがとうございます。

ガイドラインの場合は、基本的に法的拘束力がないと分かって驚きです。

例えば、今まではこのボーカロイドの2次創作のガイドラインを見て、自分はボーカロイドの2次創作を作ることができる債権を持っているという風に考えていたのですが、間違いだったのですね。
http://piapro.jp/contents_guideline/

ここで質問しなかったならば、一生勘違いしていたかもしれません。
本当にありがとうございます。

inflorescenciainflorescencia 2008/07/08 03:45 wanda002さん、コメントありがとうございます。
ピアプロではキャラクター・ボーカル・シリーズ製品の使用許諾契約とは別途(あるいは上位?)にガイドラインを置いているようですね。
「ソフトウェア使用許諾契約書」があるので、VOCALOID ソフトウェアを利用した楽曲の創作には当該ライセンス契約の法的効果が及ぶでしょう。そしてVOCALOID ソフトウェアを利用しない二次創作(例えば「原素材」たる初音ミクの絵やそれに基づく漫画など)は、ガイドラインがカバーするという構成をとっているように私には読めます。ですから、wanda002さんがどんな二次創作を行っているかによって結論は違ってくると思いますよ。不安であれば、ピアプロに質問してみるのが確実だと思います。
確認として申し上げますが、ガイドラインと一口に言ってもさまざまな様態があり、場合によっては権利放棄や許諾を与えるものについて「ガイドライン」という名称を付けている場合もあるでしょうから、識別は相対的です(個別具体的案件については弁護士などに相談すると良いでしょう)。また「ガイドラインの場合は、基本的に法的拘束力がない」というのはガイドラインが契約ではないという意味であって、著作権法や民法不法行為法などの規律に服するということです。お間違えなきように。

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