現代文の参考書の歴史(3)

 国語学者の書いた現代文の本としては、遠藤嘉基渡辺実(両氏とも京都大学名誉教授)の書いた『現代文解釈の方法』(中央図書)と『現代文解釈の基礎』(中央図書)とがあります。文体判定などのマニアックな内容となっています。比較的短い文章を取り上げて精密に分析するのが特徴です。面白い内容ではありますが、入試には役には立ちそうもありません。教師や文体論的に文章を解析してみたい方にお薦めです。私もこの本は、国語学や国語教育の専門の教授方から進められました。
なお、遠藤嘉基訓点語の研究で知られた大家で、渡辺実は文体論や構文論で有名で、専門書としては『国語構文論』(塙書房)、『平安朝文章史』が代表作で、一般書としては『大鏡の人々』(中公新書)という名著があります。渡辺実は、国語学と文学と多岐にわたり業績をあげた学者ですが、弟子の育成は苦手だったようで、京都大学教授のころも、上智大学教授のころも、ほとんど弟子で大成している方はいません。

現代文の参考書の歴史(2)

長谷川泉という近代文学の大御所(森鷗外の研究で有名)で、「医学書院」を設立した人物がいました。晩年の長谷川泉にお目にかかったことがありますが、独特の雰囲気のある方でした。長谷川泉は、現代文の教育についても理論書を書いたりしていました。その理論の実践としては、『チャート式・現代文』(数研出版)があります。その本は、作品を読み味わうタイプのもので、近代について考えさせるという現在の入試に即したものではありません。しかし、文学史・小説・文芸評論などはどれもしっかりとした文章で、一読の価値はあると思います。長谷川泉がこの本を書いたころは、文芸評論がよく出題されていたので、問題がなかったのでしょうね。一昔の現代文の参考書といえるでしょう。研究の仕方も、まだ作品・作家論のころのものなので、現在のように文学・歴史学社会学の融合としてとらえるものではなかった時代なので、ある意味で平和な時代だったともいえます。近年の近代文学研究は、さまざまな知識が要求されるので、幅広く勉強することが必要です。