大暮維人は司馬遼太郎からも影響を受けているらしい


天上天下 1 (ヤングジャンプコミックス)


ファンタジーコミック大賞:大暮維人先生インタビュー - 集英社
http://www.shueisha.co.jp/fantasy-taishou/oh_great/

――子供の頃に好きだったマンガや映画作品を教えてください。


リングにかけろ (1) (集英社文庫―コミック版)大暮 もちろん『少年ジャンプ』世代なので『北斗の拳』などは読んでいましたよ。原点といえば『リングにかけろ』かな…僕のマンガのハチャメチャなところなんかは影響を受けていると思います。
 映画で好きな作品はいろいろありますが、『ターミネーター』など、何となく自分の作風と似ていますね。全然違うものでは『ニューシネマパラダイス』。初めて映画を観て泣いたのがあの作品です。

なるほど、やはり格闘マンガに影響を受けて「天上天下」とか描かれているんだね。


――大暮先生が考える“ファンタジー”とは?またファンタジーを描く上で何が必要だと思いますか?


大暮 ファンタジーの根っこにあるのは“大嘘”だと思います。現実にはないものですからね。でもないものだから細部のリアリティが重要。根っこの部分の大嘘をリアルにするのは細部(ディテール)であって、その細部を描くのに必要なのは知識だと思うんですよ。それは絵も話も同じで。
 リアルな物語って、現実の出来事の方が圧倒的に強くて、どうしても敵わない。でもファンタジーはファンタジーであるがゆえに、「リアルを超える何か」があると思います。リアルではないからこそ、人間のある意味でのリアルさを描ける。リアルを超えられる。
 あとは情熱ですね。ファンタジーを描いてくる新人の情熱って、“かつて自分が読んだものへの情熱”の場合が多い。それはそれで重要だけど、それ以上に自分がやりたいことを具現化するための情熱の方が重要だと思います。リスペクトした上で、さらにその作品を超えたいという情熱、というか…。そういう毒というか、野望のようなものが希薄な人が、新人の場合は多い気がします。


――具体例でいえば、先生が『天上天下』を描かれる上で身につけた知識にはどのようなものが挙げられますか?


大暮 最初は格闘マンガでしたし、元々好きだったので格闘技についてはたくさん調べました。結局あまり使わなかったんですけどね。それは少しもったいないと思っているので、いつか使いたい。過去編では、もともと僕が司馬遼太郎作品が好きで、高校生くらいの頃からいろいろ調べるようになったんです。いつか歴史モノをやりたいという思いもあったので、ちょっとやってみようかなって。今もまだ知識だけは蓄えているという感じです。いつか本格的なものもやりたいですね。


項羽と劉邦 (上) (新潮文庫)――話が逸れますが、司馬作品では何がお好きですか?


大暮 『燃えよ剣』とか。あとは『項羽と劉邦』大好きですね。張良だとか韓信、いいですね(笑)股くぐりからなり上がって、最後は殺されちゃうんですけどね。

え、司馬遼太郎の影響があって「天上天下」の過去編を描いてたの? 僕はこの過去編になってから「天上天下」に見切りをつけたんですが…。



それにしても、この“リアルとファンタジー”の話って、どの作家さんも重要だと言ってるよね。以下で荒木飛呂彦も同じようなことを言ってます。


ファンタジーコミック大賞:荒木飛呂彦先生インタビュー
http://www.shueisha.co.jp/fantasy-taishou/araki/

――リアリティとファンタジーのバランスを保つために気をつけていらっしゃることは?


荒木 僕の場合は「日常を絶対に捨てないこと」です。どんなキャラクターでも、お風呂には入るだろうとかケータイは持っているだろうとか、何を食べているかとか、そういうのが非常に重要。日常のリアリティがあるからファンタジーがあるのに、日常を捨ててしまうと差が分からなくなっちゃうから。
 だから、たとえば作品にロボットを描くにしても、ちょっと考えて欲しいんですよね。本当にその世界にいる感じが欲しい。ただガンと出てくるんじゃなくて、樹の陰から出てくるとかね。そういうのってシュールな感じがするんですよ。影が伸びて、ビルに映ってから出てくるとか。
映画の『トランスフォーマー』も、車が変形する時に、車の大きさで変形していって欲しいんですよね。それより大きくならないで欲しいんですよ。「明らかにちょっと身長おかしいだろ」みたいな。そういうリアリティはこだわりですね。
 新人の場合は特に、そういう分かりやすいリアリティを、段階を踏んで表現して欲しいです。稀に画力で(作品に)入っていける場合もありますけど…。


――以前、別のインタビューで「必ずスタンドに弱点を作る」とおっしゃっていましたが、最初から「そうするべきだ」という直感があったんですか?


バビル2世 (1) (秋田文庫)荒木 そうですね。僕は横山光輝先生の『バビル2世』が好きなんですが、戦う敵に必ず弱点があるんです。超能力を使うんだけどだんだん疲れてくるとか、そういうところを描きたかった。長所がある人は、それが裏返しで必ず弱点になるっていう発想が基本にあります。逆に、一見力が全然ない人でも、ある一点だけ強いとか。


――それってすごくリアルですよね。


荒木 スタンドがファンタジーなら、そういう部分がリアリティですね。

こういうのってマンガだけじゃなく小説とかもそうなんだよな。やはりその虚像と実像の対比というものが、作品の面白さを形づける最大の要素なのでしょう。



【関連記事】


→月別よく読まれた記事ランキング
→Twitterで更新情報を配信しています
→Facebookで更新情報を配信しています