三四郎はそれから門を出た(三浦しをん)★★★★☆

三四郎はそれから門を出た

三四郎はそれから門を出た

三浦しをん初のブックガイド&カルチャーエッセイ集。直木賞受賞が発表された日に書店に並べられたこのエッセイ、売れそうですね。
これまでもWEBに掲載されている「しをんのしおり」をまとめたエッセイを何冊も読んでいるが、本作はちょっと色合いが違う。エッセイ集というよりコラム集といったかんじ。朝日新聞に連載していたブックガイドや『an・an』に連載したカルチャー系コラムなど、いつもの日常系爆笑エッセイとは異なるが、三浦しをんの様々な一面が伺えるエッセイだ。
しかしこの人は相当の活字中毒ですね。読むジャンルも幅広いから、ブックガイドはとても興味深かった。読みたい本リストに加えたい作品が増えた。
そして紀伊国屋書店のPR誌に掲載した、本に関するエッセイは、読書好きな人ならものすごく共感出来ると思う。電車の中で隣の人が読んでる作品が何なのか異常に気になるとか、小説に登場するおいしそうな食べ物を実際に作ってみるとか(わたしは子供の頃マヨネーズを作ってしまったことがあるが、キューピーに完敗)、本の収納に頭を悩ませたり、しかし外で歩きながらも読むっていうのは相当だな(笑)。わたしが一番共感してしまったのは……

外出中に疲れたので喫茶店に入ろうと思い立つ。ところが手持ちの本がない。私はもちろん、まずは本屋に行って、喫茶店で読むための本を確保せずにはいられないのだ。

これはわかる。むしろ本を持ってないのに一人で喫茶店になんか入らない。本を読まずにただぼんやり珈琲を飲むことも結果的にはあるのだけど、でも持ってないと落ち着かない。電車もそうだ。うっかり忘れたときなんて毎日乗ってるはずの乗車時間がどんだけ長く感じることか(実乗車時間10分ほどだが…)。手元に未読本がないと落ち着かないというのは、読書好きならみんなそうだろうけど。

生活のすべてを本に支配され、振り回されているような気がしてならないが、それで特に不満もない。本を読むことがすなわち、私の幸福であるからだ。

ですね。



そのほか、家族ネタあり(やっぱ弟クンが面白い)、体験ネタあり、様々なタイプのエッセイてんこもりで、バイキングビュッフェのように楽しめるエッセイでした。オススメです。

黒いカクテル (創元推理文庫)(ジョナサン・キャロル)★★★★

オンライン書店ビーケーワン:黒いカクテル
えぇ、またジョナサン・キャロルですよ。短編集としては『パニックの手』に続いて二作目。というか、キャロルの短編集はこの二冊しか出てないようなんですが。もう行きつけの本屋も準・行きつけの本屋にもわたしの未読の長編がないので、今月再販になったこの短編集を読むことに。解説は桜庭一樹
ジョナサン・キャロルはもうハズレはないと確信してるので安心して読めるのだが……。一番はじめにもうひとつの短編集『パニックの手』を読んで惚れ込み、それから『月の骨』『蜂の巣にキス』『死者の書』『沈黙のあと』という長編を読んだ。そして今日、この『黒いカクテル』を読むと、やはり長編の完成度の高さに較べるとやや短編はその出来にばらつきが感じられる……というのが正直な感想だ。どれも間違いなくその発想は素晴らしいのだけど、それが枚数に収まってない気がするのだ。『パニックの手』でもそういう作品はあったものの、一方で鮮やかなショートショートがあったりして、この著者への興味を喚起させるラインナップであったように思う。
じゃぁ本書が面白くないかといえばそんなことはない。面白いですよ。一番好きなのは最初に収められている「熊の口」。これは金持ちに憧れる男が大金を手にしてしまい、違う意味でマネーの世界に入ってしまうというファンタジー短編。これはキレがいいです。あとは意外なトラップを仕掛ける「フローリアン」、家自身が感情を表現してしまうというSF「いっときの喝」もいい。短編よりショートショートに近い分量のほうが、上手いと感じる作品が多い気がする。
長編でも短編でもとにかく出だしの上手い作家。読みたいと思わせる。そしてどれもその出だしを越える意外性に満ちた展開が待っている。なんとなく浮いたラストで終わる短編も確かにあるのだが、でもそれでも躊躇なく次の作品を読みたくなる。中毒性の高い作家だ。
さてもう残りはアマゾンにでも頼むしかないかな。