ON、KK、野茂・イチロー


 少し前の話だけどさ、近所をうろうろしてた小坊主とキャッチボールをすることになったんだ。小坊主は小学5年だったか6年だったかそれくらいなんだよ。でね、しばらくしたらピッチャーをやってみたいとかいうから、僕はしゃがんで小坊主の投げる球を受けることにしたんだ。そしたらね、この小坊主はなかなかいい球を投げるんだよね。まいっちゃうよね。で、こういう小坊主ってのは、のっけから全力投球すんだよ。まったくびびっちゃうよね。肩慣らし的なステップなんて不必要なんだよね、子どもって。



 でさ、なかなかいい球を投げるねと褒めると、小坊主はフォークを投げたいとか言うんだよ。まいっちゃうよね。真っ直ぐをより速く見せるためにフォークを覚えようという貪欲さをみせるんだよ。で、しばらく練習してみたんだけど、器用に習得するわけさ、フォークボールを。もうね、子どもって生き物の成長は秒単位で進行しているんだよ。で、一区切りついたところで僕はさ、よし、これからも野茂みたいなフォークを投げられるように練習しなよ、ってアドバイスしたんだ。そしたら、ノモって何だ、とか言うんだよ。野茂英雄だよ、メジャーに行ったピッチャーだよ、知ってるだろ、トルネード投法、とか説明して、実際にトルネード投法の真似をやって見せたんだけど、なんだそりゃ、そんな変な投げ方なんか知らないよとか言うんだよ。こりゃもう青天の霹靂って言っても過言じゃないくらいの出来事だね。


 つまりさ、僕が言いたいのはこういうことだよ。今の小学生は野茂英雄を知らないんだよ。


 時代というものは怖いよね。でもよくよく考えてみるとさ、今僕に子どもができたとして、その子どもが野球をはじめたとしても、イチローの活躍を目の当たりにすることなく育つわけだよ。で、中学高校くらいになると、また親父はイチローイチロー言ってるよ。いつの時代の話だよ、そんなの知らねーし。とか、ぶーたれるんだろうね。


 つまりさ、僕はV9時代のことはまったくわからないわけだけど、もう十何年かすれば、こういうニュースで、ぽっかりと心のどこかをえぐられるような気持ちになる日がくるんだろうなと思ったわけさ。

◆V9戦士 元巨人の土井正三氏死去<イザ! (2009.09/25)


 プロ野球、元巨人の土井正三氏が死去したことが25日、分かった。67歳だった。
(中略)


 土井氏は昭和17年6月28日生まれ、兵庫県出身。兵庫・育英高−立教大を経て、40年に巨人入団。二塁手として巨人の9連覇に貢献。53年に引退後は巨人のコーチや、オリックスの監督などを務めた。