飯舘村は負けない

 

飯舘村は負けない――土と人の未来のために (岩波新書)

飯舘村は負けない――土と人の未来のために (岩波新書)

震災前から「中山間地域の未来を引っ張るモデル農村」として飯舘村を研究してきた福島大学の2人の研究者が、発災直後から全村避難、そして除染作業をめぐる対立が続く現在にいたるまでを豊富な聞き取り調査をもとにまとめたルポ。
 1956年、飯曽村と大舘村が合併してできた飯舘村。広大な村域でよく言えば集落の独立性、悪く言えば旧村対立が続いていた村をまとめるために取られてきた試みがようやく実を結ぼうとしていた矢先の放射能汚染。第3章の「村づくりのこれまで」に見る飯舘村の履歴書は一読の価値がある。役場の職員時代から旗振りをしてきた現村長は、計画的避難地域指定後も村内の事業所を存続させ(従業員は村外から車で通勤)除染を国の事業として行わせるために東奔西走するが、その政策が100%村民から支持されているわけではなく、特に若い世代からの反発が強い。
 「がんばろう!」「負けない!」「被災地」というレッテルを貼ることで、思考停止してしまいがちなジャーナリズムに対して「物言う少数派」の主張と行動を汲み取って問題提起する姿勢は高く評価できる。ただ、「中立」に徹するあまり、著者の考え方が今ひとつ見えない。調査者としての姿勢かもしれないが、もう少し社会科学の研究者としての肉声が欲しかった。