ブダペスト(シゴ・ブアルキ)★★★★★

ブダペスト

ブダペスト

この著者は、音楽家、詩人、劇作家、俳優でもあり20世紀後半のブラジル文化を語るのに欠かせない人らしいです。ブラジルの小説って、もしかして読むの初めてかなぁ。

主人公のコスタは、リオとブダペストで二重生活を送るゴーストライター。手がけた他人の自伝がベストセラーになり、混乱がますます加速する…。僕はいったい誰なのか…。軽快なリズムで時空間を彷徨い、夢と現を行き交う…。やがて漂着する驚愕のラストとは? ブラジル音楽の巨匠が奏でる言葉の魔術。ブラジル文壇の権威ある“ジャブチ文学賞”“パッソ・フンド文学賞”ダブル受賞。

ゴーストライターって、やっぱその本が評価されればされるほど、悔しい思いをするんだろうね。賞賛を求める欲望、それはこのコスタの中にも当然ある。だけど彼はリオを離れブタペストでもまた、ゴーストライターとなってしまう。単に生活のためだけじゃなくて、言葉の持つ魔力に取り憑かれたかのように。そして自分の生み出した作品をあっさりと手放すのに、それが他人の名で出版されもてはやされると、強烈なまでの嫉妬にかられるのだ。作品を渡す自己満足と、賞賛を求める虚栄心。彼の心は揺れ続け、ゆがみはじめる。
この小説の凄いところは、主人公の心の揺れを、さまざまなエピソードで象徴しているところではないかしら。リオとブタペスト、ゴーストライターと<著者>、ヴァンダ(コスタの妻)とクリスカ(ブタペストの恋人)、ポルトガル語ハンガリー語。そのどちらかを行ったり来たりする彼は、自分自身を見失っていくのだ。
文体までも、その混沌とした世界を表現している。カギカッコは一切なし。すべて同列で書かれたこの物語は、どこが現実かどこが妄想なのか、知る手がかりもない。どこをとっても、緻密に計算された作品だと思う。
そしてそんな著者の計算通りにすっかり酔わされてたら、驚愕のラストが待ってます。パタパタとひっくり返されて、また酔いが回る…。

もう一度読みたい作品です。