ゴーン事件は「日本の緩い企業文化」が生み出した弊害だ これでは「やりたい放題」は当たり前

現代ビジネスに11月22日にアップされた原稿です。オリジナルページ→https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58588

お手盛りのあらまし
日産自動車カルロス・ゴーン代表取締役会長が、有価証券報告書に報酬を50億円近く過少に記載していたなどとして、金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の疑いで逮捕された事件で、ゴーン会長が、側近のグレゴリー・ケリー代表取締役とともに、役員報酬を半ば「お手盛り」で決めていた実態が徐々に明らかになってきた。

役員報酬の総額は株主総会での承認が必要なものの、その分配については取締役会に一任されている。もっとも総額1億円以上の報酬を得た取締役については個別の金額を開示することになっているほか、取締役の報酬をどうやって決めているかについても、考え方を記載することなどが証券取引所ガイドラインで求められている。

日産自動車有価証券報告書役員報酬の決定方式について、以下のように説明されている。

「確定額金銭報酬は、平成20年6月25日開催の第109回定時株主総会の決議により年額29億9000万円以内とされており、その範囲内で、企業報酬のコンサルタントによる大手の多国籍企業役員報酬ベンチマーク結果を参考に、個々の役員の会社業績に対する貢献により、それぞれの役員報酬が決定される」

また、役員報酬の決定方法として次のようにも記載されている。

「取締役の報酬については、取締役会議長が、各取締役の報酬について定めた契約、業績、第三者による役員に関する報酬のベンチマーク結果を参考に、代表取締役と協議の上、決定する」

ここでポイントになるのが、「第三者によるベンチマーク」である。総会で決議した総額以内で取締役会議長が代表取締役と協議して決めるとしているが、日産自動車代表取締役は3人。ゴーン氏とケリー氏、そして社長の西川廣人氏である。

今回、逮捕された2人が事実上の決定権を握っていたことがわかるが、ここで強調されているのは、あくまで第三者である企業報酬コンサルタントの意見を聞いて個別の金額を決定していると強調しているのだ。

ところが関係者によると、ゴーン氏らは当初依頼した報酬コンサルティング会社の査定額が不満だとしてこれを排除し、より高額の報酬を示したコンサルティング会社に試算を依頼していたという。

いわばゴーン氏らが自らの報酬を半ば「お手盛り」で決めていた疑惑が浮かび上がってきたのだ。

高額の報酬額を査定したコンサルティング会社は、日産自動車の他の事業のコンサルティングも受託していたとみられており、報酬コンサルとして独立性が保たれているのか疑問だと、この関係者は指摘する。つまり報酬決定に際して意見を聞いているというコンサルの第三者性にも疑義が生じているのだ。

日本の株主ガバナンスの甘さが
有価証券報告書に記載されたカルロス・ゴーン会長の報酬は、2015年3月期に初めて10億円を突破、3年にわたって10億円超の報酬を得ていた。いずれも全額金銭報酬だった。2018年3月期は兼務していた社長を西川氏に譲ったこともあり、7億3500万円に報酬を引き下げている。

一方で、312万株に及ぶ日産自動車株も所有しており、その配当だけでも1億円を超える。さらに、ルノーや子会社の三菱自動車からも報酬を得ていた。

ゴーン氏の巨額報酬への批判はルノー本社があるフランスでも噴出していた。

2016年4月にルノーが開いた株主総会で、2015年のゴーン氏の報酬725万ユーロ(約8億8000万円)について賛否が問われ、54%の株主が「高過ぎる」としてNOを突きつけた。議決には拘束力がないが、これを受けて翌年には報酬が700万ユーロに減額された。

翌年の株主総会では、賛成票が53%とギリギリだった。ルノーの大株主であるフランス政府も反対票を投じていたとされる。フランス政府は企業経営者の高額報酬に批判的だ。

日本には経営者の個別報酬について株主に意見を聞く制度がないため、ゴーン氏の高額報酬は毎回すんなりと決まっていた。そんな日本の制度の緩さが、ゴーン氏らに甘く見られていたのだろうか。

今回の逮捕容疑の全容は明らかになっていないが、有価証券報告書に記載されていない株価連動型インセンティブ受領権を、実際には受け取っていたという報道もある。

また、投資を目的に設立された日産自動車の子会社に、ゴーン氏のための海外での住宅を購入させていたほか、私的な旅行の費用も負担させていたことが指摘されている。こうした「現物供与」も実質的な報酬に当たるというのが東京地検特捜部の見立てのようだ。

取締役で高額の報酬を受け取る人は年々増加傾向にあるが、まだまだ外国人が多い。国際相場並みの報酬を払わなければ優秀な人材を確保できないという事情もある。

だが一方で、高額の報酬を得ている欧米の取締役に対する監視の目は厳しく、成果が上がらなければすぐにクビになるのも珍しくない。

一方で、日本の取締役は実績を厳しく問われてクビになることも少ない。従来の終身雇用、年功序列を前提にした制度がまだまだ色濃く残っているわけだ。そうした緩い制度の中に、欧米の経営者が入ってくると、まさにやりたい放題の状態になりかねない。そんな危うさを今回のゴーン事件は示している。

報酬決定のプロセスの透明化や情報公開のあり方など、これを機に国際並みのルールに揃えていくことが不可欠になる。