はじめに 『旧約聖書』(The Old Testament)あるいは『ヘブライ語聖書』と今日呼ばれるテクスト群*1。その「非神学」的な批評研究は、スピノザ(1632-1677)などの先駆的な仕事を経て、18世紀啓蒙の時代に始まったという*2。 いわゆる「モーセ五書」(創世記、出エジプト記、レビ記、民数記、申命記)――旧約聖書の冒頭を飾り、ユダヤ教においては「トーラー(律法)」と呼ばれ最重要視され、イスラム教でも啓典として扱われている――は(伝承と違って)モーセが書いているはずがない。この直観がまず、テクスト分析によって裏付けられた。じゃあ誰が、というとスピノザはエズラ記の祭司エズラを持ち出して…