Alternative Issue

個人的な思考実験の、更に下書き的な場所です。 自分自身で消化し切れていないことも書いています。 組織や職業上の立場を反映したものでは一切ありません。

王桜を守れ

 韓国の主張暦は多くの人が知り始めている。3月から4月は桜の起源主張の季節である。もう一つの大きなイベントはノーベル症の10月であるが、それ以外にも毎年同じパターンでの主張が繰り返されるものは多い。正直言って根拠ある主張であれば検討の余地があると思うのだが、全く根拠を示さない主張をよくこれだけ続けられるものだと感心しさえする。
 一部のウォッチャーがにやにやしながら聞いていられる段階ならまだしも、さすがに韓国の最近の捏造は目に余るようになってきた。桜に関して言えば、韓国済州島の王桜がソメイヨシノの起源だとする主張である。実際、写真で見る限り王桜とソメイヨシノは色も形もよく似ているが、王桜の方が葉も花などが大きいと言われているようだ(http://www7b.biglobe.ne.jp/~cerasus/korea%20cherry%20report/korea%20cherry%20report-3.html)。

1912年に東京市がワシントンに贈った桜は韓国産・・韓国ネットは「名前を韓国桜に変えろ」「奪われた桜が日本の象徴に…」(http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150406-00000021-xinhua-cn

 ポトマック川の桜は、1912年に尾崎行雄東京市長から日米友好の象徴として贈られた桜が植えられたものだが、済州島出身のムン氏は「日本は1910年に米国に2000株の桜の苗木を贈ったが、病虫害感染が確認され、焼却された」と指摘する。尾崎市長はその後、1912年にワシントンに3020株、ニューヨークに3000株を贈ったが、ムン氏は「短期間に6000本を超える桜を集め、米国に贈れるのか、納得がいかない」として、日本が済州島の桜を採取して贈ったものだと主張。同時に「今からでも、済州で1911年ごろにソメイヨシノが採取された記録があるかもしれない。政府レベルで隠された歴史の発掘に乗り出すべきだ」と訴えている。

 どこから突っ込めば良いのか皆目わからない無茶苦茶な主張ではあるが、ワシントンにある桜は韓国の済州島にある王桜である『かもしれない』から、「日本桜」と言う名称を「韓国桜」に変えるように運動しているという。
 こうした活動に対して、おそらく面倒くさいと考えた担当者は「東洋桜」に変えようかと提案している(あるいは妥協案として認めさせるために活動している側が嘘のリークをしている)という内容ではないかと推測される。正直この運動がどれだけの広がりと強度を持っているのかはわからないが、実のところこの案件の裏側には重要な問題が隠されている。

 問題に触れる前に、まず最初に書いておかなければならないことは、学術的には桜の原産地はヒマラヤ付近と考えられていることであろう。桜の原産地論争をすること自体がまず不毛であることに触れておきたい。その上で韓国と言うか朝鮮半島には「桜」を愛でる文化は存在していなかったことも同時に押さえておこうと思う。
韓国には「口だし」の余地なし!? サクラの起源の「科学的紹介」に、中国ネット民が反応=中国版ツイッターhttp://news.biglobe.ne.jp/international/0402/scn_150402_5800667712.html

 日本では平安時代ごろに「花見」の主体が中国由来の「梅」から「桜」に変わったとされているが(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8A%B1%E8%A6%8B)、明確にいつ頃変わったかはわからない。それでも、少なくとも812年ごろに嵯峨天皇が桜を見る宴を開催した記録が残っている(『日本後紀弘仁3年2月条)。
 ちなみに、平安時代の桜は現在のソメイヨシノではなくヤマザクラなどが主体である。ただし、日本には数百万年以上前から桜が自生してきたのは、鮮新世の地層とされる三朝層群からムカシヤマザクラの葉の化石が見つかっている(http://www.torikyo.ed.jp/tottorisizenn/K011.htm)ことより明らかである。また、桜は交配が容易なことから1000年以上前より園芸種として人工的に生み出してきた歴史も有している。現在日本には600種を超える園芸種があるとされる。
 最も有名でかつ、韓国が論争をかけているソメイヨシノ(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BD%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%83%A8%E3%82%B7%E3%83%8E)もこうした園芸品種の一つであって、オオシマザクラエドヒガン+ヤマザクラのかけ合わせにより生み出されたことが、DNA解析により判明している(http://www.nacos.com/jsb/02/02PDF/111_kishareku.pdfhttp://tvmatome.net/archives/1818)。ただし、完全な人工交配ではないという意見が強く、自然交配と人工交配が混交しているのではないかと考えられている。
 ちなみに、ソメイヨシノは交配の難しい種であり自生はできないこともわかっている(接ぎ木等により増やしている)。そのためソメイヨシノはクローンにより広がっており、日本国中のソメイヨシノは別の交配をしていない限り同一遺伝子である。

 さて、一方で韓国が過去において愛でてきたのは中国の影響を受け「梅」であった。そのため、これまで「桜」が歴史文献上に登場してきた記録は存在しない。日本がソメイヨシノなどを大規模に植えた状況がそのまま残っている都市(昌原市鎮海区:http://www7b.biglobe.ne.jp/~cerasus/korea%20cherry%20report/korea%20cherry%20report-1.html)も存在するが、韓国において桜を大切にして保護・繁殖する活動はたかだか100年もないものである(しかも一部においてのみ)。戦後、日本の占領を想起させるとして桜を伐採した実績もある(『ある日韓歴史の旅―鎮海の桜』(朝日選書):http://hana.wwonekorea.com/history/hist/15th99/es-tomTakekuni.html)

 ちなみに言えば、禿山が多くあった韓国(http://www.yonhapnews.co.kr/culture/2009/09/08/0906000000AKR20090908123300063.HTML)に数多くの植林がなされたが、その中に日本の桜が含まれていたと日本は主張している。桜がどの程度植えられたかはわからないが、日本が多くの植林を行ってきた記録は間違いなく残っている(http://www.lib.kobe-u.ac.jp/das/jsp/ja/ContentViewM.jsp?METAID=00473938&TYPE=IMAGE_FILE&POS=1)。
 また、日本海軍は鎮海軍港の建設当初2万本の桜を植樹したという記録はある。最終的に10万本を植えたという話も出ている。

『ある日韓歴史の旅―鎮海の桜』(朝日選書)229ページ《海軍次官にあてた、宮岡・鎮海湾防備隊司令官の文書(1910年3月31日付け)につぎのように記されている。 植樹の件 <中略> 杉5万本、赤黒松5万本を筆頭に、アカシア2万本、ポプラ2万本のほか、梅1万本、桃1万本、そして桜2万本など、合計23万3千本が植樹されたと報告されている。》とされている(ただし私は書籍未確認)

『ある日韓歴史の旅―鎮海の桜』(朝日選書)230ページ《韓国山林庁林業研究院の資料(鎮海試験林」、1990年)では、1910年に2万本、1913年に5万本、1916年に3万本、合計10万本の桜の苗木が植樹されたことが記録されている。》(こちらも私は書籍未確認)

 ちなみに、1974年には朴正熙大統領命令によって桜の大植樹運動が行われており、この時日本から大量に桜が輸入されて植樹した。1966〜81年に、多くの在日韓国人や日本人の寄付で、59,300本もの桜の苗木が植樹されているとされている。
 これ自体を文化侵略として韓国メディアはかつて問題視していた(http://www.segye.com/content/html/2006/04/03/20060403000571.html)。
 
 さて、それではソメイヨシノはいつごろ生れたのかであるが、江戸時代に作られたとされるが正確にはわからない。ただ、記録としては1900年に「日本園芸雑誌」において命名がなされたとされる(「新日本の桜」p 122:未確認)。ちなみに言えば歴史的事実としての日韓併合は1910年の8月29日からであるため、ソメイヨシノ命名はそれよりも10年早い。
 ちなみに、2011年に米農水省で出た『ソメイヨシノ済州島の韓国固有種(本来の王桜)は別物』という『DNA鑑定結果』Characterization of wild Prunus yedoensis analyzed by inter-simple sequence repeat and chloroplast DNA(http://www2.odn.ne.jp/had26900/topics_&_items2/Scientia_Horticulturae.htm)が存在する。
 日本の遺伝子分析データと合わせても、王桜がソメイヨシノとは似ているが別の種類であることは、かなり確度が高いと感じる。

 むしろ考えなければならない最大の問題は、一部の韓国人が主張する王桜=ソメイヨシノ説を補強するために、本来の王桜が抹殺されてソメイヨシノにより韓国の桜が覆い尽くされてしまうことにあるのではないだろうか。
 王桜とソメイヨシノが同じものではないという事実が受け入れられれば、王桜の保護を行うという行為は容易に成し遂げられると思う。しかし、王桜とソメイヨシノが同じである(ソメイヨシノの起源が王桜にある)という理屈に固執すれば、そこに待ち構えているのはソメイヨシノを王桜だと言い張ることで、本当の王桜が抹殺されてしまうのではないかと言う問題が生じてしまう。
 韓国固有の桜が、実は消えてしまうかもしれないと考えるのであれば、これこそが大問題ではないだろうか。

 韓国で桜を保護し始めた理由が、日程残滓として桜を伐採していたものを押しとめるために(と推測しているが)ソメイヨシノ済州島の王桜を起源としている(すなわち韓国の桜が広がった)という幻想によるものであった。起源を何より求める韓国としては、桜を残す名目がなければならなかったわけである。
 しかし、今その時たてた題目に振り回されてしまい「王桜=ソメイヨシノ」でなければならなくなってしまった。これはどう考えても不幸なことではないか。そもそも桜の起源を追い求めることには全く意味がないことは先に触れた。

 日本には桜を愛でる文化があり、数多くの園芸品種を生み出してきた実績がある。確かに、韓国自生の王桜と言う素晴らしい桜があるのだとすれば、まずはそれを韓国中に広める運動から始めるのが何よりも重要ではないか。文化を造ってこそ、それを世界に広めることに意味がついてくる。
 日本から出た桜が世界に広がったのは、単純にその花が美しいと言うだけではなく、様々な品種改良により防虫性などの品質向上があったことも大きな要因である。そうしたことを無視した議論はそろそろ打ち止めにしてもらいたい。
 ソメイヨシノ起源については、他の歴史論争よりもずっと明確に結果を出せる筈である。それを行うことが、実のところ韓国の固有種である王桜を守ることに繋がるのであれば、論争を終わらせるために努力する価値はあると思うのだがどうだろう。

その他:参考意見リンク
そろそろ桜の季節なので、ソメイヨシノ韓国起源説について書いてみる(http://ch.nicovideo.jp/ooguchib/blomaga/ar483216